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田園の幸福

原作: その他 (原作:ハリーポッターシリーズ) 作者: miko
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フシグロセンノウ

再び開いた扉から出てきたのは、若い女性だった。肩まで伸びた、まっすぐの髪が綺麗な人だった。優しそうに見えるけれど、どことなく、ペチュニアおばさんに顔立ちが似ている気がする。

…親戚だろうか?

僕がそんなことを思っていたら、次の瞬間、その女性から衝撃の言葉が出てきたんだ。

「久しぶりね。お姉さん。」
「はっ、あたりまえよ。用もないのに来るわけがないでしょ。」

「ぇっ?!」

この人妹なの!?若くない?!

僕は思わず声を上げてしまった。同時に集まる視線。慌てて手で口を覆った。後半の心の声はなんとか心の声におさめた。そして、ペチュニアおばさん冷たい…。やっぱり仲悪いのかな?

けれども、驚くのも無理ないと思うんだ!だって僕、ペチュニアおばさんに、ママ以外の姉妹がいただなんて知らなかったんだもの!なぜ話してくれなかったのだろう?何か、言いたくない理由があったのだろうか?それとも、ただ単に僕が嫌だったから…?
気になりはじめたら、今ペチュニアおばさんがどんな顔をしているのかと気になりはじめた。思わず前に立つペチュニアおばさんの顔を見ようと、階段を一段登った。そして僕はまた、驚いた。
ペチュニアおばさんは、僕がみたことのない顔をしていたんだ。とても寂しそうな、嫌悪したような、苦しそうな。
ペチュニアおばさんがこんな顔をするなんて、僕は想像すらしたことがなかった。僕に向けるのはいつだって冷たくて、憎悪や嫌悪が滲んでいた。ダドリーに向けるのは、甘やかしまくる愛情たっぷりのもの。他にも、街ですれ違う常識知らずの人に向ける蔑みの表情や地位が上の人に向ける媚びいる表情…。とにかく、見たことのないものだった。
初めてみる表情を引き出した目の前の女性_ペチュニアおばさんの妹が気になって、彼女を見上げた。

そして、気がついた。目の前のおばさんの妹もまた、苦しそうな顔をしていたんだ。こちらは、寂しさと悲しさが溢れそうな表情だった。けれど、それはすぐに消え、代わりに浮かんだのは、何を考えているのか想像のつかない_つまりは貼り付けたような_微笑みだった。

「今日は、どうしたの?この間のこと?」
おばさんの妹は、ちらりと僕に視線を向けた。
「…この子、例の子よ。リリーの息子。」
「…そう。お姉さんの。」

2人の会話はあまりにも静かだった。だからだろうか。さっきまで、驚きの連続ですっかり忘れ去っていた僕の不安は、再び湧き出てくるどころか、一気に膨れ上がったんだ。この人が、僕を嫌がったらどうしよう。本当に行く場所がなくなってしまう。

そんな不安が顔に出ていたのかもしれない。おばさんの妹が、僕に視線を向けた。そして、ほんの一瞬顔を歪めた。注視していなかったら気がつかなかったかもしれないくらいの。おばさんの妹はゆっくりと僕の前に立ち、目線を合わせてしゃがんだ。

「はじめまして。私は、ペチュニアお姉さんと、あなたのママであるリリーの妹の、バイオレットと言います。バイオレットと呼んでくれたら嬉しい。これから、よろしくしてくれる?」

そう言って、おばさんの妹_バイオレットは、僕に微笑みかけた。目尻が下がって、じんわりと愛情のこもった表情に、僕を写す綺麗に澄んだ瞳に、緊張や不安が薄れるのを感じた。

「よろしくお願いします。」
僕は、自然と浮かんだ笑顔とともに頷いたんだ。

「じゃあ、頼んだわ。…元気で。」
一連のやりとりを見ていたペチュニアおばさんは、バイオレットに吐き捨てるように言った。
けれど、最後の一言は言いにくそうに呟いていて、あまりにも小さくて、バイオレットは聞き逃したんじゃないかと思ったんだ。それに、僕としては、ペチュニアおばさんからそんな言葉が出るとは思わなくて(かなり失礼だが)、今日何度目かわからない驚きを経験していた。おかげで思わずペチュニアおばさんを凝視してしまった。
バイオレットは、どうやら届いたようで、優しげな顔でペチュニアおばさんがタクシーに乗り込むのを見送っていた。

2人は、仲が悪いのだろうか…?それとも、良いのだろうか…?

「さて、あらためて、私はバイオレット。どうぞよろしくお願いしますね。」
タクシーをぼんやり見ていた僕の背を、とんとんと叩いて、バイオレットは言った。
それを感じたと同時に、一気に今の現状を思い出した。そして、僕は、自分が自己紹介をしていなかったことを思い出して、慌てて、服のシワを伸ばすように裾を引っ張りながら彼女を見上げた。

「はじめまして。僕ハリー、ハリー・ポッターです。よろしくお願いします。」
「ええ、よろしく。ハリーと呼んでも?」
「もちろんです。」

たった一言二言の自己紹介。けれど、なぜだかそれが、僕にとっては、くすぐったくて嬉しかった。

「では、ハリー。我が家へようこそ。」
バイオレットが重厚な感じの扉を開く。促されて中へ足を踏み入れた僕へ、彼女はそう言った。

…この扉、とても重そうに見えるけれど、実はそうでもないのかな…?

びっくりするくらい軽く扉を開けたバイオレットに、僕はおそらくとても場違いな疑問を抱かずにはいられなかった。

…あ、もしかして、ここの家の人がみんなとても力持ちなのかも?

そんな場違いな疑問を考えながら後ろをついていく。バイオレットはそんな僕を見ながらなにを思ったのか不意に口を開いた。

「…ねえハリー?敬語、使わなくていいから、砕けた、いつも通りに話してくれると嬉しい。私たち、家族になるの。」
「…わかった。そうする。…ありがとう。」

僕は、“家族”という単語に顔が緩むのを感じた。疑問の答えは得られなかったけれど、少し距離が縮まったような気がして、とても嬉しかったんだ。


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