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蒼い薔薇

原作: その他 (原作:ユーリ!!on ice) 作者: iou
目次

冷えた蒼

彼に愛されたいとか、愛して欲しいとか、
考えたことは
なかったんだ。

ほんとうに。














「ねーね、ゆーり!チャオチャオから言われて、
あのユーリくんのお世話係になったんでしょ?」

「あ、うん。」



そうなのだ。
あの後すぐに担任のチャオチャオから呼び出され、
僕は転入してきたユーリ・プリセツキーのお世話係になった。


たまたま隣の席で、
たまたま名前が同じ。

何のいたずらだろう。
一体この運命的にも取れる状態になんの神様の遊びが隠されているんだろう。

僕が美しければ、
きっと何かを彼に期待したのかもしれない。
でも、
当時の僕はヴィクトルに夢中な普通の男の子だった。

世界は僕から孤立した存在だったし。
日々のカリキュラムに追われていた。


たまの気晴らしに氷の上をなぞってみては
ぼんやりと日々の出来事に罪悪感を感じては
リセットするような毎日だった。


そして変わらない毎日を過ごして3年間を消化しようとしていた矢先に
この、美しすぎる転入生であるユーリ・プリセツキーのお世話係に任命されてしまった。


お世話係というのは、入ってきて間もない何もわからない生徒の校内の使い方や
ルール、教室の移動を共にすることだ。

そして、寮生活についても指導するようにとのことだった。

高校に上がると、寮での僕たちは共同部屋ではなく一人部屋になった。
僕の隣は空き部屋で使われていなかったのだが、
そこにユーリ・プリセツキーが入ることになった。

これにはさすがの僕も面食らった。


「ふふふ。相変わらずゆーりったらクールだよね。」

「うん。まぁ、ピチッットくんに教えてもらったことをそのまま伝えるって感じかなぁ。
僕はお世話してくれた人がピチット君だったから、伝えやすいよ。」



ユーリ・プリセツキー。
彼と生活する中で、気づいたことがいくつかあった。





そんな中でも、驚いたことといえば
彼はひと際、踊りがうまかった。

ピンと伸びた背筋に足先。
見た目だけでも絶賛されるのに、
美しい踊る姿も彼を輝かせた。

一目踊る姿を見たいと、
体育の時間に彼を見に来ようと抜け出す生徒もいたほどだ。
高等部は尋常ではないほどにぎわった。

中等部から下級生も押し寄せて、
帰り際の教室のドアは人だかりで押し寄せた。



しかし、事実ユーリは


「君は、バレエでもしていたのかい?」


クラスメイトの一人が問いかけると、フンッと鼻を鳴らして言い放った。

「お前に関係ない。」


そんないい方しなくても・・・。
と、言いたくなる言葉使いが度々耳に響く。

彼の言葉遣いは彼の容姿と反比例したものだった。


それでも言い放たれる方は、
ユーリの声を聞けたとか、
ユーリが返事を返してくれたとか、

喜ぶ子は

はじめのうちは多かった。




ギャラリーたちはどんな彼でも喜んだ。
彼は完全に見世物になっていた。

とても品がある。お品物だ。

彼に触れようとする人は誰一人としていなかった。
壊れ物を扱うように、
遠目でのぞき見るだけだ。



「ハッ、動物園みたいだな。」

彼が誰に言ったのかはわからないが悪態をつく。
彼の声はみんなには届いていないのであろう。

彼を見ることができて
嬉しいざわつきがあたりから聞こえてくる。



僕は、なぜ彼がそんな汚い口を聞くのか考えてみた。
まだ、幼いのかな。
まだ、寂しいのかな。

その時はなんとなくぼんやりとそんなことを思っていて
特に追及しなかった。


僕の中で
“あくまで彼は他人”

僕は既に傷つかない方法を知っていたのだ。
これは、のちに彼と見え方は違うけれど
同じ方法で他人と向き合わずに逃げていたということに僕らは気づくこととなる。





本当に当時の学園は、ユーリの話題でどこも騒がしかった。
悪態をつくユーリの表情ですら拝みたいといった状態で、
たまたま席が隣で名前が一緒だったお世話係にされた僕と、
僕と常に行動を共にしていたピチットくんは、
ユーリを他のクラスメイトから引きはがすのに手を焼いた。


ユーリの手をひいて、
抜け道を探すのにいつも手を焼いた。

本当にそれくらいに彼の人気は収まらなかったのだ。


「なんなんだよ、あいつら。」


日に日にユーリがイライラしているのが目に見えてとれた。
美貌があるのも考え物だな。
僕はそんな風に斜めに考えるようになっていた。


「前の学校でだ、こんなことなかったの?」

「あ?前はじーちゃんと田舎で二人で生活してたんだよ。だから、知らない。なんにも」

面白くなさそうにストローをくるくる回す。
その姿ですら絵になる。

ピチット君はニコニコしてユ―リの顔を見ていた。





「同じゆーりでも、こんなにも違うのか。」


こんな声も聞こえてくる。
日が経てば。
覚悟はしていた。

僕へのことばはもう慣れていたから何とも思わない。
生まれが違うというだけで、嫌というほどにこの学園では思い知らされてきた。

ピチット君だって同じだ。
でも、違う。

彼や、他の僕と似た生まれのみんなはもっと誇りを持っている。
僕は自分に自信がないんだ。

僕にしかもっていないもの、僕にしかできないことって何だろう。
きっとみんな、こんなことを考えながら生きているんだろうけど、
死ぬまでに答えは出るのだろうか。


ずれた眼鏡を元の位置へ戻す。


この男子しかいない学園では、ユーリは目立ちすぎる。
今まで全く目立たなかった僕とは、

なんて対比的で、
美しいんだろう。



誰もが認める美を持っている彼ですら、こんなにも他人へ攻撃的で、
一体何におびえているというんだろう。

僕には到底わからない世界に、彼は確かにその時、
住んでいたんだ。


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