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ヒーローの卵たちの休日

原作: 僕のヒーローアカデミア 作者: たかじゃー
目次

飯田の場合


パチリと目が覚める。
むくりと起き上がり、頭上の時計を確認すれば、アラームをセットしている時間の5分前の時刻をさしている。
そのことに満足しながら飯田天哉は布団をきれいに整えてから抜け出す。
寝巻からTシャツと短パンに履き替えてから顔を洗って部屋を出た。
寮の廊下は真っ暗でシンと静まり返っている。
その中をゆっくりと進み、ロビーを抜けて寮を出ればまだほの暗い空が出迎えてくれた。

伸びを一つしてからストレッチを開始すると程なくして、寮の扉が開いた。
そちらに目をやればクラスメイトである緑谷出久が出てきた。
飯田と同じようにランニングするような恰好である。

「おはよう、緑谷君」

「おはよう飯田君。はやいね」

人がよさそうなニコニコ顔で近づいてきた緑谷。
挨拶を交わし互いにランニングに行く話となったので一緒に走ることになった。
5キロ程一緒に走ったところで勝負をする話になって二人でグラウンドに向かう。
勝負はトラック一周だったのだが、勝負の決着の行方は当事者たちでは決めれないほどの均衡した勝負だった。

勝負後は寮に入って分かれて部屋に戻ってフーっと息を吐く。

「緑谷君と同着か…」

飯田は入学試験の時の緑谷を思い出していた。
始めは自分より劣っていると心のどこかで感じていた。
だが、入学試験で受験者たちが本当にヒーローに向いているかの本番試験で緑谷は誰よりもヒーローだった。

自己犠牲をものともせず、人のために立ち向かっていった。
それの光景を今でも鮮明に覚えている。
試験だからと逃げ出した自分を恥じたことも。

入学後は個性の扱いに慣れていないような緑谷に疑問にも思ったが、日に日に彼は成長していった。
その成長の糧はいつも「誰かのため」という緑谷の心情が伺えた。

「俺も負けていられないな」

良き友人、良きライバルとして緑谷に負けないように鍛錬を積まなければと強く思った。





トレーニングを終え、予習を終えた飯田はとある病院へと向かった。
病院につき、目的の病室をノックすると中から「どうぞ」と促される。
その言葉に律儀に「失礼します」と声をかけながら入ると、病室のベッドには飯田の兄である飯田天晴が座って出迎えてくれた。

天晴は元ヒーローで飯田が継いだ「インゲニウム」だった人だ。
ヒーロー殺しステイン襲撃時に重傷を負い、ヒーローは引退した。

「久しぶり。元気してたか?」

「兄さんこそ。調子はどう?」

互いに穏やかな時間を過ごす。
お互いの近況報告やあった出来事などを会話に織り交ぜていく。

「文化祭、見に行きたかったな」

つまらなさそうに話す兄に苦笑する飯田。

「仕方ないよ。検査の日と被ってしまったんだから」

自分の中では文化祭は大成功と思っている。
あの協調性のない爆豪でさえクラス出し物の中心であるバンドメンバーとして文化祭を盛り上げたのだ。

誰がなんと言おうと自分の中では大成功だ。
文化祭が終わったあとのクラスメイトたちの楽しそうだった表情を思い浮かべる。
もちろん、天晴にもきてもらいたかったのだが、体が第一優先だ。

「来年は必ず行くよ」

「あぁ」

来年は今年より更に内容をよくしないと、と心に刻んだ飯田だった。



兄に「また来るよ」と別れを告げ病院を後にした。
飯田は用事がなければどこかに立ち寄るタイプではないので、そのまままっすぐ寮へと戻る。

寮に入って棚の引き出しを開けるとつい先月まで足に生えていたマフラーがガラリと出てきた。
それを一つ一つ手に取って手入れをしていく。

更なる高みを目指すために己自身で引き抜いたものだ。
生まれてからその時までずっと一緒だったのだから、使わなくなった今でも手入れは怠らない。
マフラーが新しいのが生えて更に早くなった飯田だったが、今朝、緑谷はそんな飯田と同着だった。
それはつまり、緑谷も個性が伸びてスピードアップしているということだ。
スピードだけではないだろう。
恐らくパワーも上がっているはず。

「負けてられないな」

良きライバルとして緑谷に負けたくない。

「これが終わったらトレーニングにいくぞ!」

この後の決意を固め飯田はマフラーの手入れを手を抜くことなく1本1本丁寧に磨き上げた。

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