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アナタの隣で

原作: 名探偵コナン 作者: rabun
目次

第二話 気づくべきではない

-プルルルル-

(・・・でない、か)

人気の少ない路地裏で電話をかける。

あれから数日、降谷さんとは連絡を取ることが無くなった。
あんなに毎日のように連絡を取り合っていたのに連絡が突然途絶えたのだ。
自分の方からも連絡を取ることはなくなっていた。

あくまで仕事上でのやり取りではあったが、
ここまで頻繁に連絡を取っていたにも関わらず、
急に連絡が途絶えることに何か気持ちの悪さを感じていた。

(気にしていても仕方がない。あの人はあの人の仕事をしているんだ。
・・・自分も自分の仕事を全うしなくては!)

深呼吸をして、自分の仕事へと足を速める。
風を切って勢いよく歩いているとモヤモヤとした気分が
少し晴れるような気がしてくる。

ふと、足を止めゆっくりと周りを見渡す。

何気ない街並み、いつもの公園、いつもの駅。
すれ違う人はみな、スマートフォンを片手に他人に干渉することなく、
ただ目的地まで歩き続ける。

(・・・あの人は今頃、何をしているんだろう)

そんなことが脳裏に浮かんでは消える。

(!!いかん!今は仕事に集中しなくては・・・)


いつの間にか着いていた仕事場で、ただ目の前の仕事を淡々とこなす。

「これで全部・・・か。あとは任せた」
「はい。あとのことはお任せください」

そばにいた仲間に後処理を任せ、その場を後にしようとした時、
ふと、金髪の青年が視界に入る。

「・・・あれは!!」

-ダッ-

「??!!」

青年に走り寄ろうとしてすぐに足を止める。
時間までもが止まったようだった。

目線の先には自分の知らない顔で笑う彼の姿。
隣には同じくらいの年代の女性。

(・・・・・。)

「梓さん。お店はそっちではなく、こっちですよ」
「あ、そうでしたね!すみません、つい話に夢中になっちゃって///」

2人で仲睦まじく笑いあいながら歩く姿をただただ遠くから見ているしかない。

「それにしても、炎上しちゃいますね、また」
「??なんのことです??」

息が詰まりそうになる。

「【安室】さんに手伝ってもらうなんて、ファンのみんなに知られたらってことです」
「・・・あ~!そういうことですか。梓さんはいつもそう言って僕との行動を避けようとしてますけど、僕からしてみれば僕だって炎上対象ですよ?」
「まったまた~そんなことないですよw私は安室さんみたいにファンがいるわけでもありませんから~w」



【安室 透】

それは降谷の数あるうちの【顔】の一つ。
ポアロという喫茶店で働く青年で、まれに名探偵毛利小五郎の弟子として、
難事件を解決することもある。

一緒にいる女性はおそらく、榎本梓だろうか。
明るく屈託のない性格であろう彼女は、降谷さんに対しても媚びることなく、
ただ同じ店で働く仲間として接しているように見える。

それでも何故か、自分の中で消化しきれず、
モヤのようなものがかかったまま、二人のやりとりを眺めるしかなかった。



「・・・さん」
「・・・みさん」
「風見さん!?」

自分を呼ぶ声に我に返り咄嗟に振り向くと、
そこには怪訝な顔をした仲間の姿があった。

「どうしたんですか、風見さん。次行きますよ」

「ん、あ、あぁ。今行く」

2人に背を向けて走り去る。


「あれ、安室さん?どうかしました?」
「・・・いいえ。なんでもありませんよ。さ、早く買い出ししちゃいましょう。」


そんな風見の姿を見届けてから、再び笑顔を見せ店の中へと歩き出す。



(なんなんだこの嫌な感じは。)

仕事を終わらせ自宅に帰ってきてから一人自問自答を繰り返していた。

「安室透は降谷さんの仮の姿。それだけじゃないか。」

昼間の出来事を思い出す。

自分でも見たことのないような笑顔。
それが例え仮の姿であろうと、自分の見たことのない姿を見せる彼を複雑な思いでただ見ることしかできなかった。

「なんでこんな気持ちにならなければならないんだ。」

頭を抱え一人静かに呟く。

-ブーブーブー-

突然鳴った電話に驚きながらも咄嗟に反応する

「はい、風見です。」
『あ、俺だ」
「・・降谷さん?」
『なんだその反応は。今俺からの電話があると問題あるのか?』

上司からの的を射た突然の質問に驚きつつ、一度深呼吸をしゆっくりと答える。

「いえ、問題などありません」
『ならいいが・・・。最近任務の方はどうだ?』

いつもの調子で話し始める降谷に調子を合わせるのが大変だった。
そのあとも仕事の進捗状況など業務的な報告をして、いつも通りに電話を切ろうとした時。

『最近寝ていないんだろう?』
「え・・・・」

突然の上司からの問いにすぐに返答はできなかった。

『俺を誰だと思ってるんだ。声を聞けばわかる。過度な睡眠不足は仕事に差し支える。休めるときにきちんと休んでおいた方がいいと、再三言っていたと思うが?』

「そう、、でした。申し訳ありません。職務をまっとうするあまり、自分の睡眠は後回しになってしまいまして。・・・でも言い訳ですね。」

嘘の理由をつらつらと並びたてる自分が居た。
ここ数日睡眠時間が全くなかったわけではない。
何かが心につかえて目を閉じても眠ることができなかっただけだ。

それをなぜ今ここで上司に伝えられないのかは分からない。
でも何故かこのことを言いたくない自分が居た。

『まあいい。とにかく今日は休め』

彼はそれ以上は何も言わなかった。
気まずい沈黙が続く。
先にその沈黙を破ったのは、彼の方だった。


『おやすみ』

短くそう告げる彼の声は、少し優しい感じがした。


「・・・・はい。おやすみなさい」

-ッーツーツー-

スマートフォンを片手に呆然とソファーに寄り掛かる。

「・・・・何をやっているんだ俺は」

手にあるスマートフォンを握りつぶやいたその言葉は、自分に対しての最大の罵りであった。
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