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アンジュ・ヴィエルジュ ~Another Story~

原作: その他 (原作:アンジュ・ヴィエルジュ) 作者: adachi
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第13話 翠緑と群青の追憶②

 会議室には数名のプログレスがすでに待機しており、部屋全体に言い知れぬ緊張が漂っていた。事態が切実な様相を呈していることを、無言で物語っている。
 この場にいるプログレスを簡単に紹介したい。まず、すでに1度登場しているプログレスでは、コードΩ46セニアと、コードΩ33カレンの2人のアンドロイドと、彼女たちの親ともいえるDr.ミハイルがいる。Dr.ミハイルの後ろに付き添うようにしてユーフィリアがいた。そして、風紀委員にドラゴン退治の依頼を持ってきた黒の世界の魔女ソフィーナ。彼女は『理深き魔女』の異名で知られ、魔女王の片腕を努めるほどの実力者である。壁際に1人佇んでいるのはグリューネシルト統合軍の軍人、マユカ・サナギ。遥たちの窮地を救った人物である。最後に不機嫌そうに遥たちの横にいるマリオン・マリネール。
 次は初出のプログレスである。ソフィーナの隣には遥と同学年の日向美海。蒼い瞳をし、茶色がかった長髪をツインテールに結んでいる。黒髪をポニーテールに束ね、竹刀袋を肩にかけているのは御影葵。袋に入っているのは竹刀ではなく、彼女のエクシードで生成された日本刀である。
 後は正規風紀委員のメンバーが、1か所に固まっている。クラリスを除いて、遥、ゼンジ、テオドーチェ、アクエリアは、今学期から風紀委員に加入した新参者であり、新人たちの指導のためクラリスが遥たちに付いているのだ。マリオンも正規風紀委員の1人であり、副委員長である。
 テオドーチェと変わらない体格に白衣を着た銀髪の科学者レイナ・メサ。常にフードを被り、飴玉を咥えている赤の世界の天使シャム。そして濃い色の髪を極端に短く切り、フレームレスの眼鏡をかけているのは、学園最強との呼び声高いプログレスであり、遥たちを含めた風紀委員全体を取り仕切る風紀委員長の赤の世界の天使キヌエ・カンナミラである。
 マリオンがキヌエたちの集まりへと戻っていく。キヌエが視線のみを遥たち、ことに遥1人へと動かし、遥もまたキヌエがいるのを認めると彼女を見ていたので、2人の視線が交差した。しかしキヌエがすぐに視線を外したので、遥が声を掛けようとした時、Dr.ミハイルが口火を切ってしまい、不発に終わった。
「召集に応じたのはこれだけか。他にも声を掛けておいたんだが。まぁ仕方ない。ここにいるメンバーで始めるとしよう」
 ざわついていた控えめな喧騒が静まり、全員がDr.ミハイルの言葉を傾聴している。
「諸君らに集まってもらった理由は単純だ。世界の危機なので力を貸して欲しい。これに尽きる」
 相も変わらず発言の内容と調子が乖離している。幾人かは拍子抜けした思いを味わったに違いない。
「事の発端は黒の世界〈ダークネス・エンブレイス〉だ。黒の世界に突然現れたウロボロスがそこに生息する生き物を襲い始めた。これまでのウロボロスには見られなかった行動だ。襲われたドラゴンの1匹が門を通って青の世界へと逃れ、それを追ってウロボロスが学園外れにある森に出現した。これをその場にいた遥たちとクラリッサ、マユカ・サナギが破壊。無事に事なきを得たわけだ」
「まさかあのドラゴンがウロボロスに襲われていたなんて。プログレス以外には眼もくれなかったウロボロスがどうして突然そんな行動にでたのかしら?」
 ソフィーナが理解できないという風に首を傾げた。
「まずはそこだ。報告を受けて調査を開始すると、ある事実が判明した。黒の世界に強力な力を保有したウロボロスが、短時間だが現れていたことが観測された」
「強力なウロボロス。私たちが倒したウロボロスが他にも存在したということですか?」
「いや、お前たちが戦った個体より、さらに巨大なエネルギーを内包した個体だ。お前たちが倒したのは、その個体のいわば随伴機みたいなものだ」
「あ、あれが随伴機って。それじゃあ本体はあれ以上?」
「比較すれば、本体の総質量は最低でも随伴機の25倍以上。最大では30倍を超えるかもしれん」
「えーっと、よくわかんないけど、すっごく強いってことだよね?」
「そんなあやふやなものではないわ。おそらく過去現れたウロボロスの中でも最強クラスの個体よ」
 美海の見解を嗜めるようにソフィーナが付け加える。それによって実感を得られたプログレスは息を呑んだ。事態の重大さがよりリアルな感触で確かめられたからである。
「ひとまずこの個体のことを『マザー』と呼称することにする。随伴機は『マザー』の子どもというわけだ」
「それで、なぜウロボロスは黒の世界の生き物を襲ったんですの?」
 マリオンが急くように問うた。自分の出身世界が襲撃されたので、怒りを覚えているようである。報復の意志が烈火の如く巻いているのだろう。
「ウロボロスの行動を解析してみると、どうやら襲った生き物の死骸、または体の一部を『マザー』の元へ持ち帰っているらしい」
「? どうしてそんなことを?」
「理由はまだ分析の途中だ。何せ『マザー』が現れたのはごく短時間の間のみだったからな。しかし、同じことが再び発生するという可能性も高い。ウロボロスの目的は不明だが、奴らの好きにさせる理由はない」
「そうね。さっそくダークネス・エンブレイスで警戒態勢を敷くわ。魔女王には私から言っておくから。青蘭島も警戒を強めた方がいいでしょうね」
「そちらは私たちに任せてもらうわ」
 発言したのはキヌエである。気負うといった感じはなく、当然のことを当然のようにするだけだという感じで、簡潔で簡素な言葉に安心と信頼を想起させる力があった。
「そうね。あなたに任せておけば大丈夫でしょうね」
 ソフィーナもキヌエの実力を認めているので余計な口出しはしなかった。
「Dr.ミハイル。ウロボロスについてまだ確定的な情報がない現状で、何故世界の危機などと大仰な言い方をしたのですか?」
 Dr.ミハイルは興味深そうに自らが創造したアンドロイドであるセニアを見た。親が子の成長に感嘆するに似た温かい瞳だった。
「別に大袈裟に表現したわけではない。純然たる事実だよ、セニア。なにやら迂遠な遠回りをしているようだが、ウロボロスの最終的な狙いは、5つの世界の連結点であるこの青の世界〈地球〉であることは明白だ。『マザー』が動き出したなら、やがては地球を襲撃するだろうからな」
 会議はその後、黒と青以外の世界も一応用心をしておくこと。分析結果が分かり次第各世界へ知らせるよう連絡網を確認することなど事務的な話となり、ほどなく解散した。
 解散した後の会議室には、Dr.ミハイルとユーフィリアの2人だけが残った。
「この異変も、初めから計算に組み込まれていた予定調和の1つですか?」
 ユーフィリアが訊くと、Dr.ミハイルは何も言わずに微笑んだ。
 
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