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先輩が〇〇シリーズ

原作: その他 (原作: ペルソナ4) 作者: 雷鳴
目次

先輩ともう一人の先輩…?後編(社会人設定)



やると決めたら行動は早かった。
寝巻きのままでは出かけられまい。もう1着手頃な服を発掘した完二はそれをイザナギに着せ、適当な上着も見繕い出掛ける支度をする。靴は元から履いていたもので十分だろう。
あれやこれやと着せているうちに多少モコモコになったが、致し方ない。
イザナギはされるがままだったがどこか嬉しそうな雰囲気だ。
「とりあえず飯だ」
時刻は昼を少し過ぎたところである。イザナギが現れなくとも、午後の仕事への支障を出さないために昼食を摂らねばならぬ時間だった。まあ今日はもう仕事はしないが。
「お袋が出てっからな今日は。運が良いのか悪いのか分かんねえが、とにかく食いに行こうぜ」
『それなら…フードコートが良い』
「良いのか?愛家もあるし…それにもうちっと良いもの食わせてられっけど」
『一緒にいれたらそれで良い』
そう言いはにかんだのを見て、そーいやこういう人だった、と完二は思い出したのだった。


学生時分に比べて稲羽市は変わったところもあれば変わらないところもある。
変わらないことの代表といえばジュネスだろう。フードコート内の店の顔触れは当時から変わっていない。
完二は昔そうしたようにステーキ肉のセットを頼み、後でまた追加するか、それどデザートを食べるか悩むつもりでいる。
そうするとイザナギも同じものを食べたがったので驚きつつも注文した。
「何かすっげえ懐かしい気になるなコレ…」
目の前のステーキ肉にナイフを入れて頬張る。熱い肉汁が口の中を占めて、同時に多幸感も湧いてきた。
『そうだな』
完二を見習うようにしてイザナギもステーキ肉を口へ運び、もぐもぐと味わっている。
「アンタ…いや、お前。昔の先輩より若く見えっけど、憶えてんのか?」
『何となく"分かる"…そんな感じがする』
ゴクリと肉を飲み込む。
『この味を知ってる気がする』
「……へぇ〜そうか!ならよ、折角なんだから夜にやっぱり愛家行こうぜ、昔肉丼一緒に食ったじゃねえすか。
学校も外から眺めるくらいは出来るだろうし、高台に行ったらこの町大体見渡せるしよ、そうしようぜ」
完二は妙に嬉しくなってきて早口にそう言ったが、イザナギも同意するようにコクコク頷いた。
絵面こそ未成年以下を連れ回すもういい年の成人(おっさん顔)だが、着せ過ぎた衣服がそれを誤魔化してくれていた。
完二自身としては、鳴上本人と久しぶりのデートをしているような錯覚も覚え、トキメキが無いといえば嘘になる。
(けどこいつが先輩とタメぐらいじゃなくて、もっと若くなってんのはよく分かんねえしな…ま、あんま余計なことはしないどくか)
そう思いつつ完食し追加の肉を頼むことにする。数分遅れてイザナギも同じようにし、二人で楽しい昼食の時間を過ごした。
『食べた…』
「食べたな〜…。最近飯軽めだったからちょっとキツイけど、美味かったな」
『あぁ、楽しかった』
「腹ごなしに学校まで歩こうぜ。オレらもう部外者だから入れはしねーけど。」
『そうだな、行こう』


学生時代毎日通った坂道を登り切り、学校の正門に辿り着く。
門は閉まっていたが、外からでも校舎が変わらずそこにあるのが十分見て取れた。
「何か懐かしいよな、卒業して何年経ったんだろうな…」
『そうだな』
イザナギは"分かって"いるようだ。校舎に向けられた視線は正しく懐古しているように見える。
完二もそこは同じだった。ここでの出会いが完二のその後の人生を大きく変えた。間違いなく。少なからず鳴上との出会いがなければ自分はどうなっていたのか…出会った今ではもう想像もつかないが。
『抜け道…ってどこにあるんだ?』
「おっ…それはなぁ……」
過去の記憶を辿りながらその場所に案内する。


稲羽市で変わったところのうちの一つは惣菜大学が無くなったこと。
変わらないのは天城屋旅館と神社仏閣。
いや、改装が済んだあたり神社は変わったと言えるのか。
狐は今日は現れなかったが、数年前に代替わりしたのもあるだろう。完二は狐のことは詳しく知らないが。
イザナギはそう"分かって"いた。
かつてしたようにお詣りして手を合わせる。
完二は雪子にイザナギと引き合わせるのは避けたかったらしく、旅館と神社の付近に来るのは渋っていたが、惣菜大学跡地を見た後で気にするなと言うのも無理があると分かっていたのだろう。
最終的にはイザナギに付き合った。
行きの時点で気になるだろうなとは思っていた、と完二は言った。
「昔の記憶もあるんすか」
『ある。オレはもう一人のオレとずっと一緒にいたから。あそこで、オレの力になる前からずっと』
「そうっすか…成る程な」

御神籤を引いて渋い顔をしてそれをポケットにねじ込んだ。あまり良い結果では無かったのだなとイザナギは察する。
「アンタは…鳴上先輩本人…"オレが知る"鳴上先輩本人…じゃねえっすけど。けど、アンタ個人とこうして堂々と歩くのって初めてかも知れねえ」
『デートだな』
「……な、なななな……!?」
『菜々子?』
「ち、違うっビックリしてんだ!…なんかさっきに比べて先輩そっくりになってきてねーか」
実のところ比喩表現ではなかった。完二が思った通り、徐々に徐々に現在の鳴上に背丈が似ていっている。まだ保つが、着た服が窮屈になってきた。
靴は少し痛い…かも知れない。
完二は一度押し黙り、イザナギの様子をじっと見つめる。数秒ののち、イザナギのぐいぐい手を引いて歩き出した。
『ちょっと、痛い。どこに行くんだ?』
「なんか時間があっという間っす。腹減ってきた。
近くまで戻ってきたし愛家行こうぜ」
完二はそう言いつつイザナギの方を振り向かないまま、愛家の扉をガラリと開けた。


その後店で注文し待ってる間、店主にイザナギ=鳴上に気付かれ、誤魔化し方に四苦八苦しながらも、運ばれてきた肉丼に舌鼓を打ち(考えてみりゃ昼も夜も肉食ってんな)、
いっぱいになった腹を抱えて高台へ行き、昔をまた懐かしみながら町に増えた灯りと夜空の星を眺め、数時間を過ごした。
帰ってきたのはもう夜遅くになっていたが、母も休んでいるのか真っ暗な家が彼らを出迎えた。
ろくに連絡もせずに急に留守にしたのを申し訳なく思いつつも、同時に母への感謝と礼を考えながら、そっと自室に2人で入る。
冷気でひんやりとしていたが、2人の人間がいるだけで少し暖まるような気がした。

イザナギが完二の手を握りながら言う。
『今日一日ありがとう。すまない、苦労をかけた』
「先輩のためなら当然っすよ」
『そうか、ありがとう。お袋さんにも宜しく言っておいてくれ』
そう言うので、手段は分からないが"還る"のだなと完二は思った。ところが、
『最後の頼みを聞いてくれないか』
と言うので面食らう。
「な、……なんすか」
『キスさせてほしい』
「エッ」
子どもの姿で現れたものだからてっきりそういう展開はないものだと思い込んでいた…!
「なっ、えっ何でっ」
『シー、お袋さんが起きる』
「いやいや(小声)アンタそりゃもう一人の鳴上先輩っすけど…(小声)キスはちょっと…」
あからさまに同様する完二に、イザナギがやや呆れた声色で言う。
『浮気の心配をしなくても、どちらもオレだぞ』
「いやいやいやいや……アンタは良くてもオレがよかねえんすよ……!」
更に強く手を握られる。
『頼むよ。本当のことを言うと途中からしたくてしたくて堪らなかったんだ。これでも我慢していた方なんだぞ。オレたちはみんなに関係を知られてないし、往来でそんなことをして噂になると困るだろ。昼間はまだオレ子どもだったし』
「そういう無茶いうの本当鳴上先輩って感じっすけど無理っす無理っすマジで何が減るってオレの心が減る!罪悪感がすげえ!」
今この時間ですら働いているかも知れない恋人のことを思うと、例えもう一人の恋人だとしても本人であって本人でない人物相手にそんなことを…と完二は粘るが
やはり同一人物故にイザナギの丸め込み方は凄かった。
『舌入れない、本当、一瞬だからコンマ◯◯秒とかそんなのだからほんと頼むじゃないとオレ成仏できない』
「アンタいつ死んで幽霊なってんだよ!!……あぁ〜ったくよぉ……」
お手上げ侍、と抵抗し突っぱねていた手から力を抜く完二に、イザナギは口角が上がるのをバレないようにしながらも内心嬉しくて仕方がなかった。
鳴上自身の抑圧された欲求により半分シャドウのようになっている今のイザナギは、完二も本心で望んでいない、鳴上自身も本心で望んでいるか怪しい行動をとることに密かに心弾ませていた。
いざ完二の唇に口付けようとする。
しかしその時完二の携帯に着信があった。
「せっ…先輩!?」
『お疲れ様、完二。連絡が遅れてすまない』
「いっ、いや、構わねえっすよ、連絡貰えて嬉しいっす!それより……」
『状況は分かっている』
鳴上のその言葉を聞きイザナギは不満顔をする。
完二はそれを見て心が酷く凍りつくような気持ちになったが、続けて鳴上が話す。もう一人の自分にも聞こえるように。
『今日一日楽しませてくれてありがとう。シャドウ越しだが、完二と一緒に過ごせたのはオレにも"分かって"いたよ。どうしてそんな事が起きたのかはオレ自身もわからないが、凡そのことは完二が考えている通りだろうと思う』
そこで言葉を切り、
『急だが、来週逢いに行く。今日振り回しておいてすまないが、予定を空けてくれないか。我慢のし過ぎは禁物みたいだ』
「は、はい…了解っす」
『いいか完二。目の前のソイツは確かにもう一人のオレだが、これ以上言うことを聞く必要はない。オレ自身がちゃんとお前に逢いに行くから信じて待っていて欲しい。それ自体がソイツの望みでもあるんだから。いいね』
「はっはい!」
『いい子だ。それじゃあ今日はお休み。埋め合わせも必ずするよ』
そう言って電話は切れた。
シャドウと呼び捨てられた彼を見ると、黄色い瞳を爛々と光らせながら、不満顔を隠さない。
「騙して…『ない。それはない。ペルソナだっていうのは本当だし、でもこの通りシャドウでもある。間違いない。記憶が最初朧げだったのもそう。多分、オレを通してもう一人のオレの欲求が解消されたから、物理的に距離が空いて制御から外れてる今、シャドウ寄りになってるだけ』
そうまくし立てるとフフンと笑った。
『本人の代わりに唇奪ってやろうと思ったけど、本人が来るっていうならもう良いや』
鳴上自身が言った通りなのか……と、ガックリ脱力しそうな気持ちになりながらも、完二は尋ねた。
「深読みかも知れねーけど…お前、自分から当て馬になったのか」
『さぁな。そこは想像に任せる』
と言って悪どく笑う。
やっぱり敵わないな、と完二は苦笑いした。
『けれど今日は本当に楽しかった。本心から楽しかった』
「それなら…何よりっす」
完二がそういうと、一拍置いてシャドウが頬にキスをした。
「ちょっと!!」
『シー……オレだって完二のことが好きなんだ。これくらいは許してよ。それじゃあね』

それを言い終わるか終わらないかといううちに、シャドウは光に覆われて跡形もなく消え失せた。
静かな闇だけがそこに残った。
「あっ、てめっ……クソー……」
絆された自分が悔しい。足元の座布団を引き寄せてその上へ胡座をかき項垂れる。
結局のところ仕事が苛烈すぎて"会いたい欲"を溜め過ぎた鳴上によるペルソナの暴走と言ったところだろう。けれど完二は完二で釈然としなかった。
「オレも同じぐらい先輩のこと好きなんだけどなぁ……」
生き霊のように完二の元へ鳴上のシャドウがやってきたのなら、自分のシャドウも鳴上の方へ行ってもいいのに。
歯痒さというか悔しさというか何というか…上手く表現するだけの言葉を完二は持っていない。イライラに直結する。
けれど、それを差し引いても、嬉しくて仕方ない。
「本当に来週会えるんなら、マジで仕事とっととやっつけねえとなぁ」
色々考えるのは完二には向いていない。鳴上がしてくれた約束を胸に今夜は眠る事にした。
短いようで長い一日だった。完二は自分でもそうと気付かないうちに深い眠りへと誘われたのであった。


翌週、お互い猛烈な仕事を終え、区切りをつけ、本当に久しぶりの逢瀬を果たした2人は、シャドウとのデートを上書きするようにより楽しい時間を過ごしたそうな。
めでたしめでたし。


「ところでなんすけど」
『何だ?』
「先輩のペルソナが今の先輩よりも、昔の先輩よりもガキの格好で出てきたのは何でなんすかね」
『オレも確信はしてないが……完二ともっと早く出逢えるものなら出逢いたかったと思わなかったこともなかった。多分それが影響したんじゃないか』
「先輩……(トゥンク」



早よ爆発しろ何やこの会話(作者)

以上お読みいただきありがとうございます。

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