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蒼い薔薇

原作: その他 (原作:ユーリ!!on ice) 作者: iou
目次

蒼い王者


小さな風が、彼を連れてきた。
空は灰色がかっていて、ずっと遠くの奥の方にやっと蒼が見えた。
寂しい季節が近づいている時期だったと思う。

憂鬱な日々にさすような光を彼が与えたのを
今でも僕は覚えている。





太陽に透けてしまうほどブロンドの髪
そばかすひとつない白い肌
人形のように高い鼻


綺麗なエメラルド色をしていた。

転入してきた彼の目は、晴天の日の校庭に生える木々のようで、
彼の瞳にみんなが吸い込まれそうだった。


「ユーリ・プリセツキー」

美しく響く名前。
愛想無く響かせる声ですら、鳥がささやくようだ。



「えー今日から転入してきたユーリ・プリセツキーだ。
みんなー・・・・

先生の声すら入ってこない。
彼の、その人を小ばかにしたような不愛想な表情ですらも
目に焼き付けていなくてはいけないと思った。

一瞬たりとも彼を見逃してはいけないと、
恐ろしいくらいに教室中の全員が思ったであろう。

それほど、彼は危うくて、目が離せなかった。






教室中がざわついた後は教室の外だ。

誰もが振り向く、その容姿は
午前の一瞬で学校中に広まり、彼の話題で持ち切りになった。

「あ、あの子が」

「そうだよ。」


太陽に透けるブロンドの髪
春の草のように淡い緑の瞳




彼が振り向けば
彼が一言発せば
彼が頬杖をつけば

指先一つ動かしただけで大騒ぎだ。

まるで、世界のすべてが彼の瞬きで息をしているようだった。




ユーリ・プリセツキーは慣れているのか、気付いていないのか、
人々が自分に何かアクションをすることに対して、全く気にも留めていない様子だった。



少ない一日のランチタイムにも関わらず、
自分の食事の時間を削ってでも人気者を追いかける。

生徒たちを尻目に勝木勇利とピチット・チュラノンは、
綺麗に設備された園庭のベンチで今朝、早起きして二人で作ったお手製のでサンドイッチを食べていた。

「ゆーりもあの男の子気になるの?綺麗な子だよねぇ、2、3年の間でも随分な話題になっているみたいだね。」

ピチットくんはバケットにはさんだレタスを一枚とってみせると
口へ、ポイッと放り込んだ。
「あ~おいしい。」
厚切りのハムとレタス、マスタードとSoyソースを甘辛く味付け治したソース
特性サンドイッチを頬張りながら僕に笑顔を向ける。

この誰が得をするのかよくわからないファンクラブのような状態も彼が話すと、
全く嫌みがないし、馬鹿にした感じではないのに、とたんに笑い話のように明るくなる。

「う~ん、そうだね。同じ名前っていうところ以外は接点がないかなぁ。」
「そうだね、この男子校じゃぁ女の子みたいな顔の子は人気があるものね。」

こんな話をサラッとするが、ピチット君もファンクラブはあった。


ハムスターのようにしゃくしゃくと頬張るピチットくんも、
男の僕から見てもかわいらしい存在だった。
めでたくなるような愛嬌を持っている人物はダレ?と聞かれれば、
僕は即座に彼の名前をあげるだろう。

じっと見つめる僕のことを
ゆーりへんなのーそんなに見つめてたら僕にあながあいちゃーう
とからかってはお構いなしに、サンドイッチをほおばる。

彼の褐色の肌としなやかなスタイルに、わけ隔てのないボリューム満点な笑顔。
もちあがった高等部の入学式ではピチット君と友達になりたいという生徒は大勢いたし、
中等部の下級生たちにはピチット君に憧れている男の子がたくさんいた。

それはそうだろう。
僕だってそう思う。
彼とは友達になりたい。なってよかった。

彼はどんな時も太陽のように明るくて目立つし、人を笑顔にさせるトーク術を持っている。


しかし、彼は不思議なことに今は僕と一緒にいる。
と、いうのも中等部の途中で入ってきた僕に初めて声をかけてくれたのがピチット君だった。
同じ寮に入り、同じ部屋で過ごすルームメイトになったのだ。

それからだ、ピチット君と僕の距離がぐっと縮まり、寮での生活も、学校での生活も
休みの日も共にするようになったのは。


「ふふふ、ゆーりとユーリ、同じ名前だし、仲良くなっちゃうかもよ?」
「それはないよ、僕は目立つタイプじゃないし・・・。」



僕はそもそもユーリ・プリセツキーに興味はなかった。
と、いうのも。

「ヴィクトル・・っ!」

園庭の隅に入口を構えている蒼い薔薇園。
これは限られた唯一の人間しか入ることのできない
秘密の花園になっていた。

甘く大人しいバラと、大人のスパイシーな香りがサッと僕たちの前を横切る。
ヴィクトル・ニキフォロフ。
この学園の皇帝と呼ばれる彼に僕はあこがれを抱いていたからだ。



「ゆぅーりはほんとぉーにヴィクトルが好きだよねぇ。」

僕は恥ずかしくなって顔を隠した。
一方的な思いだった。

憧れて、憧れて、憧れて
彼に憧れて、僕はこの学園に入学したのだ。


この学園では、フィギュアスケートを学ぶことができる唯一の男子学園だった。
彼はこの学園ではもちろん
世界でナンバーワンの勝者だった。

そして、この学園では一番美しい王子様だった。
いや、男性も女性も彼に狂わされたいと思うほど白い肌に、
彼は銀髪の長い髪を風に泳がせて
瞬きするたびダイヤモンドが生まれるんじゃないかと思うほどの綺麗な蒼い瞳をしていた。


この学園の新入生を歓迎する会でヴィクトルをはじめて檀上で見た時に
一瞬で心を奪われてしまった。

生徒会長である彼の唇からこぼれる声は、
まるで音楽のように心地よくて美しかった。


僕はまた彼に恋をして
心からこの学園に来てよかったと
そう思ったんだ。

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