ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

田園の幸福

原作: その他 (原作:ハリーポッターシリーズ) 作者: miko
目次

イカリソウ

「荷物をまとめておきな。明後日からはここじゃなく別の家へ行くんだよ。」

夕飯に使ったお皿を拭きあげ棚に戻す僕の背中にかけられた言葉。お皿を割りそうになった僕は何も悪くないと思うんだ。お皿を棚に戻し、振り返った。
ペチュニアおばさんは、今、なんと言った?僕の家は明後日から此処じゃない?

突然の言葉に、混乱する頭で必死に考えた。

どういうこと?此処にはおいてもらえなくなった…?

今までの半ば召使いのような扱いを思い、喜ぶべきなのか。それとも、さらに酷いことになるかもしれないと嘆くべきなのか。

混乱を極めた頭は、色々すっ飛ばして、そんなことを思った。

「バケモノのところへ行くのよ。お仲間じゃないの?喜びなさいよ。」
困惑する僕の顔を見たペチュニアおばさんは、顔を歪めてそう吐き捨てると、リビングを出て行った。

ばけもの。そう。僕の周りでは、昔から不思議なことがたくさんおきていた。例えば僕をいじめた奴が突然転んだとか。ダーズリー家の人、とりわけペチュニアおばさんは、そんな僕のことを、それはそれは気味悪がった。そうしてたまに、こう言っていたんだ。「ああ気味が悪い。バケモノの子!」ってね。だから僕は思ったんだ。僕がこれから行くところにいる人も、ちょっと周りで変なことが起きるのかもしれないと。



僕は、今、タクシーに乗っている。それも、ペチュニアおばさんとだ。

ダーズリー家では、なんとか衣食住にありつけていた。ダドリーにいじめられたり、ご飯抜きにされたり、それはまあ置いておいて。

これから僕が行くところはどうだろう?
というか、何故突然僕は他の人のところへ?
捨てられたの?誰のところへ行くの?ご飯を食べさせてもらえるかな?寝るところはあるかな?毛布1枚くらいは欲しいんだけど。

一昨日の夜、つまり、僕を困惑させた事件(僕命名)の後、部屋に戻って少しばかり冷静になった頭は、どんどん疑問を浮かべてくる。けれど、ペチュニアおばさんに聞いたところで答えてくれるとは思わない。だから僕は、どんどん不安になった。
どうにか気を紛らわせようと荷造りを始めたんだ。でも、よくよく考えたら、荷造りするほどの荷物なんてなかった。
いつだったか、ダドリーが椅子に引っ掛けて用済みになったボストンバッグ1つに、ダドリーのお下がりの洋服や細々したものを入れたら、すぐに終わってしまったんだ。

つまり、僕は、一昨日の夜から今まで、ずっと不安だらけの時間を過ごしたんだ。一睡もできないくらいに。


そしてやってきた今朝。ゾッとするほどにこやかに僕を見送るバーノンおじさんと、笑いたいのか文句があるのかよくわからない顔をした(いつもと変わらない気もするが)ダドリーに見送られながら、ペチュニアおばさんとタクシーに乗り込んだ。


タクシーの中はとても静かだった。ペチュニアおばさんは、ずっと外を見ている。

だから僕も、ひたすら通り過ぎる街並みを目で追っていたんだ。本当はとっても眠かったんだけど、不安すぎてねれない。
タクシーは、ロンドン郊外の都市に入った。とは言っても、碌に勉強なんてさせて貰えなかった僕は、此処がどこなのかわからないんだけど。

窓の向こうに、建物に囲まれた緑の芝生の広場が見えた。家というにはあまりにも大きな建物だった。何かの公共施設だろうか?僕は始めてみるその景色に内心興味を示しながらも、右折した車に合わせて視界に入った新たな建物に目を移した。石造りの立派な建物が並んでいる道に入った。
ひたすら走らせていた車は、突如、時代を感じさせる建物の前で停車した。見上げなその建物は6階建ての石造りで、均等に並んだ窓が美しかった。
「降りな。」
ペチュニアおばさんがタクシーの運転手に声をかけている間に、僕は慌てて車を降りたんだ。もちろん、軽いボストンバッグを引っ掴んで。

ペチュニアおばさんは、建物の玄関の前の5段の階段を上って、重厚で凝った彫り込みのあるドアをノックした。
ここでタクシーを降りたということは、此処が僕の家(になる予定)なんだろうか?
僕は、少し考えて、3段だけ階段を上った。ペチュニアおばさんの横に立つのは気が引けたし、なにより出てくる人がペチュニアおばさんの言っていた人かも知れないと思うとさらに不安になったんだ。
しばらくして、中から慌ただしく階段を下りる(?)音が響いてきた。次の瞬間、重そうなドアが一気に開いた。ペチュニアおばさんが、一歩引いてドアにぶつかるのを回避していた。
中から現れたのは、小さな少年だった。もう一度言わせて欲しい。小さな、少年だったんだ。そう、僕よりも!綺麗な金髪に、空を思わせる青い瞳。白い襟のシャツに水色のベストを着ていてグレーの半ズボンを身につけていた。まるで、いいところのお坊ちゃんみたいだ。とてもじゃないが、この無駄に重そうな扉をこの小さな少年が開けたとは思えなかった。
驚いたのは僕だけじゃなかったようで、ペチュニアおばさんは、驚愕した顔をしていた。余り見たことがなかった顔に、僕はこっそり笑ったんだ。

小さな少年はペチュニアおばさんを見上げ、僕に視線を向け、またペチュニアおばさんを見た。そして、それはそれはかわいい笑顔で言ったんだ。
「いらっしゃいませ!何かごようじですか?」
ペチュニアおばさんは、困ったような顔をした。これも珍しくて、僕は今日のペチュニアおばさんは偽物なのでは?などというばかなことを考え始めたんだ。

「あー、あのねぼく、此処に、いや、606号室に住んでいる人に用事があるのだけれど。」
ペチュニアおばさんが、いつもより少し優しめの、ダドリーにかける声よりは少し硬めの声で言った。
そして1つ、僕は気づいたんだ。部屋番号を言った時、少年の目が、一瞬鋭くなったことに。

「…うん!わかった!僕が呼んできてあげるね!しょうしょうおまちください!」

…気のせいだったのかな?そう思うほどにこやかに笑って、少年は扉を開けたまま、階段を駆け上がっていった。

そしてもう1つ。ここ、アパートだったんだね。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。