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ゴルゴ13の休暇

原作: その他 (原作:ゴルゴ13) 作者: paranto
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第八話

崖の岩肌から双眼鏡の先が覗いた。
スキンヘッドにライフルを構えた男が背後のバルーゾにささやく。
「おい、話が違うぞ。ゴルゴも銃持ってるじゃねえか」
双眼鏡をひったくってバルーゾも舌打ちする。
「なんてこった。街で手に入れやがったのか」
二人はしばらく無言でゴルゴの様子を眺めた。
「ただの猟銃ならいつものゴルゴのようにはやれないはずだ」
「……無茶言うなよ。あいつの腕は知ってるだろう。銃を持たせたら奴に勝てる奴はいねえ」
苛立って唇をバルーゾは噛んだ。
「いいか、今は千載一遇のチャンスなんだ。ゴルゴを殺れればおまえは世界中に名が知られるぞ」
「そりゃそうですがねえ」
困ったようにスキンヘッドの男は首を振った。
「奴はまだこちらに気づいちゃいねえ。いいか、チャンスは一度だけだ。ゴルゴが銃を手放したらその瞬間にぶち込んじまえ」
「……やってみますがねえ」
「失敗したら俺もカバーに入る」
胸元から拳銃を取り出して示した。スキンヘッドの額には汗が光る。無言で了解という風にうなずいた。

「あの人に持って行っておやり」
焼いたばかりのパイを入れたバスケットをハンスに手渡す。
「どの辺にいるのかな、あのおじさん」
「西の森って言ってたわね。銃声の方に行けばいいのよ」
「そうだね。行ってくる」
ハンスは、バスケットを片手に元気よく外に飛び出していった。

山を少し上った傾斜に平地がある。藁ぶきの山小屋と石で作られたテーブルと椅子。バーベキューに使うような設備もしつらえてあった。
ガイドは山小屋を親指で差す。
「少しならここで調理できるよ。ヤマキジだけ一羽焼いてかないかい?」
設備を見渡すゴルゴ。
「道具はそろってるのか」
「ばっちりさ。夏場はキャンプにも使うし街の共有地なんだ。観光客だって遠慮することはない。ちょっと待ってな」
山小屋に入って燃料や焼き串、包丁など調理道具を持ち出してきた。
「鳥はさばけるかね?」
「少しは」
ゴルゴは表情を変えずにうなずく。
「大したもんだ。なんでもできるんだな、あんたは」
皿やナイフの入った箱を置き、ヤマキジをテーブルの上に横たえる。
「俺は火をおこすからさ、悪いが鳥の方をやっててくれないか」
「分かった」
ゴルゴは小屋の壁にライフルを傾けてテープルに向かった。
鳥の羽をむしりナイフを手に取る。そこで動きが止まる。目を細めて丘のくぼみの林あたりに目をやった。
「どうした? 怖い顔して」
マッチを手に新聞紙に息を吹きかけていたガイドが顔をあげる。
ゴルゴはナイフを手にしたまま硬直したように一点を見つめていた。

突如何か気がついたように膝を傾け姿勢を低くする。
いぶかしげにガイドはゴルゴの目線を追うが何も見つけられずに戸惑っている。
「おじさん!」
背後の丘から声が響く。バスケットを片手に走ってくるハンス。
ゴルゴはナイフを手に大きく腕を振る。
「やめろ! そこから動くな」
声が緊迫している。聞いたことのない声の響きとその表情にハンスは一瞬戸惑うも、そのままゴルゴのもとに駆け寄ってくる。
舌打ちして駆け出そうとしたゴルゴの肩から轟音と同時に鮮血が飛び散った。

「くそっ、あと少し!」
スキンヘッドは唾を吐いて林から飛び出し銃を構えて乱射した。皿が吹っ飛びガイドが頭を抱えて小屋に逃げ込む。
「いやぁ!」
甲高い声をあげてハンスの身体が宙を舞った。テーブルわきに身を伏せていたゴルゴの表情が変わる。
瞬間にそばの石を取り上げて走ってくるスキンヘッドめがけて投げる。矢のように石は膝を打ち砕いた。
「うごっ!」
スキンヘッドはライフルを取り落として突っ伏した。
「クソが!」
バルーゾが反対側の林から飛び出してきて拳銃を乱射する。ゴルゴは受け身のような姿勢でライフルを小脇につかんで小屋の陰に潜む。
膝をひきずりながらスキンヘッドが遠巻きに小屋に近づき、目を血走らせたバルーゾが荒い息をつきながらその反対側から逃げ道をふさぐ。
「いないぞ!」
小屋の後ろに回り込むと陰に隠れたはずのゴルゴの姿が見えない。
スキンヘッドはあわてふためいてライフルの先をあちこちに向けてパニックになる。次の瞬間ひときわ重い轟音とともにスキンヘッドの剃り上げた頭部が砕け散った。
山の緑の斜面に鮮血の池が広がる。

仲間の無残な死にバルーゾは絶叫して山小屋方面に拳銃を乱射するがゴルゴをとらえられない。
乾いた空撃ちの音に慌ててポケットの弾丸を漁るも取り落としてしまう。
身をかがめた瞬間にバルーゾの背中には風穴が開いた。地面を抱きかかえるかのように突っ伏しもう一つの死骸となり果てた。

激しい惨劇の跡に静寂が訪れる。山小屋の藁の先から出ている銃口が引っ込められ、藁下からゴルゴが身を起こした。
体についた藁を払って下に飛び降りて山小屋の中を覗き込む。
頭を抱えて震えているガイド。
「ケガはないか」
「だ……だいじょうぶだけどよ」
汗と恐怖で顔が濡れている。
「終わったのかい。弾丸が……」
穴だらけになった壁を指さす。
「もう出てきてかまわん」
ゴルゴは踵を返すと足早にハンスのもとに行く。
うつぶせに動かないハンスの傍らに片膝をついて抱き起こそうとするが、目を閉じて顔が血まみれになってるハンスに動きが止まる。
「…………」
近くに転がったバスケットから転がり出ているパイ。その意味を了解したのか、ゴルゴは唇を噛んで目を伏せた。
「…………」

ポケットからハンカチを出すと、丁寧にハンスの顔を拭ってやった。
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