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ゴルゴ13の休暇

原作: その他 (原作:ゴルゴ13) 作者: paranto
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第十話

「おう、やっと来たか」
クリスは入港してきた大型クルーザーに向けて手を振った。
着岸すると中からスーツケースをもった男たちが出てくる。
片目に傷がある男が両手を広げてクリスとハグをする。
「なんだクリス、今日は総出か」
クリスの背後にいるファミリーのメンバーを見て男は言った。
「イワノフ、今日はブツの話だけじゃねえ」
「ああ?」
イワノフはクリスと背後の男たちの強張った表情に気付いた。
「大事な話があるんだ。来てくれ」
声を震わすクリスの後を追ってイワノフは船倉への階段に足を運んだ。

「ゴルゴに殺られただと? あのゴルゴか? マジで言ってんのか」
イワノフは驚愕で口を開く。ピカピカの金歯が室内灯の光に反射した。
クリスは神妙な面持ちで頷く。
「間違いねえ。だからバルーゾたちはあのザマだ」
甲板にある遺体の収まった箱を示す。
「…………」
イワノフは腕を組んであごひげをさすった。
「ゴルゴが相手なら冗談事じゃねえぞ。こっちも本気で考えないといけねえ」
「だから言ってんだよ」
イワノフは引き連れてきた仲間の頭数を数えた。
「そっちはどのぐらい出せる?」
「これで全部さ」
背後にいる連中を親指で示すクリス。
「そうか。まとめて30人ってところだな」
イワノフは悩まし気に腕を組んだ。
「街でやりあうとなると30人もいりゃ十分だけどな……」
生唾を飲み込む音がひときわ高く響く。額には汗が浮かんでいた。
「……しかしなぜすぐに動かなかったんだ? さすがにビビったか?」
「馬鹿野郎! おまえらを待ってたんだよ。下手にしかけたら俺らもバルーゾの二の舞になっちまう」
「それもそうだな……。あいつはな、プロの軍隊の一個小隊を一人で壊滅させたって話もある、そりゃバルーゾがあんなになるのも無理ねえ」
イワノフは頷いた。
「だからよ、おまえに頼んでんだよ。こっちもここにいる奴全部でやる」
「今度は確実に殺るつもりだな。しかしミスったな、最初から束で行っときゃゴルゴも殺れたかもしれねえ」
「街の連中もいるだろ? あんまり派手な真似はできなかったんだよ。しかも奴も休暇で来て武器も無いって話だったんだ。てっきり油断してると思ってよ。でも気が緩んでるどころか、ゴルゴはゴルゴだった。猟銃でも並じゃねえ。こっちが大火傷しちまった」
「得物はあるのか?」
「大丈夫だ。こっちに来てくれ」
奥の倉庫にイワノフを案内された。通路の両脇に所狭しと敷き詰められた大型の箱。覆いをのけると積み重ねられたライフル類。弾薬が露わになった。それを見てイワノフは口笛を吹いた。
「ちょっとした武器庫だな」
「戦争用さ。たまに沿岸警備隊だの顔を出やがる。それに船に置いといたが安全な時がある。陸よりな」
「なるほどな」
イワノフはカラシニコフをとりあげて全体を改める。そのば弾丸を拾い上げ掌で転がした。
「今ゴルゴはどこにいるんだ」
クリスは首を振った。
「分からねえ。泊まってた宿屋も引き払ってる。だが港から出た形跡はねえ」
「まだ島の中に潜んでるのか?」
「おそらくな」
「逃げられたらどうする?」
「大丈夫だ。港にも見張りを付けてるし、係官にもしゴルゴが来たら難癖つけて引き留めるように言ってある」
「ぬかりないな」

イワノフは銃を箱に戻すと何やら考えていた。
「狙われてると分かってるんだろうな……だがこんなちっぽけな島なら、探すのに手間はいらんだろう」
「ああ。山狩りしてでもあのねずみをいぶりだしてやるよ」
歯茎をむき出してクリスは笑った。クリスはイワノフの肩に手を回して奥の部屋に案内する。
「いいか、ゴルゴを殺ったとなったら世界中で大評判だ。俺らの名もあがる。こりゃ一世一代の賭けだぜ」
イワノフは頷いた。
「違いねえ。相手が相手だからな。マジでやろうぜ。俺たちはファミリーだ。全面協力するぜ」
そういってクリスの腰を叩く。
「よしとりあえずブツの件を片付けよう」

深夜にしては埠頭は出入りが激しくなった。
いつもなら無人に索漠とした港になる場所が、投光器でタラップが照らされいかつい男たちが足しげく行き交う。

貨物船のそばに停泊したクルーザーからはアタッシュケースや木箱を載せた台車が運び出されている。
普段港の監視も兼ねる管理者も現場にはいない。何が行われているのか知っていながら、巻き添えを怖れる人々は職場から離れて関わろうとしないのだ。

不正と無作為によってこの堂々とした違法取引の宴が数か月に一度開催される。

取引に伴って酒宴も行われるために、昼間の間に大量の酒や食べ物が運び込まれ、何人かのダンサーや売春婦さえもが船内に招き入れられている。
場合によっては街に繰り出して買い物やどんちゃん騒ぎを繰り広げる時もある。

こうした大勢による派手な活動で外から金と物がもたらされ、この国と国のはざまにある小島は潤う。
大した産業も無い地場の街の生きていく糧でもあり、後ろ暗い連中と取引を目に入れないのは生計の一手段でもあるのだ。


その夜、港のブイのそばにバジオは葉巻をふかしながら立っている。だらしなく葉巻を口の端にぶらさげてるが、鋭い眼光で積み入れと港の様子には目を配っている。
見張りが立つのはいつものことであるが、今回は勝手が違った。

世界で一番名の知れたスナイパーが島に潜んでいるかもしれない。

内側に沸き起こる緊張感は自然に眠気を覚まし、腰のズボンに差した拳銃の重みをつい確認させてしまう。

港近くを通る車の音にもビクついてしまい、バジオは気を取り直すかのように大きく息を吐いて葉巻を海に投げ捨てた。
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