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白いヴェールを貴方に

原作: その他 (原作:あんさんぶるスターズ!) 作者: 緋
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この瞬間のために


レオが立ち上がると泉は静かにそれぞれ、凛月、嵐、司の目を見た。
結局のところレオは何の楽曲をするかだなんていってもいない。
つまり、合わせろ。そういうことだ。
あまりにといっていいほどKnghtsは「合わせる」ということに慣れていた。
それもそのはずである。何度だって、ピンチの時だって、いやむしろそのピンチの時のほうが多かったから。その時いやというほど合わせてきたメンバーである。
慣れていないはずがない。
レオの演説とも聞こえる声が式会場に響いている。マイクを通さなくても聞こえるのではないかと思えるほどの声がどんどんと小さくなっていく。
それは、パフォーマンスを繰り広げるための下準備ともいえる。

『それではここで、俺たち、Knghtsからあんずに向けて、最高の曲とダンスを、送らせてほしい。観客も楽しめるようなこの結婚式にふさわしい、そんなものにさせてくれ!』

そういってレオがばっ、と腕を広げた。
始まりはレオから歌い始めて、そして嵐と泉がそれに乗る。
凛月と司が立ち上がり曲に合わせてステップを踏むとパフォーマンスが始まる。
あの時の、学生の、それが思い出されるような。
すべてを圧倒する、王者のパフォーマンス。
レオがセンターへと躍り出て、その周り囲うように支えるように騎士たちが揃う。
音楽は終わりを迎え歌声が途切れた時ステップもとまる。
ぱち、と一度拍手が動いたとき、それは広がり会場を巻きこむ。
隣の席からはさすがはKnightsだなんて言葉すら聞こえてくる。
当然だ、と誇るような気持ちが湧き上がってくる。
昔といってしまっては言い過ぎだろうか。確かに感じていたあの時の記憶。
それは変わることなくあの時のままだ。
す、と椅子に座り直し惜しみなき拍手を享受する。
アイドルが参列している結婚式なのだからそのあとも曲とダンスを披露するチームもあった。ただそのどれもが花婿を、花嫁であるあんずを喜ばせるうえで大成功だったことは間違いなかった。
余興というのは楽しいからだろうか時間というものが早く過ぎる。
泉はとんとんと進んでいく結婚式にどこか焦りを感じていた。
祝うことに集中するべきではあるのだが、さらに泉は一大イベントが待っているのだから
焦りも当然のことであった。
結婚式はケーキ入刀が始まり、そして花嫁のブーケトスへと移行する。
泉が立ち上がるのは今、ここだった。
嵐はずっと泉の隣にいて目の前のあんずにきらきらとした瞳を向けている。
嵐の輝く瞳を見て泉はふ、と笑った。
さっきまで焦っていた気持ちもどこかへと飛んでいってしまった。
このあまりにも美しいいつまでも隣にいる存在を自分の手で幸せにしたい。
それができる機会を与えてもらったのだ。
プロデュースしてもらえるのだ、迷うことなどどこにもなかった。
そう思うと泉の気持ちはすっと晴れていく。
すべきことのタスクを頭の中で整理をする。
ウエディングドレスを着たあんずがこちらをまた、見ているのに泉は気づいた。
その目はきっと最初に連絡を寄こした時、そして覚悟はありますかと直接聞いてきたときのあのプロデューサーの目だ。
主役であるはずなのに、と泉はまた笑った。
そして、ありがとう、と微笑み返すのだ。

澄み渡る青空、雲は一つとしてない。
教会のベルが最も似合う場所、結婚式場のコテージでそれは行われる。
純白の花嫁の手に咲き誇るその花は嬉しそうに咲いていて花弁を揺らしている。
きっと、なるくんはあの花束受け取りたいんだろうなあ、と泉は思う。
だって女の子のあこがれだろうから。そして、それは嵐の憧れだろうから。
でも、ごめんね。
あんずがその花束を投げる。
ブーケは宙を舞い、青空をなぞってゆっくりと落ちていく。
あまりにきれいな光景だ。見惚れそうにもなる。
ただ、そこでじっとしているわけにはいかなかったのだ。
物心がついたときには褒められたすらりと長い手足、それに今は感謝をしながら
花束を片手でふわりと受け取る。
うまく受け取れた、と微笑む。
え、といった言葉が嵐からも周りからも泉の耳へと届いた。
きっと驚いただろうな、と思う。
参列者に女が少ないわけではないし、受け取ろうとした人も少なくはなかった。
きっと欲しくても女の子に譲ろうと思ったのだろう、ただ、控えめに手を伸ばしていた嵐も衝撃に目を見開いている。いつも、なるくんはそうだった、と泉は思う。
いつだって、周りを気にして、手に入るものでさえ自分は似合わないから、と控えめに手は伸ばす。
掴み取ればいい、認めてしまえばいい。
そう、泉は思っていた反面そんな嵐がいとおしくて仕方がなかったのだ。
周りの驚きから言ってしまえば、一番手に取りそうにない男が手に取った。
そんなところである。
あんずはとても満足そうに笑っている。
受け取った花束を大事に抱えなおし、くるりと泉は踵を返す。
凛月は察したらしい。がんばれ、せっちゃん。
と声をかけてきた。
その長い脚で、瀬名泉は歩みを進める鳴上嵐の元へと。
目の前についたとき、驚きに見開かれていたその瞳が落っこちてしまうのではないかと心配になるくらいにまた大きく開かれている。
その様子に泉は思わず笑ってしまう。
だが、また表情を引き締めなおす。

「なるくん。あんたに手に入れたいものがあるのなら、もう遠慮なんてしなくていい。」
そう言ってひざを折り、傅く。

嵐の手を取り、瞳を覗く。

「この花束も、女の幸せも、俺の全部もあんたにあげるから。俺が暴走するときは止めてほしい。なるくんはいつだって、俺の隣にいてくれたでしょ。モデル時代から、輝いていたあの時だって。これからも、ずっと。そうだね、永遠に。俺を支えてほしい。」

花束をささげ、ずっと、隠してきた想いと一緒に指輪のケースの蓋を開く。
隠してきたのは今の一瞬のためだったのだ、今の泉にはそう言える。

「結婚してください」
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