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You Are My Sunshine

原作: Fate 作者: こさき
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soul mate

今のところは表面上の平和を保っているカルデア・・・に設けられている談話室は、現在サーヴァント同士の交流あるいは憩いの場として主に利用されており、普段はわりと賑わっている。
はずなのだが、本日は何故かめずらしく閑古鳥が鳴いていた。

マスターとマシュが今後の方針を話し合いつつ仲良くエミヤの焼いたクッキーをつまんでいる以外、姿が見えるのはなにかを考え込んでいる様子の玉藻の前と、その隣でマスターからおすそ分けされたクッキーの味を無邪気に褒める金時くらいだ。ちなみにエミヤの手製だと言ってこの焼き菓子を金時に手渡した際、タマモがわずかにその表情をこわばらせたのをマスターは見逃さなかった。
それをあえて無視したのには理由がある。先日偶然エンカウントしたらしき酒呑童子と玉藻の前が、一触即発の様相を呈しているのを目撃してしまったからだ。
その場に居合わせた茨木童子から聞いた限りでは、話しかけたのも挑発したのも酒呑童子の方だという。ただし飄々として見えてもやはり鬼、執着心や独占欲がなかなかに強い彼女が本気であったとすれば、確実に日本三大妖怪同士のバトルが勃発していたはずだ。だから酒呑の意図としては、単なるからかいや暇つぶしの域を出ていなかったと思われる。金時のことも、思わせぶりな言動に反して実際は味見すらしていないという(※本人による自己申告)のだから、少なくとも今回の現界で彼をどうこうする気はないと考えていいだろう。
玉藻の前はその軽い調子や見た目からの印象と違い非常に賢い女性である。やすやすと相手の思惑に乗せられることなどそう無いのだが、おそらく先日の件を引きずっていたに違いない。
まぁ、あの頼光も酒呑童子が相手の時は特にピリピリしているし、金時と繋がりの深すぎる彼女を無視できない気持ちはわかる・・・気がする。

とにかく、このまま当人たちに任せていては大惨事になりかねない。それでも出来るだけ他人、しかも自分が召喚した英霊たちの恋愛沙汰へ首を突っ込むのは控えたい・・・と頭を悩ませていたところへ、クッキーを受け取った金時に向けられた複雑な視線である。
これは手頃な燃料となるかもしれない、と静観することにしたのだ。

「フォックスも食おうぜ。しっとりサクサクだぞ?」
「いえ、私は結構です・・・。」
「?どうしたフォックス、ため息なんてついて・・・腹でも痛むのか?」
「相変わらずデリカシーをかけらも持ち合わせない男ですねぇ。良妻たるもの自身の体調管理も万全でございます!」
「元気なら良いけどよ・・・アンタはいい女だから悩ましげな顔も美しいが、笑ってる顔のほうが俺っちは好きだな。」
「はぁ・・・ハァ?!」

さらりと投げられた台詞にきっと他意は無い。そう理解しているのに動揺してしまう己が恨めしい、と玉藻の前は思う。

「金時さんって実は、かの在原業平も真っ青のスケこましですよね・・・。」
「んなっ、なんだその根も葉もなさすぎる冤罪!こましたコトなんざいっぺんもねーじゃん!?」
「すみません、確かにちょっと違いました。誰彼構わず愛想を大安売りしてる金時さんにはむしろ八方美人・・・いえ、尻軽の方がしっくりきます。」
「ハァッ?!」
「無自覚・無意識なのがまた罪深い・・・コレは立派に有罪ですよ有罪。」
「ちょっ・・・フォックス、マジでなんかあったのか?俺で良けりゃあ話くらいは聞いてやれるぜ?」
「だっ・・・、」
「だ?」
「だからぁ、そーゆートコですってば!」
「またソレかよ?イミわかんねーじゃん!?」
「・・・誰にでも優しくて公平なのは、金時さんの美徳と言えましょう。見境のないバカではないのもキチンと承知しております。でも今は私と、私が気まぐれを起こして金時さんのために作った金時豆のぜんざいをいただいてましたでしょう?」
「おう。いんげんは別に俺の好物だから金時って呼ばれてるワケじゃねーけど、その気持ちが嬉しいぜ!さっきも言ったが味も最高にゴールデンだし、さすがフォックス。ありがとな!」
「ぐぬぬ、またそうやって恥ずかしげもなく・・・!しかしおりこうさんなタマモちゃんは騙されません。どうせ皆に似たようなことを言って回っているんです!実際良くエミヤさんのお料理を絶賛してますよね?
今だって・・・。」
「え。そりゃ、エミヤの作る飯はウマい・・・?」

鈍いにも程がありすぎる男も、そこでようやく目の前の美女のなんとも表現し難い胸の内に気付いたようだ。
いかつく整った顔を耳まで赤く染めながら、つらつらと言い訳めいたことを口にする。

「や、なんつーか、ガキの頃は動物たちがダチだったから、頭ん中に浮かんだことそのまま話すクセが・・・ケド、だからって軽い気持ちじゃねーし。ちゃんと相手も選んでる・・・。」
「き、金時さん。それはつまり?」
「つまり・・・特別ってコトだよっ。」
「・・・なるほど。ではどのように特別なのか、私の部屋にてじっくりとっくりお聞かせ下さいませ!」
「へっ?待っ・・・ストップフォックス!!」

細腕のどこにそんな力があるのか、筋骨逞しい巨体をズルズルと引きずっていくタマモを見送りながら、マスターは思わず金時の無事を祈った。
一般的には大変美味しい展開とはいえ彼にとっては拷問に等しいはずだ。

そんなふうに訳知り顔で頷くマスターも、今日の談話室が閑散としている理由が『バカップル×2が垂れ流すオーラにあてられて皆引き返していたから』だとは夢にも思わないのだった。
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