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仲間・親友・それから…

原作: その他 (原作:ハイキュー) 作者: 久宮
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第10話

「そんなとこにいると、湯冷めするよ」
花巻は、声の聞こえた方へ顔を向ける。
「呼びつけておいて、よく言うよ」
言い終わると、目の前から缶が放られる。
「俺、歯磨いちゃったんですけど…」
花巻がキャッチしたのは、ホッとカフェオレだった。
「それ、前に俺が行ったやつじゃん」
松川は笑いながら、花巻の隣に座る。二人とも、何も言わないまま、缶をあけ一口飲む。
「で、俺に言えることなの?」
この数日、花巻は気になっていたが、松川から何も言わない限りは気にしない様にしようと決めていた。でも、時間とを作って欲しいと言われた。我慢していたが、ここで松川の意志が変わらないうちに、本題に入りたかった。
「はっきり言うね」
松川は花巻の方を向きながら言う。
「だって、やっぱりなんでもないとか言いだされたら、モヤモヤすんじゃん」
花巻は思った事を、そのまま伝えた。
「………」
少しの沈黙が二人の間にあった。
「あのさ…、花巻が好きなんだわ」
「…は?」
松川は缶を見ながら、はっきりと言葉にした。だが、まさかこんな話だとは思ってもみなかった花巻は、間の抜けた声しか出せなかった。
「まじで?」
「うん」
「俺なの」
「うん」
花巻も今まで彼女がいた事もあったし、告白だってされてきた。でも、出てくる言葉は、簡単な単語の様なものしかない。
「え…いや…。松川って彼女いた事あったよな」
「あったね」
「男が好きなの?」
「ううん。女の子が好き」
「うん。俺、男…」
「だね…」
少し会話の様なものをしてはいるが、花巻の頭がついてこない。
「何、及川たちにあてられたの?」
花巻はまだ質問を続ける。
「それはないな」
松川も淡々と答えていく。
「ただ…」
松川は言葉を繋げる。
「気がついたら、花巻がいつも俺の視界に入っててさ。何なんだろうって、考えてた」
その言葉を聞いて、花巻はある事を思いだす。何か視線を感じて、そちらの方を見ると、そこには松川がいる事が多かった。
(俺を好きだから見てたってことか…?)
花巻がそんな事を考えていると、松川はまだ話を続けた。
「この前風呂入ってる時に、『俺といると楽だ』って言ってたじゃん」
確かにそんな話はした覚えがある。その上、その時から、松川の態度が変わっていた。
「俺は、楽とは思っていなかったのに気付いてさ。楽しいけど…楽ってよりも、一緒にいたいから傍にいるんだって」
松川は、缶の飲み口のところを指でこすりながら話続ける。
「無意識で、視界の中に花巻を入れてるのも、隣で騒いでいたいのも、ゆっくり落ち着かせてやりたいのも、全部花巻が好きだからなんだって…ようやく気付いたの」
話終わると、松川は漸く花巻の方を向いた。
「そんなの…全然知らなかったし…」
花巻は何と答えるのが正しいのか、気持ちが整理できていなかった。
「うん、だろうね。俺自身も自覚したのちょっと前だし」
「………」
「でも、俺も知らないうちに、花巻の事を好きになってて、知らないうちに、勝手に追いかけてたみたいだし」
そう言って、いつもと違う顔で松川は笑った。
「松川は俺と付き合いたいの?」
ようやく、花巻は言葉を返す。
「付き合いたいかは、俺もよくわかんない」
「何それ…」
思っていた答えとは違う答えが返ってきたことで、花巻も少し笑いだす。
「でも一緒にはいたい」
「何だよそれ」
ハッキリと答える松川がおかしく思えて、また笑い始める。
「手とか繋ぎたいとか…」
「手を繋ぐより、肩組んでたいかなぁ」
「…それって、やっぱ好きは好きでも、友情の好きなんじゃないの」
ここまで、恋愛っぽくない答えが返ってくることで、やはり及川たちに充てられただけなんじゃないかと思い、花巻は笑いながら口にする。
「…それは違う」
さっきまでのトーンとは違う声で、それを否定する。
「友情だったら、こんなに悩んだりしなかった…」
「ごめん」
失言だったと思い、花巻は素直に謝る。
「とにかく、そーゆー事だからさ」
「えっ…」
急に立ち上がった松川に、少し驚いた顔を向ける。
「俺は何か返事した方がいい?」
その言葉に、松川は目を丸くして少し吹き出す。
「それ、俺に聞くの?」
「だって、分かんねーし、こーゆー時どうしたらいいかなんてさ」
花巻が、俯きながら小さい声で反論する。
「俺は、花巻にちゃんと気持ちを伝えた。だから、これからはもっとアピってくよ」
「そーゆー風になるの。じゃあさ…断ったら…どーなっちゃうの…」
また、小さい声で花巻は話した。
「もし、好きになったことがキモイなら…部活以外では、なるべく近づかない様に努力するよ。でも、バレーだけはは一緒に戦いたい」
松川はハッキリ言った。
「なんかさぁ、俺、逃げ道なくない?」
花巻は、松川の顔を見ながら話す。
「別に、松川のことキモイとか思わないし、バレーだけじゃなくて、これからも一緒にいたいし、かといって、あんま好きなのアピールされてもどうしていいか分からないし…」
「うん。正直言うと、逃がすつもりはないんだよね」
「…なにそれ、怖いじゃん」
「うん。ルートを絞るのは得意なんだよね、俺」
「………」
松川があまりにドヤ顔で言うから、花巻は一瞬言葉を失ったが、次の瞬間思い切り吹き出した。
「そうだわ。それ、松川の本職じゃん」
ひとしきり笑ったあと、笑涙を拭きながら、花巻は松川の方を見る。
「もう、最初から俺に逃げ道なんてなかったんじゃん」
あまりの笑いっぷりに、少し松川はばつが悪くなった。
「いいよ。付き合おう」
気持ちいいほどはっきりと、花巻は言う。
「これからこの選択がどうなるか分からないし、何が変わるのかもわからない。けど、俺も松川と一緒にいたいよ」
本当に花巻から返事をもらおうなんて考えていなかった松川は、花巻の言葉に動きが止まった。
「あははっ。なんつー顔してんの。…ってか、そんなかわいい顔とかできんだな」
花巻の笑いが止まらない。松川は、自分がどんな顔をしているかは分からないが、急には透かしくなり、腕で顔を隠す。
「付き合ってなかったら、知らなかった松川の一面をさっそく見たわ」
花巻は立ち上がり、歩き出そうとする。
「手をつなぐより、肩組んでたいんだもんな」
そう言いながら、松川の肩に手をかける。
「そーだよ」
松川も開き直ったのか、花巻の肩に手をかける。そして、宿舎内に向かって歩き始める。
「あ、でもエロい事はまだカンベンな。さすがに、そこまでの心構えはまだないから」
必死な顔をして、花巻は松川を見上げる。
「さすがに、それは考えてなかったわ。じゃ、キスはあり?」
松川も花巻の方を見ながら言う。
「キスとかしたいの?」
花巻はそのまま聞き返す。
「いや…それも考えてなかったわ」
その答えに花巻はまた笑い始める。
「ホントに俺たち付き合ってることになるのかねぇ」
花巻の言葉に、
「大丈夫。もう逃がすつもりはないし、これからドンドン仕掛けていくから」
と、はっきりを松川が宣言した。
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