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蛍の光

ジャンル: その他 作者: 水篶(みすず)
目次

蛍の光

[⚠破壊表現あり]ですがハッピーエンドだと思ってます
前回の清光とのお話とは違う審神者だと思って下さい
前回の審神者ちゃんは「破壊しないさせない主義」なので(^^;

以下↓お話前の説明です

本丸には裏に山がありまして
よく審神者は山の中へ散歩に行くんですよ
すっごい神秘的な場所できれいな小川も流れてて… 
で、本丸にいるみんなが主〜!って探してる所にコロッと帰ってくる
お〜い!って探してたら一緒にお〜い!って言ってるかも
みたいな明るくて元気な審神者ちゃんです。
長くなりましたが、

はじまり、はじまり。



「すごい……綺麗…」あまりにも綺麗で言葉が少なくなってしまうそれは蛍丸も同じようだった。辺りにはたくさんの蛍が飛んでいて、とても神秘的な場所であった。そして2人は川辺に座り、しばらくの間温かな光に包まれていた。蛍丸が手のひらを差し出すと、その上に蛍がとまり、チカチカと優しく光っていた。それをみた蛍丸が、
「蛍ってすごいね。小さな光だけど一生懸命光ってる。小さな命だけど、一生懸命生きてるんだね。」
ふふっと審神者は笑い、謡いだした。
「ほー、ほー、ほーたるこい…〜のみーずはあーまいぞー ほー、ほー、ほーたるこい」
「何その歌?」
「ん?これ?蛍の謡だよ笑」
「俺の歌?」
「あはは、そうだね。あとね、この謡は天国に行ってしまった魂を呼び寄せる謡なんだって」
「ふぅ〜ん。そっか…なんかいいね ほー、ほー、ほーたるこいっ!」
無邪気な横顔見て、こちらまで笑顔になってしまう。そして、「また来ようね」と指切りげんまんをして約束した。

 仕事も一段落終わり、みんなの出陣も見送り暖かな太陽の下でゆっくりしていた。
この前見た蛍はとても綺麗だった。小さな光だがとても温かく心が和んだ。(また蛍丸と見に行きたいな…)審神者は一緒に蛍を見に行くのが楽しみだった。 今夜にでも見に行こうかな…晴れるかな…月が綺麗だといいな…
みんなが帰ってくるのがとても待ち遠しくなった。

 日も沈み、燭台切三忠と共に夕餉の支度をしていた。何故か胸騒ぎがする。とても嫌な予感がする。落ち着かず、玄関の方を何度も見ていた。
「主、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「うん…そうだよね…」
審神者は自分自身に言い聞かせ、みんなが帰ってくるのを待った。
 帰城を知らせる合図がなり、審神者はすぐに玄関へ走って向かった。
「おかえり!!」
元気よく笑顔でみんなを迎えた。しかし、その場には審神者の笑顔だけしかなかった…そして審神者の笑顔もすぐに消えた。
「っっ!!」
皆、軽傷や中傷を負っていた。幸い重傷はいないようだ。
「おかえり」
今度は落ち着いて、帰ってきてくれてありがとうと感謝の気持ちを込めてゆっくりと言った。
「早く手当しよ!中傷の方(かた)からね」
そう言って手入れ部屋へ行こうと振り向いた。すると後ろから
「主……ごめん。」
「え?」
「…みんなで………帰れなかった…」
「みんなで帰ろうって約束したのに…!…守れなかった………!」
下を向き拳を強く握りしめ、悔しそうに呟いた。そして白い布を差し出し、布をめくった。それは蛍丸だった。「っ!!!……。」
審神者は口元に手を抑え、息を飲んだ。
しばらく動けなかった。

哀しそうな笑みを浮かべ
「おかえり。ごめんなさい」
蛍丸にそっと触れ、優しく囁いた。胸のあたりが苦しくなった。
「主のせいじゃ!」
「ううん。私が勉強不足で、力不足だったから…ごめんなさい。みんなにも怪我をさせてしまって…」
誰も何も言えなくなってしまい、沈黙が続いた。その空気を断ち切るように審神者は、
「蛍丸は私が預かってもいいかな?」
「え?う、うん」
「ありがとう。みんなの怪我の手当、早くしないとね。中傷の方(かた)から順番に部屋に来てね。軽傷の方(かた)はもうちょっと待ってて下さい…あ、お風呂沸かしてあるからね」
そう言って蛍丸を手に歩き出した。
「主、大丈夫かな…」
誰かがぽつりと呟いた。

 審神者は怪我の手当をしている時もいつもの明るい笑顔はなかったが、変わらない様子だった。そして、夕餉を食べ、風呂に入る者や刀の手入れをする者など各自それぞれ過ごしていた。
「ねえ、清光」
安定が言った。そして
「んー?」
と爪の手入れをしながら清光が言った。
「主、大丈夫かな?」
「…俺に聞くなよ」
「だってお前初期刀だろ。悔しいけど主の事よく分かってるんでしょ」
「そうだけどさ…。あの人笑顔とか嬉しい感情はよく出すけど、悲しい感情はあんまり出さないからな…無理して見せないようにしてるってのはあるけどね」
「じゃあ主は今無理してるって事?」
「…そう…ね。」
「…。ちょっと主の所行ってくる!」
そういうなり、安定は立ち上がる。
「は?ちょっ、待ってよ安定。お前が行ってもどうにもなんないだろ」
「そんなことないだろ。何か主の為にできる事だってあるはずだし…あ、そうだ新しい蛍丸を見つけるのは?そしたら主も元気出してくれるよ!」
「…。」
「清光?」
清光は畳を見つめたまま動かなくなった。そして、ゆっくりと口を開いた。
「…よく主が言ってた。たとえ世の中にたくさん俺がいたとしても、自分の初期刀は俺しかいない。この本丸の俺が好きなんだって。それは他の奴らも同じで、たとえ2振り目が来ても1振り目とは違うんだ。って。だからこの本丸にいた蛍丸はもういないんだ。戻ってこないんだよ」
安定は何も言えなくなり、静かに腰をおろした。


 審神者は川辺に座り空を見上げた。昼間は雲一つない良い天気だったのに、月には雲がかかっている。いつの間にか、この前蛍丸と蛍を見た場所へ来ていたのだ。つい最近の事なのに何故か懐かしい気持ちになった。そして、空を見上げて謡い出した。願いを込めて。

ほぅ、ほぅ、ほたる来い
あっちの水は苦いぞこっちの水は甘いぞ
ほぅ、ほぅ、ほたる来い

とても胸が苦しくなり、うずくまる。隣に君はもういない。

「ほー、ほー、ほーたるこいあっちの水は苦いぞ、こっちの〜……」
どこからか謡が聞こえてきた。そして聞き覚えのある声だった。
審神者は、はっと顔をあげるとそこには
「〜…水は苦いぞほー、ほー、ほーたるこい……ってね。」
そこには蛍の光に包まれ、笑顔の蛍丸が立っていた
「…な、なんで…?」
夢でも見ているのだろうか。
信じられなくて声が震える。
「ほら、蛍がいっぱいとんでて、きらきらしてるよ。きれいだね…」
無邪気な笑顔が蛍の光よりも輝いていた。そして続けて、
「ごめんね。約束守れなくて」
審神者は勢い良く顔を横に振る。
「ううん、違うの。私のせいで…私が力不足だったせいなの…ごめんね…ごめんなさい…」
「ほら、自分を責めないの!俺が弱かったのもあるから。はは、国俊と国行に怒られちゃうね。折れちゃったのは仕方がないし、早く次の俺を見つけてよ」

違う違うのそれじゃだめなの。私はあなたが、私の本丸の蛍丸が大好きなの…!だから、2振り目のあなたを迎えてもそれはあなた自身ではないの。代わりになんてならない…!あなたじゃなきゃだめなの……
審神者はそう叫びたかった。しかし、そんなことは出来ない。どうにもできない事は分かっていた。
「私は…私の本丸に来てくれた蛍丸が、あなた自身が大好きです。本当だよ。蛍丸と一緒に過ごせた事がとっても楽しくて、幸せだった。この本丸に来てくれてありがとう。一生忘れないよ」
「…ありがとう。俺も楽しかったし、この本丸に来られて幸せだったよ。次の俺もこんな本丸に来られて幸せ物だね。」
そう言っておでこをコツンとし、両手をしっかりと握りしめた。ああ、何故だろう。とても温かく感じた。
「今までありがとう。」
しっかりと握りしめたはずの手が、いつの間にかするりと通り抜けていた。
蛍丸は立ち上がり、川の方へ歩き始めた。そして、くるっと振り向き明るく笑顔で言った。
「まあ、俺は傍にいるからさ」
優しい光に包まれた小さな体は消え、蛍のように夜空を舞った。


  一年後
 太陽はジリジリと照りとてと暑い日だったが、雲一つない気持ちの良い天気だった。また夏が来たのだなと審神者は思った。夏が来ると昨年の夏の夜を思い出す。(もうそろそろ蛍が出る時期かな…)
「主ーーー!」
誰かが呼ぶ声がした。
「はーーい!」
ふふ、元気だなと審神者は笑う。第一部隊が帰ってきたようだ。玄関へ迎えに行くと
「阿蘇神社にあった蛍丸でーす。じゃーん。真打登場ってね」
聞き覚えのある声だった。
「!!」
審神者と共に第一部隊を迎えた他の刀達も驚いた表情(かお)を見せた。
しばらく沈黙が続く。
「あ…れ?」
新しく来た蛍丸は戸惑った様子で辺りを見渡す。この様子を見た審神者は、はっと我に返る。

「……大変失礼しました。初めまして、この本丸の審神者です。詳しい説明は後程私の部屋でご説明させて頂きますね。これからよろしくお願いします。」
そう、笑顔で迎えた。
「うん、よろしく」

審神者はその後も動かずじっと蛍丸を見つめている。
「…主?」

審神者は拳をグッと握りしめ、勇気を出して言った。
「あ、あの…」
「?」
「……蛍を見に行きませんか?」

その時、
風が吹き抜け、風鈴の音が響き、
太陽の光に負けじと1匹の小さな蛍が
見守るように空を飛ぶ。
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