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アンジュ・ヴィエルジュ ~Another Story~

原作: その他 (原作:アンジュ・ヴィエルジュ) 作者: adachi
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第28話 翠緑と群青の追憶⑰

 考えるよりも先に体が動いていた。敵が遥たちに襲い掛かろうとしているのに気づくと、行動を起こしていた。動いたときにウルリカが何かを言っている気がしたが、聞いてはいなかった。
 校舎の影に隠れていると、校庭の方で戦っている気配がするので、遥たち風紀委員のことが心配になり、遠目に様子を見に行こうとしても止めようとしていたから、きっと今も同じことを言っているのかもしれない。極大の雷が落ちて、そのすぐ後に空に向かってとてつもないエネルギーの束が飛んでいくのを見ているから、ただ事ではない事態が起こっていることは理解できた。校庭に近づいて、恐る恐る覗くと、空の穴からウロボロスが落ちてきて、風紀委員と戦っている。
(遥さんたちは無事なのでしょうか……)
 戦場を見渡すと、まさにウロボロスの1匹がアクエリアとテオドーチェを庇うようにして立つ遥のところへ猛然と向かっていた。それを見た瞬間から、自分自身がどう動いたのか、気がつくとウロボロスは倒され、遥とクラリスがこちらを茫然と見つめいていた。手にはエクシードである『解放する者・フライハイト』が握られ、反動が腕に残っている。
「セナ……、セナ……」
 遠くで自分の名を呼ぶ声がする。息が上がって肩が激しく上下している。心臓が頭の中にあるかのように、鼓動が大きい。
「セナ!」
 遠くで聞こえていた声がすぐ耳元から発せられていることが解ると、理性が戻ってきて、狭窄だった視野が開かれた。
「セナ、まずいわよ。ウロボロスがこっちに来てる!」
 ウルリカの言った通り、風紀委員に向かっていたウロボロスらがこちらに方向を変えている。新たに現れた脅威を排除しようとする意思が直接的な敵意となって伝わってくる。逃げるか迎撃するかの二択を迫られている。
 セナに向かうウロボロスの一群が大きく揺らいだ。レイナとマリオンが側面から攻撃を加えている。キヌエが走りながら指示を出し、遥たちもウロボロスと戦いながらセナのもとへ集まってきた。
「セナちゃん! ありがとう助かったよ!」
 遥がセナに抱きついた。セナはまだ若干心ここにあらずと言った風で困惑した表情でいる。そこにマリオンが険しい口調で言った。
「あなた、一般の生徒かしら。どうしてこんなところにいるの。避難指示が出ているはずですのに」
 マリオンの責めるような口調にセナはおどおどとした挙動で応えるしかできなかった。今自分がどうしてここにいるのか、自分ですらまだはっきりとは分かっていないのだ。
「マリオン、私が話すわ。あなたはレイナとクラリスと一緒にウロボロスを食い止めて」
 キヌエが進み出ていう。マリオンは弁えて譲り、レイナたちの手伝いにいった。
「私も微力ながら援護させていただきます」
「テオもまだいけるのだ」
 アクエリアとテオドーチェも共に向かい、キヌエと遥とゼンジが残った。
「さっきのウロボロスを倒した攻撃はあなたの?」
「は、はい」
「繰り返しになるけど、どうして避難していないの? 緊急事態の放送は聞いたわよね」
「はい……」
「私たちは動けなかったのよ」
 口籠るセナ代わりにウルリカが答えた。
「私たちはそこの校舎に隠れていたの。でもウロボロスが周りをうろついていて、動きたくても動けなかったのよ」
 セナを庇うようにウルリカが前に立った。キヌエはそれ以上深く聞こうとはせず、囲まれて座している『マザー』に注意を向けている。
「あなたはウロボロスに攻撃したわ」
「あ、あれは、とっさに、私もよくわからなくて」
「いいえ、責めてるわけじゃないの。あれがあなたのエクシードね」
「はい……」
 激しい爆発が起こった。マリオンたちが食止めているが、あれではただの消耗戦であり、間違いなくこちらの余力が先に尽きる。時間はあまりに少なく、逡巡すら許されない。キヌエは決断した。
「あなたに頼みがあるわ」
 決然とした瞳でセナを見据える。
「あなたを私たちで安全な所まで避難させることはできる。でも、その間に敵は回復を図るかもしれない。今、あそこにいる巨大なウロボロスは傷を負っていて動けない。おそらくあと一押し、強力な一撃があれば倒せる」
 その先を悟ったのだろう。ウルリカが驚愕の表情を浮かべる。
「あなたのエクシードを、ここにいるαドライバーで強化した攻撃なら、トドメを刺すのに十分な威力を出せるはず」
「ちょっと待ちなさいよ! セナに戦えって言うの!?」
 ウルリカだけではない。その場にいた遥とゼンジもキヌエの言葉に動揺していた。
「……強制はしないわ。あなたが避難したいと言うなら、その意思を尊重する。私たちも一旦退いて態勢を立て直すことになるでしょうね。でもそれは今この機会をみすみす逃すことにもなる。瀕死のウロボロスを倒す機会を」
「それは、もう命令よ」
 ウルリカのか細い声を聞き流し、キヌエはセナと向き合った。
「あなたに少しでも戦う気持ちがあるなら、一度だけでいい、その気持ちを私たちに預けてくれないかしら」
 雷に似た激しさと力強さを秘めた赤い瞳が、1つの希望に輝いているのを恍惚としてみていた。
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