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先輩が〇〇シリーズ

原作: その他 (原作: ペルソナ4) 作者: 雷鳴
目次

先輩ともう一人の先輩…?前編(社会人設定)



前後編に分かれます。
R-15程度の内容になる予定。
今話はエロなしです。
捏造マシマシ注意。
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年末も差し迫る中、完二は仕事に追われていた。
税金関係は大半が母が済ませていて問題ないが、成人式の帯に巽屋の染物を使いたい等の注文が未だに来る。
着物は基本季節を問わないが、やはり入学・卒業のシーズンや何かの記念の時には需要が高まり、共に染物屋も忙しくなる。
今は都会で働く鳴上も、師走となればそのようで、合間を縫ってメールしてきたり、電話してくるものの長時間話すのは難しい。また、逢瀬というのもこの遠距離では機会も減り、
少なからずここ数ヶ月は直接会うことすら出来ていない状態だった。
「ま、風邪引いてねぇんなら良いんだけどよ…」
と、完二は誰にともなく独りごちた。が、やはり寂しくないと言えば嘘になるし、会うことで解消されていた疲れもあるので、それがどうしても溜まってくる。
思わず、ふぅ〜〜…と、大きな溜息をついた瞬間、家の裏口付近からドタッと、何かが倒れる音が聞こえた。
思い当たる大きな荷物は置いていない。
「猫が屋根から落ちでもしたか?……あぁ?」
裏口の戸を開けた先には一見して小学生か中学生上がりたてか、くらいの小柄な少年がうつ伏せになって倒れている。
何故人の家の敷地内で、とは思ったが、この年の頃の子どもは探検と称していろんなところへ潜り込むものだし、
自分といえば学生の頃抜け道を使って、高校へのショートカットを図っていたことを思い出し、やや気恥ずかしくもなりながら完二は少年へ声を掛けた。
「どうした、転んだか。怪我してねーか」
『………』
少年は応えずゆるりと頭を動かしこちらを見上げた。
完二は驚愕する。
「なっ…鳴上先輩…!?」
どう考えてもその面影には見覚えがあった。しかし完二の一つ上の鳴上が、こんなに幼くなるものか。
恋人である以上、彼に子どもがいるわけ無いのは承知の上だし、親戚筋に従弟がいるとも聞いていない。従妹といえば菜々子ぐらいのはずだ。
鳴上少年は完二の驚愕を知らずにか、じっとこちらを見据えている。
顔に土汚れはあるが、見た感じケガのようなものはしてなさそうだった。
しかしその瞳はかつて出会った己のシャドウのように黄色く光っていた。
冷静になる。
「アンタ…いや、お前。どっから来た。」
現実世界ではペルソナを召喚出来ない。しかし霧の日でもない今、ここに現れたソレも真価が発揮できないというのは同じだろう。
完二は自分でも驚くほど平静に少年へ疑問を投げかける。
少年は意外にもすぐ表情を変えた。困惑顔だ。
『わからない…気がついたらここに……』
「……名前は?」
鳴上のシャドウならば、幼く見えても"ゆう"とぐらい名乗るかも知れない。そう思い聞いたが、少年は困惑顔のままこう言った。
『オレは…イザナギ。イザナギだ』
「ペルソナ…!?なのか…?」
完二も同じく困惑顔になる。彼の言うことが事実ならば自分の手に負える案件ではない……即刻誰かに相談すべき、だが……
『寒い』
「あっ…あぁ、そうだな。とりあえず入れ」
鳴上との関係は公にしていない。かつ自分のツテで知るペルソナに詳しい人間というのはそう簡単に連絡が取れそうにない人物ばかりだ。
これは終業時間を待って、鳴上本人に直に連絡が取れることを祈ろう。それ以外の手段は……話を大きくするだけだ。
そう判断し、とりあえず少年を招き入れることにしたが…
後々完二はこの判断を後悔することになる。


ひとまず、顔や身体の土汚れを落としてやり、風呂場で洗わせ、その間に彼の背丈でも着れそうな衣服を見繕う。
運良く幼少期の頃の寝巻きが残っていたので、それにする。
先程までの彼はこれといって特徴のないTシャツとパンツ姿にスニーカーだった。小中学生がしそうな格好そのものだ。
そうこうしているうちに出てきたので、その寝巻きを渡してやり、自分は茶を入れることにする。
「どうしたもんか……」
とりあえず気付き次第連絡が貰えるように着信は残したが、メールで詳細を書けるほどまだ何もかもが分かっていない。かつ、分かっていたとしてもそれを文面で説明できる自信が全くなかった。
自室で待たせているイザナギへ茶を運んでやると小さく礼を言い飲みだした。テーブルの反対側へ座ったこちらのことは警戒していないようだが、時々視線を感じるあたり興味はあるらしい。
(つかそもそも、こいつは本当にペルソナなのか?だとしても、オレの目の前に現れたって理由がいまいち…
考えても仕方ねぇ、聞き出してみるか)
「鳴上先輩のことは知ってるのか?」
『あぁ、分かる』
「一緒にいた…んじゃなかったのか」
ペルソナは元はシャドウだ。いやほぼ同一の存在とも言える。どちらにしろ"もう一人の自分"であるからだ。
辛うじて両者に違いを見出すならば、その存在を認知し"受け入れている"か"受け入れていない"かだ。
"受け入れておらず"暴走状態になり宿主を殺そうとしてくるのがシャドウ。
それを調伏させもう一人の自分として"受け入れた"結果ペルソナとなり、あの霧の中を進む強い味方になる。
完二は少なくともそう解釈していた。
ならば宿主…もう一人の自分たる鳴上本人と付かず離れずしているものだと思ったのだが。
「! もしかして、鳴上先輩に何か…!?」
『違う。もう一人のオレは何ともない』
それを聞いてホッとしたが、疑問は最初に戻る。
「何でここに…それもオレんとこに…」
『分からない。ただ…』
茶を飲み込んでイザナギが目線を合わせてくる。
『会えてすごく嬉しい、ホッとする。そんな感じがする』
と言って笑った。
見かけこそ幼いが、何度も見た鳴上の笑顔そのものだ。
「は、はぁ?」
面食らうしかない。
会いたいが会えない状況なのは自分もだが……動けない本人に代わって会いに来たのか?
と、完二はもう一つ思い出す。シャドウとは抑圧された欲求や願望からも生まれてくると。
(そうか、それでこいつペルソナのくせに瞳が黄色いのか…半分シャドウみたいな状態なんだな)
確信は無いが、これまで経験からしてそう結論を出した完二は、やっと体から力が抜けるような心持ちになった。
どちらにしろ鳴上本人には言わなければならないが、目の前の人物が自分の得体の知れないモノではなくなっただけいくらかマシだった。
解決策までは思い付きそうもないが、『完二に会いたい』という鳴上の抑圧された欲求が元の現象ならば、ここで完二と過ごすことによって解消されるだろう。
本人とも早いうちに会う機会を設ければいい。
「そうと決まりゃやるこた一つだな!」
『な、何を?』
急に自分の手を掴み立ち上がった完二に引き摺られるようにして、イザナギも立ち上がる。完全に戸惑っている様子だが嫌がってはいない。
「遊ぶぞ!今日の残り1日!仕事はお前が帰ってから急ピッチでやってやら!」
『大丈夫…なのか?』
おずおずと聞いてくる。何となくだろうが、完二は完二で仕事が苛烈なのを、鳴上を通して知っていそうだ。
だからこそイザナギ自身も訳の分からないうちにこんな所へ現れたのかも知れない。
「気にすんな、先輩が元気になる方が大事だ」
『そうか…分かった』
イザナギはそう言うと安心したように笑った。



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