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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第九話 鬼哭の思い

(あの女があんなに怒るとは思わなかったぜ…許してくれるだろうか…)
あの時、病人の容体が重いと聞いて、ローも焦ったのだ。おんぶやタンカで運ぶよりも、瞬間移動させた方が病人の負担にならないと考えての行動だったが、早計だったらしい。
すっかり落ち込んでいるローは、自分の側にある鬼哭をじっと見て、鬼哭が動いた時のことを思い返した。
ローは女にビームで切られて倒れた後、しばらくしてから意識を取り戻していた。そして、鬼哭があの女のところに飛び跳ねて行く光景を、しっかりとその目で見ていたのだった。
(鬼哭が動いたのはあれで何度目だっけ?確かにコイツは妖刀だが、刀が自分で動くなんてあり得るのか?)
ローが鬼哭を手に入れて以来、鬼哭が動き出したことなど一度もなかった。
(いや、目の前で起こったことは否定しちゃいけねえ。鬼哭が動くようになったのは、あの女が現れてからだよな…あの女は一体何者なんだ?)
病人がナミやチョッパー達に付き添われて医療室に入って行く時、鬼哭は病人の手から離されてローの元に戻ってきた。
(鬼哭があの女に惚れたのか?それで動き出した…まさかな)
ローはため息をついた。
(あの女に鬼哭を奪われそうだぜ…)
ローの思考はぐるぐると回る。鬼哭のことを考えた後は、また病人のことを考え始めた。
(あの女の具合は大丈夫なんだろうか…)

さっきあんな事件が起こったにもかかわらず、サニー号にはすでに静かな時間が流れていた。
チョッパーは医療室の隅に仮設ベッドを置いて、仮眠をとりながら病人に一晩中付き添っている。病人も今は落ち着いて眠っていた。ナミとロビンは女子部屋で休んでいる。朝になったら、どちらかが病人の看病を交代してチョッパーを休ませなければいけない。見張り役だったブルックとジンベイは、ゾロとフランキーに交代して男子部屋で休んでいる。ルフィーとウソップとサンジも同じく男子部屋で休んでいるが、男子部屋では、彼らが寝入る前にこんな会話がされていた。
「あの客の風邪が良くなったらよ、口から炎吐くとこ見せてもらおうぜ」
「うん、それは俺も見てえな」
「お前ら、サニー号に火が燃え移ったらどうすんだよ…」
「わしはビームをもう一回見たいのじゃが」
「実は俺もだ」
「私もでございます。ヨホホホホ~」
 …

そしてもう一人、何かに思いを馳せる存在がサニー号にあった。それは、鬼哭である。
普段は静かに沈黙を守っている鬼哭だが、その内には細やかな感情と優れた思考能力、それに妖刀が故の妖力も秘めていた。そのことに気が付いたのは、歴代の鬼哭の持ち主の中でも数は少ない。ローも気が付いていない所有者のうちの一人であった。
今から約100年前、鬼哭とビムビムの実は同じ人間のものだった。その人間が死んだ後、鬼哭は別の人間の所有物になり、ビムビムの実は世界のどこかで新しい実として再生して、離れ離れになった。鬼哭にとって、それ自体は何ら不満のあることではない。
しかし今日、鬼哭は偶然にも、100年ぶりにビムビムの実の能力者に出会った。そして、自分でも思いもかけずに、懐かしさからあのような行動…刀が自ら動くという行動をとってしまった。これが今回の「鬼哭が動いた事件」の真相である。
また、ゾロとローが驚いていた、ビムビムの実の能力者の女が、鬼哭を軽々と持ち運んだことについてだが、これは鬼哭が、女が自分を持ち運びやすいように、自らの妖力で「ちょっと宙に浮いてあげた」ためであって、女が怪力の持ち主だった訳ではない。ちなみに、ローに持ち運ばれる時は、鬼哭がこのような配慮をした事は一度もない。
ただ、町で女が、回転しながら飛んできた鬼哭を片手で受け止めたことについては、鬼哭の関与はない。
今夜、鬼哭は人知れず呟いていた。
(ビムビムの実に100年ぶりに会って、つい、この世の刀にあるまじきことをしてしまった…)
鬼哭のこの呟きは、鬼哭に対してその人が持っているイメージで変わる。鬼哭に老人のイメージを持っている人には、
(昔馴染みに100年ぶりに出会えてのう…。思わずその者の足を止めてしまったわい)
と聞こえるし、10歳の少女のイメージを持っている人には
(お友達を100年ぶりに偶然見つけて、うれしくてつい、あんなことしちゃったの。びっくりしたかなあ)
と聞こえる。
鬼哭はさらに、
(ビムビムの実の能力者は助けを求めていた。このことで、今の私の主人に一肌脱いでもらってもそんなに悪くはないでしょう。これも縁というものです)
等と、少なからず自分勝手なことも言い放った。
先の島で、女の意識に呼びかけて、ローや麦わらの一味と行動を共にするように助言したのは鬼哭だ。女がローをビームで一刀両断した時も、鬼哭が女に語りかけてなだめて、その場を収めた。
(ビムビムの実にまた会えて良かった。今は別々の主人のもとで生きているけれど…)
鬼哭は昔のことを懐かしく思い出す。ビムビムの実は植物だから何も語らない。しかし、鬼哭には昔の相棒に再会できたことを、人知れずではあるが、ことのほか喜んでいた。
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