お茶子の場合
「ん~。えぇ、朝やわ」
伸びをしながらなまった関西弁を発した麗日お茶子は少しぼぉっとした目をこすりながら洗面へと向かう。
冷たい水を顔にかけるとすっきりとした表情が鏡の中から伺える。
「よし」と誰も聞いてないのに声が漏れる。
部屋に戻り、カレンダーで今日の予定を大まかに確認する。
今日の日付のところにはリューキュウと書かれていてその隣には(ト)と記されている。
これはインターン先でお世話になっているリューキュウ事務所でトレーニングを行うっということだ。
今日は同じくお世話になっている蛙吹梅雨は見回り組なので行動は別だ。
なので、インターン事務所への行く向かう時間もバラバラなのだ。
職員室にインターン先へ向かう旨を伝えてリューキュウ事務所へと向かう。
会う人会う人に挨拶を交わして事務所の奥の扉をノックすればどうぞと中から通される。
中にはリューキュウ本人が資料に目を通していた。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
フンスと無意識に顔で表現していたようでリューキュウに「ふふふ、おはよう。今日も元気ね」と笑われた。
かぁと顔が赤くなった気がしたが顔を振って熱を逃がす。
「今日はトレーニングの日ね。プログラムをサイドキックに渡してるから、それに従ってね」
にっこりと笑いながら支持をくれるリューキュウからは少し披露が見て取れる。
「あの…」
「ん?」
「大丈夫ですか?疲れがたまっているような…」
目をぱちくりとさせたリューキュウはまたフフフと笑う。
「高校生に心配されるようじゃ、私もまだまだ未熟ね。大丈夫よ。ありがとう」
きっと子どもである自身にはわからないことだろ。それをうまくごまかされお茶子は「失礼しました」と頭を下げて部屋を後にした。
サイドキックの人たちからの指示に従う。個性を伸ばす訓練と似ていて、内容はここにいるサイドキック10人をどれだけ長く浮かせてられるかというものだった。
浮かせている間のサイドキックたちはお茶子に浮かされたまま各々訓練をしていた。
そしてお茶子は自分にも触れて自分も浮かせた。
自分を浮かせるのが一番しんどいのだ。
それをどれだけ負担が減らせるかが大事なのだ。
限界になると事前にサイドキックたちに合図を送って降ろすと、準備されていたバケツに吐瀉物を吐き出す。
その間、サイドキックたちが背中をさすってくれる。が、もの凄く情けない。
「すみません。大丈夫です!もう一回お願いします」
ぐいっとタオルで口元を拭いトレーニングの続きを懇願する。
やめたほうがいいと止めるサイドキックもいたが、お茶子はがんとしてトレーニングを続けることを志願した。
何度吐いても続けるつもりだ。
「私もっと強くなりたい。みなさんと同じところへ立てるように」
いや、それ以上を目指さないと同じクラスで誰よりも頑張っている彼に恥ずかしい。
思い出しただけでかぁと血が顔に集中しだす。
それをブンブンと顔を振って払いのけ、再び集中する。
結局サイドキッカーたちが折れてお茶子のトレーニングは再開された。
終わる頃には、ヘロヘロになったお茶子はサイドキックの一人に肩を支えられながら歩いていた。
「すいません…」
内臓だけだけじゃなく、頭ががんがんする。大人が二日酔いになれば頭が響くように痛くなり、胸のあたりがぐらぐらするというのをよくテレビとかで見たりするが、今お茶子はその例えの極限状態だった。
事務所の椅子に座らされたお茶子はコップ一杯の水を差しだされゆっくりと飲む。
「ありがとうございます」
「お茶子ちゃんは根性あるなぁ。何をそんなに頑張るの?」
サイドキックの女性の人が苦笑しながら横に座って同じように飲み物を飲んでいる。
「ウチのクラスに人一倍頑張る男の子がいて…。そのその男の子に追いつきたいんです」
自然と本音が出ていた。
きっとクラスメイトだったらこんなこと離せない。
ここは学校という決められた敷地内から出た外の世界だ。
だから少し気が緩んでしまっていたのかもしれない。
「…お茶子ちゃんはその男の子のこと好きなの?」
いつか同じクラスの女の子たちと女子トークを交わした際に同じような質問をされたことがある。
その時は顔に熱が集まったし、何が言いたいのか分からない言葉が口から零れていたが、何故か今はスッと頭が冷える程冷静だった。
「多分…そうだと思います…」
「……」
水を見ながら頬を染めるお茶子をサイドキックはお姉さんのように笑った。
「そっか…。なんかごめんね?変なこと聞いちゃって」
サイドキックの女性はお茶子の頭をよしよしと撫でてくれる。なんとなく恥ずかしくなりお茶子は下を向く。
お茶子が断言しなかったことを気づいていたサイドキックの女性は『複雑な乙女心ってやつね』と目の前にいる乙女を内心で応援していた。
寮に帰ってきたお茶子は晩御飯を食べ終えて自分の部屋に戻る。
椅子に座り宿題をしながら今日、サイドキックに言われた言葉を思い返す。
「その男の子のこと好きなの?」
多分何気なく聞いたのだと思う。だけど、サイドキックの女性はお茶子の反応にニッコリと笑って頭を撫でてくれた。
「あんな女性になりたいなぁ」
だが、その前にとお茶子は思う。
「私はヒーローになるんだ」
グッと拳を握る。
でないと、彼、緑谷出久ことデク君に顔向けができない。
そのために私はここにいるんだと強く自分に言い聞かせた。
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