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仲間・親友・それから…

原作: その他 (原作:ハイキュー) 作者: 久宮
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第9話

花巻は、夜中にふと目を覚ました。目をあけたのだが、ぼーっとしているようて、いまいちピントが合わない。
(なんか目の前にあんのか?)
そう思い、手で目を擦ろうとする。すると、手が何かに当たった。その間に、徐々にピントが合ってきた。目の前にあった物は、松川の寝顔だった。
「うぉっ」
あまりの近さに、思わず声が出た。
(びっくりした…。ってか、なんでこんな近くにいるんだよ)
花巻は自分が寝ている位置を確認する。多少は真ん中からはズレてはいるが、ほぼ中央に寝ている。つまり、松川が自分の布団と花巻の布団の境目で寝ていることになる。
(松川って、こんなに寝ながら動くやつだっけ)
今まで何度も合宿があったり、お互いの家に泊まったりしていたが、そんなに動くやつじゃない事をは、花巻は知っていた。めずらしいこともあるのだなと思いながら、松川の寝顔を見る。
いつも見ている顔なのに、目を瞑っているだけで、なんだかいつもと違う顔に見える。
「ホント、高校生に見えない顔」
とても小さな声で、独り言が口から洩れた。
癖の強そうな髪の毛に、少し太めの眉。無意識で指が松川の眉に触れる。
「…年相応に見えなくて悪かったな」
その声に、慌てて手を引っ込める。
「悪い、起こしちゃったな」
急いで花巻は謝る。
「いや、少し前から起きてた…」
「んだそれ」
軽く笑いあう。
「ってか、珍しいな。松川って、いつもはあんま動かないで寝てんのに」
花巻が話しかけると
「んー…花巻の顔見てたら、いつもまにか寝てたみたい」
と返ってきた。
「なんだそれ。俺、涎でも垂らして寝てたとか」
花巻は笑いながら言う。
「………」
花巻が言葉を返してから、松川は花巻の顔をみたまま、じっと黙り込んだ。花巻は不思議に思い、松川に顔を見たまま首をかしげた。
「あのさ…」
少し迷う様に、松川が話し出す。
「合宿の最終日前の夜、寝る前でいいから少し時間取ってくれない」
まっすぐ花巻の方を見ながら、松川が言う。何かあるのかと思ったが、今まで一緒にいた中で、こんなに言い淀んでいる松川は珍しく、何か今じゃ話せない事があるんだろうと思った花巻は、
「分かった」
と、一言だけ返した。
「ありがと。じゃ、寝るね」
おやすみと言いながら、松川は花巻に背を向けるようにして、布団にもぐり直した。
花巻は、やはり何か言いたい事があったのかと思いながらも、ちゃんと話してくれようとしている事にほっとした。
(今は合宿に集中しなきゃな)
そう思いながら、布団をかけ直して目を瞑った。

翌日からは、朝からハードな日が始まった。
朝6時からのロードに始まって、夕飯後の自主練までみっちりしたスケジュールに追われた。中には、倒れかけた部員もいたり、風呂で寝落ちする部員も多くでた。
最終日前、監督から「今日の夕食後の自主練、明日の朝練の禁止」が言い渡された。理由は、この数日動かし続けた身体を、きちんと休めて、また、明日からの通常練習に備えるためである。
部員全員バレーボールは好きだが、さすがに休めるときいて、少し喜んだのも事実だ。
夕食後、1年生から順に風呂に入って行く。
「2年終わりました」
矢巾から風呂の順番を知らされる。
「温田―、風呂に行こうぜ」
花巻は、近くにいた温田に声をかける。
「よーし、ゆっくり浸かってやるー」
温田もテンション高めに答えた。その声に、他の3年生たちも風呂の準備をし、部屋から出て行く。
花巻は、いつもなら松川に声をかけるのだが、この後時間を作って欲しいと言われているのもあり、無意識ではあるが微妙に声をかけるのをためらってしまった。
その様子を、少し離れたところから岩泉が見ていた。そして、花巻から松川に目線を移した。それに気づいた松川も、岩泉の方を見る。だが、特に何か会話をしようとはしない。
「俺も風呂行くわ」
そう言い、岩泉は立ち上がる。
「あれ、及川と一緒にいくんじゃないの」
温田が振り返りながら、岩泉に話しかける。
「別に約束してるわけじゃねーよ」
温田に返事をしながら、部屋を出る。
「お前はまだ行かねえの?」
岩泉は振り返り、松川に話しかける。
「これ少しやったら行くわ」
と、スマホアプリゲームの画面を見せながら答える。
「ふーん…」
そのまま岩泉は部屋のドアを閉めた。

「あー…合宿はきついけど、ホント風呂はいいんだよなぁ」
花巻が湯船に浸かりなが言うと、同じく湯船にいた部員たちが「それなー」と同意する。
「家じゃ、こんなに手足伸ばせないいもんな」
バレー部なだけあって身長が高い。全員同じ事を考えているのがよくわかる。
「待っててくれてもいいじゃん」
浴室全体が落ち着いた雰囲気になっていたところに、急にドアがガラッと開きながら大きな声がする。
「チッ」
分かりやすい大きな舌打ちが浴室に響く。
「聞こえたからね、岩ちゃん」
さらに大きな声で、及川が言う。
「少しは静かにできねーのかよ」
と岩泉も大きな声で言う。
「いや、どっちもどっちでしょ」
及川の後ろから、物静かな声で松川がつっこみを入れながら、浴室に入ってきた。花巻は、その声に無意識に身体がビクッと動いた。
岩泉に怒られ、松川につっこみを入れられた及川は、小さな声でブツブツ言いながら、頭を洗い始める。
しばらくの間、浴室には静かになった。
「さぁて、俺もお湯に浸かろー」
及川が浴槽に来る。その様子を花巻はなんとなくみていると、視界に松川が身体を洗い終わるのが見えた。
「逆に俺は、そろそろ出るかな」
そう言って、花巻は勢いよく立ち上がる。
「ゆっくり入んじゃなかったの?」
後ろから声がかかったが、
「んー、何かのど乾いちゃった」
と笑顔で答えて、浴槽から出る。ちょうど、浴槽に向かって歩こうとしていた松川をすれ違う時、
「この前のベンチに行ってるわ」
と、目をあわせないまま、小声で話しかけた。それ以外の事を、花巻も松川も言わなかった。
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