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白いヴェールを貴方に

原作: その他 (原作:あんさんぶるスターズ!) 作者: 緋
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花嫁の祈り

*
花嫁に、当日の主役である彼女に言われるだなんて。
だが、このままでいいんじゃないか、と放置してきたのは自分で。
また、鳴上嵐という存在を形のあるもので幸せしたいと思ったのもほかでもない自分だった。
学生の頃、嵐と泉の関係に気づいたのはあんずが最も早かった。
なんとも、女の勘というものは恐ろしい。
気づいた当初、何か言いたげにしている彼女に泉から詰め寄ったのだった。
自分が口を出すことではない、と思いますが。
と、始めた彼女の言葉は泉を驚かせた。

「決して私が二人の関係を否定するつもりがないことだけ、念頭に置いておいてください。泉先輩と一緒にいる、お姉ちゃんはとても幸せそうだから。
そして、泉先輩もそれは同じです。私は幸せそうな二人を応援したい。これは、プロデューサーとしてではなく、一人のお姉ちゃんの友人。そして、泉先輩の後輩としての気持ちです。」

でも、とあんずは言葉を進めた。

「私のような人間ばかりだとは思わないでください」

言葉の真意は泉にもすぐわかった。
まず男同士である不自由さ。世間体というものは常識に囚われていて、過去にあるものばかりに準じて生きようとしてしまう。自分がそうではないから。男と女でいることが普通であって。男同士だなんて。普通では、そう。きっと普通であればありえない。
そのうえ、自分たちはアイドルだ。
学生であったとしても、元々モデル業をしている嵐も泉もメディアには出ているし知名度だって確保している。それはありがたいことであるが、裏を返せば二人の関係性を暴くかの性のある恐ろしい媒体だ。そして、暴かれたあとは好きに、勝手に二人を否定することだろ
う。
それは容易に想像がついた。

「それは…わかってるつもりだけど」

だから、二人ともかくして。隠れて、いたのだから。

「私は、プロデューサーとして、二人の関係を卒業まで守ることができます。ですが。卒業をしたあと、お二人がどういった道をとるのか。それは、二人次第だと思うんです。せっかくであれば、二人には形あるもので幸せになってほしい。嵐お姉ちゃんが相手であるのなら尚更。」
「ふ、生意気。」
「泉先輩の後輩ですから」
「どういう意味かなぁ~?」

いつも通りのそんな会話。
ふと、笑いあったあと、あんずがまた泉を見た。

「必ず。幸せになってください。お姉ちゃんを幸せにしてください。」
「当たり前でしょ」

どうか、どうか。
と、祈るようにいったあんずにありがとう、とだけ返すとその場は終わった。
決して望まれたものではないとおもっていたからこそ。様々なユニットをプロデュースしている彼女だからこそ、言葉は重く泉に響いた。
そのあと、凛月、司、レオの順でばれていくのだがそれはまた。
もう守られるような子供じゃないんだよ。
と、ポケットに入れたそれをまた握りしめる。
決意を秘めた顔をあんずは見て安心したように笑った。

「あぁ、よかった」

幸せになってくださいね、必ず。
あの時の言葉を反芻するようにあんずは言った。
その目には涙も浮かんでいた。

「あんたが先でしょ。今までありがとう。幸せになるんだよ、あんず」

そして、泉はまたKnightsの元へと戻る。

「なぁにセッちゃん今日の主役と話してたの~?」
「なっ!泉先輩!今日の主役はお姉さまですよ!?いじわるはよくないです!」
「何もいじわるしてきたなんか言ってないでしょ~?」
「セナ!あんずと抜け駆けでしゃべってきたのか!ずるい!」
「やだぁ~焼けちゃうわねェ」

楽しそうなメンバーに泉はに、と笑う。
最後に言葉を放った嵐に目を向け。
あんたのこと、しゃべってきたんだよ。
あんずと。なるくんが幸せになる方法を。
あいつの最後のプロデュースになるかもね。
なんて、心の中で呟きながら。


式は始まった。
あの時、あの場所。夢ノ先という場所に集まっていたアイドルたちはこぞってかつてのプロデューサーを祝福した。
花を贈り、歌を送り、祝福をささげた。
白のヴェールに包まれ自分の選んだ男の隣に並ぶ彼女はあまりにも美しい。
泉の隣にいた嵐はまた涙を浮かべている。

「きれいね、あんずちゃん」
「なるくん泣きすぎじゃない?」

メイクとれるよ、と笑うといじわる!とそっぽを向かれてしまった。
惜しいことをしたかもしれない。
涙を流すなるくんがあまりにも綺麗だったからふと零してしまった言葉だったのだが、
もう少し見ていたかった。

「セッちゃん~今はあんずがメインだよ~?」

ナッちゃんのこと見過ぎ。
凛月はそう言って泉のおでこを指ではたいた。

「わかってる」

わかってるけどどうしても、目の前の暴力的なまでの美しさから目が離せないのだ。
花嫁であるあんずに目をまた向ければこちらを一度みたような気がした。
目を合わせて。
数秒。
彼女はなるくんにも目を向けたように見えた。
一瞬だけ見えたその目は学生の頃ずっと自分たちを厳しくも優しくみていたプロデューサーの目だ。
必ず成功させるという目だ。
覚悟はありますか。その言葉をかけてきたのも間違いなく彼女だった。
泉先輩には、そういった彼女もまた。覚悟を決めていたのだ。
また、幸せそうに笑いはじめた今日の花嫁に。
大丈夫だよ、と心の中で声をかけた。
きっとその声は届いている。
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