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ヒーローの卵たちの休日

原作: 僕のヒーローアカデミア 作者: たかじゃー
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轟の場合


朝は朝食に限る。
そう鮭の塩焼きを口に運びながらぼぉっと考える。
絶妙な塩加減とお米の相性が良い。
轟焦凍はぼんやりしながら黙々と朝食を平らげる。

『昼は蕎麦にしよう』

今朝食を食べているというのに、もう既にお昼のメニューのことを考えている。
食べ終わる頃に寝起きの頭が覚醒してきて、今日一日のスケジュールを脳内で確認する。

表情を変えることなく轟は食べ終わった膳を片付けテーブルから席を立った。

普段着に着替えて外出許可証をもらい、目的の場所まで電車を使って向かう。
目的の場所は街中から離れており、のどかな場所だった。
そんな場所に大きな総合病院が佇んでいてそこだけ、かなりの人が集まってきているようだった。
そんな建物内に入ると轟は慣れたように病院内に進み、とある病室まで目指した。

目的地である病室の前に来て、札を確認すれば「轟 冷」とかかれた札が相も変わらず、掲げられていた。
ノックをして病室に入れば、轟の母親が穏やかな表情で迎えてくれた。

「焦凍、いらっしゃい」

「おはよう。お母さん」

お互いに挨拶を交わし母がいるベッドの横に椅子に腰をかける。
穏やかな時間だった。
こんな風な関係になるまで何年もかかってしまった。
自分の存在が母を傷つけてしまっていた。
だけど、自分の中で決着をつけたあの日、母は「焦凍が何にも捉われず突き進むことが、幸せだし救いなの」と涙ながらに教えてくれた。

謝り続ける轟の頭を昔のように何度も撫でてくれてた。

帰り際母に「またいらっしゃい」と声をかけられ、「また来るよ」と返した。
病室を出て前を向く。

ふっと頭に緑谷のことが浮かんだ。
母との和解のきっかけをくれたのは緑谷だった。
あの頃と比べ、彼との関係も良好だと轟は感じている。
同じヒーローを目指す者同士、切磋琢磨しあっている。

「今度、何か奢るか」

ポツリと呟いた轟はフッと笑って病院を後にした。


雄英に帰る前に朝に決めていたとおり、蕎麦屋に立ち寄る。
少し肌寒くなってきていたが、お気に入りのざるそばを注文し、ズルズルと食べる。
食べている間にスマホがブルブルとなり、画面にメッセージが表示される。
姉からだった。

『お見舞いに来てたなら、言ってくれてたらよかったのに』

どうやら姉も母のお見舞いに行ったみたいだ。
まぁ、結構な確率でお見舞いに行っているみたいだが。

『わりぃ。次は言う』

そう一言だけ送って再びそばを食べ始めた。



学園に帰る途中、オールマイトと緑谷を見かけた。
どうやら二人で買い物をしているみたいだった。
声をかけようとかとも思ったが、彼らは自分の知らない絆がある。
体育祭の時も、オールマイトの贔屓が緑谷だと思ったから彼に対抗心を燃やした。
そんな、轟に緑谷は頑なに拒んでいた父親譲りの能力を「自分の力じゃないか!」と己を震わせてくれた。

なんとなくわかる。
緑谷だからオールマイトが認めたのだと。
声をかけるのをやめ、二人が仲良く話しながら歩いていく姿を眺めていた。


寮に帰ると父親から電話がきた。
しかし、出ずにぶちっと切る。
だが、しつこい父親、つまり、エンデヴァーからメッセージが届く。

『焦凍ぉぉぉぉぉ!何故電話にでない!』

『用がない』

そっけなく返す轟。
しかし、本当に用がないのだから電話に出る必要がないというのが轟の考えだった。
これがクラスメイトや先生なら話は違っただろうが…。
そのあとしばらくエンデヴァーからのメッセージが続いたが、やはり緊急性がないようなので無視を決め込む。

メッセージが出ないように設定し、轟はネットで動画を開く。
それは、一人のヒーローのデビュー動画。

「大丈夫!何故って?」

動画の中で自信に満ちた笑顔で民衆に向けて男は笑っていた。
その姿に憧れた人間は多いだろう。
幼かった頃、自分の父親に隠れて憧れた。

「私がきたっ!」

お決まりのセリフを言いながら振り返ったのは全盛期のオールマイト。
平和の象徴として呼ばれる前の男の姿だった。

「オールマイト…」

今でも憧れてた気持ちは忘れていない。


そして、先の決戦。時間が経った今では神野の悪夢と呼ばれる決戦を忘れない。
忘れてはいけない。
彼がどれだけ偉大で壮大かを。

「俺もヒーローに…」

体育祭と同じセリフを口にしながら轟はまどろみの中へといざなわれた。

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