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白いヴェールを貴方に

原作: その他 (原作:あんさんぶるスターズ!) 作者: 緋
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覚悟

Tricksterが挨拶を終えたらしい段階でKnightsの面々はかつてのプロデューサー、そしてかつての友の元へと足を進めた。
白でまとめられたウェディングドレスは記憶の中の少女を一人の立派な女性にしていた。彼女は挨拶に来たメンバーを快く受け入れる余裕を見せている。
立派になったもんだな、と思わせられた。
かつて、王だった月永レオは膝を折る。
かつてといっても今いるメンバーにとっては王だ。騎士たちはそれに習って膝を折り腰を低く構えた。

「結婚おめでとう、あんず。あの日、お前が俺に王冠を戻そうとしてくれたことを俺は忘れない。俺を王としてくれたのはお前がいて、このKnightsのみんなが認めてくれたおかげだ。その恩人のあんずがこんなにも美しいんだ、」

そこまで言ってレオはにっ、と笑った。

「今日は無礼講だな!な!あんず笑ってくれ!うっちゅ〜☆」

レオがよくやっていた仕草、それをあんずは懐かしそうに見たあとにこりと笑いレオに習った。

「王様は相変わらずなんだから、」

と、泉は笑った。宝物を懐かしむように。

「今日は珍しく褒めてあげるよ。」

胸に手を当て泉は傅く。

「あんず、結婚おめでとう。ちんちくりんだったあんたがこんなに大人になるなんてね、本当に綺麗だよ。」
「こんなに素直な泉ちゃん見てたら空から槍でも降るんじゃないかって心配になっちゃうわよね」

嵐は泉を見たあとにあんずに目配せをしてウインクをしてみせる。

「はあ〜?なるくんどういうことぉ?」

突っかかろうとする泉をまあまあ、と止めたのは司だった。

「本当に綺麗よォ、あんずちゃん!」

嬉しそうな嵐の声が響く。

「さすがお姉ちゃんの妹だわァ!」

明るく努めて言う嵐の声はどこか震え美しいアメジストの瞳には涙が光る。

「…ナッちゃん泣いちゃった〜」
「やだ、今は我慢しようと思ったのに」
「別に、我慢しなくてもいいんじゃない」

そう、泉は隣で嬉しそうに泣きながら笑う嵐の頬をするりと撫でた。

「ちょっと〜?惚気なら別のところでしてね、今はあんずが主役なんだから」
「っと、そうよね!ごめんなさい」

いいんだよ、と笑うあんずに凛月はも〜と声を漏らした。

「仕方ないなあ、相変わらずだよ。ナッちゃんとセッちゃんは。」

そういった凛月は改めてあんずに向き直る。

「結婚おめでとう、あんず。あんたの血が他のやつのものになるのはちょっと残念だけど〜?幸せそうなあんずの顔が見れてよかった、本気でそう思ってるよ」

凛月がそう言い終わると自分の番だ!と司が胸を張る。

「お姉様!私たちだけのお姉様だと思っていましたが、お姉様が選んだ方の隣で笑うお姉様は誰よりもお美しいです!そして、お姉様が選んだお方です。私は信じております」
ずっとお幸せに。

微笑む司にありがとう、と返したあんずはとても幸せそうだった。
よし!とレオが声を出す。
そして立ち上がり、泉、嵐、凛月、司もそれに習い立ち上がる。

「あんず!俺たちはいつまでもKnightsだ!お前が助け、支えてくれたおかげで、俺たちはまだKnightsでいられてる。結婚おめでとう、そしてありがとう。幸せになるんだぞ」



「あんずちゃんが幸せそうでよかったわァ」

思わず泣いちゃった、と照れるようにして笑う嵐に泉は幸せそうな顔だな、と静かに微笑む。
もし、あんずのような思いを、嵐にさせてやれたら。と、そう思うのだ。
うだうだとここまで来た。

高校を卒業する前に嵐に告白をした。嵐は告白を受け入れてくれたが、世間体はお互い守りたい、と関係をひた隠しにしてきた。あんずにも、Knightsのメンバーにもすぐバレたが。   
結婚なんてしなくていい、と思った。二人でいればそれでいい、そう、思ってきた。
でも、テレビに映る花嫁を見る度に"いいな"と零す嵐を見てしまっては叶えてあげたいとそう思ったのだ。そう、思ってしまった。
その翌日、すぐに指輪を買った。指輪のサイズもどんな宝石が好きで、どんなのが好きかなんて、ずっと隣にいたのだからすぐにわかった。
ただ、その指輪を渡す勇気がいつまでも出なかった。
誰よりも麗しく誰よりもかっこいい、そんな鳴上嵐を愛していたから。女のように扱われることで傷つき、男のように扱われ苦しんだ過去を知っていたから尚更だった。
でも、白いヴェールで顔をつつみ白のドレスを身に纏う。花に囲まれ、みんなに祝福される。きっとその時、嵐は誰よりも美しい。そして、そのヴェールを外すのは自分であれば、その隣に立つのが自分であれば。と、そう、


「泉先輩」


その場を離れようとした時だった。
あんずから声がかかり思わず振り返る。
その時のあんずの表情は先程までの美しい花嫁、それだけではなかった。
かつてのプロデューサー、Knightsを支えた唯一の存在を思い出すそんな表情。
勘づいたのは泉だけではないらしい。泉が支えていた嵐の背中を凛月がそっと肩代わりする。
行ってきな、と言われたようなそんな気がした。
あんずに止められた泉はKnightsから離れ一人、あんずの元へと寄った。

「…なぁに」
「覚悟は、できましたか。」

かつて、と言ったがそれは間違いだったようだ。
彼女は今でも、間違いなくプロデューサーだった。
瞳がそう、語っている。
思わず引けそうな足を泉はプライドで前へと運んだ。

「覚悟なら、できてる。俺は覚悟してここにいるよ。」

そう言って泉はズボンに入れたケースに指をかけた。
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