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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第二十一話 3人での国境越え

翌朝、三人は昨日の疲れをすっかり落として目を覚ました。
ゾロが探してきた農家は、赤ん坊から老人までが揃った20人以上の大所帯で、3人の間に流れていた気まずい雰囲気は、この大家族が発する賑やかを通りこした喧噪に見事なまでに粉砕されて、なくなってしまった。
この家のおかみさんは、初めは母屋の西側にある屋根付きのテラスに縁台やリクライニングチェア等を3台並べて、そこで3人を寝かせるつもりでいた。しかし、3人の中にタビーのような若い娘がいるのを見て、タビーには自分の二人の娘の部屋のベッドで一緒に休むことを許してくれた。
その他にも十分な量の食事と、馬にやる水と飼葉も快く分けてもらえた。これはゾロが差しだした、サニー号の仲間から懐に入れてもらった路銀が効果を発揮したせいでもあった。
日が昇ってすぐに出発する三人に、おかみさんは朝食用の大きなパンとローストビーフの塊とリンゴが入った袋を渡しながら、くれぐれも用心するように警告した。
「昨日、この近くで大の男が妖怪に襲われる事件がふたつもあったそうだ。なんでも魔法の剣を操る妖怪らしくて、そいつがひと睨みするだけで、どこからともなく大きな剣や目に見えない光の剣が現れて次々と人を襲うって話だった。昨日は10人以上が一瞬で手足をもがれて、しかもその後、その妖怪は地面に転がった手足をひとつひとつ拾って、笑いながら縫い合わせたんだってさ!私はね、この話を聞いて全身の毛が逆立ったよ。あんたらも十分にお気を付け。」

3人は時々休憩を取りながら馬を駆って国境を目指した。不意に林が途切れて、草原に出た。高い樹木がないせいで、なだらかに隆起したり、ところどころへこんだりしている地形の形がよく分かる。
「近くに追手がいたら、おれ達の姿が丸見えだな」
馬を並足で歩かせ、周りに広がる草原をぐるりと見渡しながらゾロが言った。
「遠回りして木が生えてるところを行くという手もあるが…面倒だ」
ローが言葉の通り、面倒くさそうに答えた。
「それもそうだな。先は長い」
ゾロがあっさり同意した。
タビーは二人の大胆さに圧倒されながら、黙ってあとに付いていた。もしも追手に見つかっても、彼らが何とかしてくれるだろうと思いながら。それに移動距離が短いほうが、馬の負担も少ない。
あれから追手は現れていなかった。諦めたのだろうか。そうであっても無理はないと、タビーは思った。
正午近くになって、遠くに小さな町が見えてきた。タビーには見覚えのある町だった。
「ああ、私達、もう国境を越えていると思うわ!」
タビーが嬉しそうに声をあげた。やっと自分が生まれた国に帰って来たのだ。国境線は山の尾根だから、多分、さっき超えた大きな丘の天辺がそうだったに違いない。
国境を越えたことで追手の心配はなくなったと考えて良かった。まさかアルも…今はバスコニア王国のドナリス公である彼も、ガストーニュ王国の中にまで追手を出すことはしないだろう。
そして、これからが一番大変なのだろう。自分はやっとスタートラインに立ったばかりなのだ…町を見ながら、タビーはそんなことを考えた。
「国境を越えたってのがそんなに重要なことなのか?」
ゾロが、考え事をしているタビーに訊ねた。
「少なくとも、追手の心配はもういらないと思うわ。ここからだと見えないけど、あの町から南に少し行ったところに大きな屋敷があるの。そこに行くつもりよ」
「そこが最終的な目的地なのか?」ゾロが訊ねた。
「いいえ、そうではないけど、そのお屋敷は私が子供の頃に家庭教師をしてもらったルナン先生のお屋敷なの。ルナン先生ならきっと力になってくれると思う」
「ふうん…」
ゾロは何か言いたげだった。ゾロがローをちらりと見ると、無表情で何を考えているかは読み取れなかった。

「リュシー」
重厚な石造りの屋敷の、広い裏庭にあるハーブ園で仕事をしている馴染みの若い侍女に、タビーが声をかけた。馬を引き、後ろにローとゾロを従えている姿はさまになっていた。
「まあ!」と驚きの声をあげるリュシーの二言めを遮るように、タビーは言葉を続けた。
「私はタビーよ。二人のお客様がいるの。ルナン先生はいらっしゃる?」
この頭の良い侍女はすぐに事情を察した。目の前にいらっしゃるのは、オクタビア様ではなくタビー様なのだ。多分、この二人に明かしていないことがあるのだろう…。
「ええ、ご在宅です。タビー様、よろしければ表の玄関からお入りください。馬はこちらでお預かりします」
「ありがとう」
3人は玄関から屋敷に入って客間に通され、タビーはかつての恩師と対面することができた。
「タビー!一体どうしたんだ?」
この館の主人であるルナンは、トム・クルーズを思わせるような端正な顔立ちの40代後半の男性で、客間に入ってくるなりタビーに駆け寄り、父親が娘を慈しむように肩を抱いた。そして、ローとゾロに視線を向けて「この方たちは?」とタビーに訊いた。
「この二人はローとゾロです。私が無事にここに来ることができたのは彼らのお陰です」
タビーはルナンに二人を紹介すると、うっすらと笑いを浮かべ、はっきりした声でいきなり言った。
「二人には、ここで帰ってもらおうと思っています」
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