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アンジュ・ヴィエルジュ ~Another Story~

原作: その他 (原作:アンジュ・ヴィエルジュ) 作者: adachi
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第11話

 世界連結〈ワールドコネクト〉について詳しく述べたいと思う。
 周知の通り、現在、青の世界〈地球〉には、他の4つの世界へと繋がる門が空に浮かんでいる。それぞれの門はそれぞれの世界へと通じているわけであり、最初に門が開かれてからすでに10年以上の時間が経過していた。
 後述するかたちとなってしまったが、世界を行き来できる門の開通には、時系列が存在する。早い順に並べると、黒の世界〈ダークネス・エンブレイス〉、赤の世界〈テラ・ルビリ・アウロラ〉、白の世界〈システム=ホワイト=エグマ〉という順番になって門が開いたわけであるが、これらはわずか半日にも満たない時間の間に起こったことなので、誤差として処理していい。このため、第1次の世界連結は、4つの世界が”同時”に連結したものとみなされている。これが約10年前に起こった世界連結である。
 第1次と既述したように、世界連結には、第2次がある。すでに察知しているだろうが、その第2次世界連結において繋がった世界が、緑の世界〈グリューネシルト〉であるのだ。
 緑の世界の連結は、第1次世界連結に劣らぬ衝撃を世界中にもたらした。まだ他にも存在しえた世界があったとは! 4つの世界が連結し、世界の異変へ一丸となって対処しようと結託し、青蘭島の整備がほぼ完成しつつあっただけに、5つ目の世界の出現は予測を超えた青天の霹靂であった。第2次の連結が起こった。これで終わりなのか? 第3次、第4次の連結が起こるのか? 当時の為政者、錬金術師、女神、科学者は、出来のいいものだと自負する頭脳を焼き切れるほど回したが、たった1つの明解を出すことはできなかった。
 第2次世界連結は、風紀委員たちが強力なウロボロスと戦い、ゼンジが短期入院する羽目となった戦いの1か月前に起こったばかりである。青蘭学園へ第何期目かの新入生を迎えてすぐのことであった。そのため、ゼンジも遥も、突如として空気が揺れ、空に緑の世界への門が開いた瞬間を目撃している。新米のαドライバーであるゼンジと、新米のプログレスである遥が、エクシード・リンクの練習をしている最中のことであった。
 緑の世界から最初に青の世界を訪れたのは、グリューネシルト統合軍所属のプログレス、マユカ・サナギであり、件のウロボロスに止めを刺した、例のプログレスも彼女である。
 尖兵として送り込まれたのか、たまたまそうなったのかは不明だが、彼女の後からも、続々と緑の世界のプログレスが来訪した。そのほとんどが、グリューネシルト統合軍に所属する軍人であり、軍部からの命令によって活動する者が多数を占めたが、中には他世界同様に個人的好奇心だけを持って訪れる者、自己の願いを叶えるために訪れる者も混ざっていた。
 後者の目的をもって人知れず緑の世界から青の世界に降り立った1人と1匹の少女らと遥たち風紀委員は奇縁によって巡り合うこととなり、共に未来を手探りで模索することになるのだが、当人たちがそのことを事前に知る術はなく、運命の巡り合わせだったと、後になって述懐することしか、彼らにはできないのだ。
 いつの時代においても、「答え」とは、振り返らなければ見つけ出すことはできない。なぜなら、始まりとは常に背後にあるものだからである。そのことを最も知悉しているのは歴史家か地質学者であるだろうが、歴史家たちの中でも「歴史の本質」を理解している人間は、一体どれだけいるだろう。
 ”その時”がいつであったのか、正確に指し示せる者はいない。10年前の第1次世界連結の時がそうであったかもしれないし、緑の世界が連結した第2次世界連結の時かもしれない。もしくは、青蘭島の花畑で、1人の少女が目覚めた時かもしれない。記憶を失っている彼女は「アウロラ」と名付けられ、自らと他者、2つの運命の手綱をその手に握り、「歴史の本質」へと彼らを導いていく騎手たる役割を果たすのは、まだ当分先のことだ。
 ”その時”が過ぎてから、歴史は急速に収斂し、密度を高めている。あらゆる事象がその兆候であるが、現代においてそれに気づけた者はいない。知り得る手段を有しているのは、やはり未来の歴史家のみであろう。
 「歴史の極点には終末のみがあるだけだ」とは、とある歴史家のアフォリズムだが、悲観主義の諦観だと嘲笑する権利が、何者にあろうか。
 彼らは起源を知らねばならない。歴史を逆行し、模糊とした本質を見極め、「答え」を手繰り寄せなければならない。それは責任である。歴史への責任であり、現在への責任であり、そして未来への責任である。
 歴史は繰り返さない。装いを変え、化粧を施して灰の中から生まれる。それは別個の歴史であり、灰に埋もれながらも生き残った人は同じ歴史を生きることはできない。過去は消え去り、新たな歴史が始まる。郷愁を抱えながら、生き残った人々は次の者へ託すべき「答え」を”過去”となる”現在”に刻み付ける。
 人間に許されているのは、自分の理想とする未来を信じることだけなのだから。
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