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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第十七話 誘拐と脱出

ローを振り切って始発列車に乗った後、タビーは帽子を目深にかぶり、四人掛けの座席に座ってずっとうつむいていた。
始発列車に乗る客はさほど多くなかったが、車内には早朝らしい、一日が始まる雰囲気で満ちていた。列車が駅に停まるごとに、何人かの乗客がおりて、何人かの乗客が乗ってきた。
四つめの駅を過ぎると、すぐにバスコニア王国に入る。タビーは終点のツールーズまで行くつもりだった。列車はいつも通りに運行しており、このまま平穏に終点まで行き着くだろうと思われた。
しかし、四つめの駅を過ぎて30分ほど経った頃だろうか。列車が急ブレーキを踏んで停まった。一番後ろの車両にいた車掌が、先頭車両に大急ぎで走って行く。
そしてしばらくしてから、さっきの車掌が大声で乗客に状況を説明しながら、車内をゆっくり歩いてきた。
「線路の上に木が倒れて進路をふさいでいます。倒木を取り除くまで数時間ほど停車する見込みです」
車掌は次の車両に進むたびに、同じことを繰り返した。
タビーは心臓が大きく脈打つのを感じた。まさかとは思うが、バスコニア王国に入ったとたんに列車が停まったのは…。
しばらくは何の動きもなかったが、数人の乗客が、勝手に列車のドアを開けて外に出ている様子が窓から見えた時だった。
タビーの斜め向かいの席に座っていた若い男が、窓の外を見ながら気安い感じで話しかけてきた。三つめの駅で乗車してきた客だった。
「確かに、街がすぐ近くにあるのに、列車の中で何時間も待っててもしょうがないよな。俺たちも列車を降りて歩いて行かないか?」
「…」
タビーは顔を上げて、向かい側に座っている男の顔を見た。男は笑顔を浮かべ、明るい感じでさらに話しかけてきた。
「そうしようぜ、オクタビア」
タビーは心の中で唇を噛んだ。周りの乗客には、タビーとその若い男は、列車の中で待ち合わせをしていた連れ同士に見えただろう。

タビーは逆らわなかった。連れを装った男の手を借りて、列車の高いドアから飛び降りて車両の外に出た。ここでさらに若い男がもう一人、何食わぬ顔をして合流してきた。
「列車が停まるなんて、ついてないな」
「すぐに街に着くさ」
二人の男は普通の乗客を装うためにたわいもない話しをしながら、タビーを連れて丘を登った。
途中、他の乗客から離れた時に、男の一人が低い声でタビーに話しかけた。
「オクタビア様、荷物をお持ちしましょう」
これは思いやりというよりも、タビーに山道を早く歩かせるためだった。タビーも低い声で答えた。
「いいえ、自分で持つわ」
男達は丘を下る道中で、山道からそっと外れて林の中に入った。別の山道に入り、さらにしばらく進むとちょっとした空き地があって、そこに二頭立ての馬車が停まっていた。その箱型をした馬車は、タビーに牢獄を連想させた。
御者台に座っていた男が、こちらに気付いて手をあげた。
行動を起こすなら今だと思った。馬を奪って逃げよう。相手は三人。能力を使えば、きっと上手くいく…。

ローとゾロは、林の中で怪我をした三人の男が倒れているのを見つけた。
「これは…」
ゾロがそのうちの一人の側にかがんで話しかけた。
「おい、一体どうしたんだ」
「うう…」
よく見ると、周りの木の幹や枝に傷が付いている。地面にも棒か鎌で引っかいたような跡がいくつも付いていた。
ローも怪我人の側にかがみこんで、服をめくって傷を確かめた。男の体に付いていた切り傷には見覚えがあった。
「なるほどな」
ゾロも既にローと同じ事を感じ取っていた。少し離れたところに、馬車が横倒しになって転がっている。馬の姿はない。
ローは怪我人に向かって容赦なく言った。
「悪いがアンタらに聞き出さなくちゃいけねえことがあるらしい。体をバラバラにされたくなかったら、さっさと吐け」
「ひ、ひいいい~」

バスコニア王国の郊外に建つドナリス公の別邸では、ドナリス公が書斎に閉じこもっていた。時々、こんなふうにごく近い侍従さえも入室を禁じられる時がある。
ドナリス公は御年21歳のすらりとした体形の美男子で、知勇兼備かつ性格も温厚で思いやりが深く、次期国王として期待されている人物だった。
だが、この好人物であるはずのドナリス公は、最近、冷酷で苦しげな表情を浮かべることが多い。
隣国のガスケーニュ王国の若い王妃が、国王の名代で、伯母が嫁いだ遠方の国で行われる式典に出席するために出国したのは3か月前のことである。公には、式典出席後に各友好国の訪問と外遊のために足を延ばし、帰国するのは出発してから約半年後とされている。しかし、これは表向きの話しである。
本当の目的は、国王が何らかの使命を王妃に託したか、または国外に王妃を逃がそうとしたのか…それはガスケーニュ国王または王妃に直接聞いてみないと分からない。
今朝、国外にいるはずの王妃が、マルゼイヨ港から内陸部に通じる列車に乗ったことが報告された。三人の部下に王妃の誘拐を命じたが、計画が遂行されたという報告はいまだにない。
計画に何らかの狂いが生じたに違いなかった。次の手を打たなければいけない。
しかし、ドナリス公は自問していた。彼女をこんなふうに追いつめてどうするのか…と。
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