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ゴルゴ13の休暇

原作: その他 (原作:ゴルゴ13) 作者: paranto
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第三話

「それでゴルゴに依頼したと?」
「そうよ。あいつをぶっこんできやがった。今思えばゴルゴを甘く見ていた。天下のヌエストラのファミリーに盾突いたらどうなるか見せてやるって、叔父貴も最初は笑ってた。それが……あの頃のボスは誰も生き残ってねえ」
悪夢を思い出すかのようなに額の汗を拭った。
「……追ってきたんですかね」
その言葉に皆が沈黙する。
「仕事をやりにきた様子はなかったんだろう? 港の連中に確かめたんだな?」
「ええ」
「もし俺らを根絶やしにするってのなら十年も待つわけがねえ。ちょっと前はファミリーが終わる寸前だったんだ。楽にやれたろう」
「そうです」
「…………」
思いついたようにクリスは顔を上げた。
「しかし……ほんとに休暇だったらどうする」
「え?」
「千載一遇のチャンスじゃねえか」
サングラスの奥の瞳は輝き、十年前の羽振りが良かった頃と同じぎらついた表情を見せている。
周りの男たちは沈黙した。
「ゴルゴが休暇なんて聞いたことねえ。考えてみろ。ロクに武器も持ってない。本人の気も緩んでる……」
同意を求めるように仲間を見渡す。
「今迄ゴルゴを狙った連中は腐るほどいる。しかし全員が全員返り討ちで生きちゃいねえ。だけどもし、ゴルゴがほんとに休暇なら……」
興奮を抑えきれない様子でクリス立ち上がった。
「明日の夜にラザロもやってくる。船には十分にやりあえる獲物もあったな?」
ボスが何を考えているのか分かったのか、周りの男たちは緊迫感に満ちた思いで唾をのむ。
「多くはないですが揃えてあるはずです」
「よし」
舌で唇を湿らせて気を落ち着けようとしている。
「今までゴルゴは誰にも殺れなかった。戦闘態勢に入ってるあいつに敵うやつはいねえ。だがほんとに息抜きで来てるなら……」
固く拳を握りしめた。気が昂って顔に赤みが差してくる。
「何のことはねえ。こんな小島に来たのも気晴らしのためなんだよ。だからカタキとめぐりあわないような僻地を選んだんだ。あいつも俺らがいるなんて思いもしねえ」
荒い息を吐いて立ち上がりバルーゾの肩に手をまわす。
「もしゴルゴを殺ってみろ。世界中にファミリーの名前は響き渡る。負け犬だった俺らがまた世界を獲れるんだよ」
ボスの気迫に押されたように男たちは固唾をのむ。意味することが分かったのだ。心の底から湧き上がってくる興奮と緊張。
クリスは武者震いに似た震えを感じた。

「見てろよ、ゴルゴ。十年前の報いをうけさせてやる」

通りは小さいながらも賑わっていた。

露店で売られる果物、清掃されて花が飾られた壁。笑いながら走り回る子供たち。
貧しさはありながらも人々の表情は明るく活気に満ちている。

道の端を歩くゴルゴの表情は変わらないが、子供たちに向ける目には仕事の時とは違う色彩が揺れていた。
露店からりんごを買ってから二階建ての宿屋に入る。太って頭の禿げた宿の主人が愛想よく迎える。
「部屋を。三日たのむ」
あてがわれた二階の端の部屋でゴルゴは荷物を下ろした。
上着を脱いでベットに腰を下ろし壁にかかった地図を眺める。
しばらくするとテーブルのリンゴの袋から一個取り出し、皮ごとかじりながらベランダに出た。

ベランダは狭いながらも腰までの黒い鉄柵があり、隅に丸椅子が一個ある。壁には錆びた排水管が下まで伝っている。
柵にによりかかりなんとはなしに街に目をやっていると、街の隅の奇妙な看板が目に入った。
壁の色は褪せてくすんだ色のショーウインドー。上に掲げられた木製の看板には鉄砲を二挺交差させたデザインが描かれている。

ゴルゴはいつものように表情は変えない。しかし店をしっかりと目の中にとらえていた。
リンゴを食べ終わるとゴルゴは踵を返してジャケットを再び着込んだ。
リンゴの芯を屑籠に放り投げると外に足を向けた。

そばで見るとずいぶんとうらぶれた店だった。
ショーウインドーには鹿の頭部の剥製、モデルガンのようなものが並んでいる。
眺めていると作業着姿の男が通りすがりに声をかける。
「あんた旅行者かい? その店はやめたがいいぜ。主人の頭がイカれてる」
自分の頭をとんとんと指先で叩いて言った。
無言のままゴルゴは店を眺めるとそのまま片隅のドアを押した。

薄暗い店内はかび臭い匂いさえした。
壁に雑然と猟銃が飾られ中央にある大きな机には修理中らしき分解された銃がある。
ゴルゴの注意を引いたのは開け放しのドアから見える奥の部屋だった。壁際にコンクリート製の壁に的が見えたからだ。
殺風景だが十分に広さのある射撃場だった。四、五人ぐらいは並んで射撃ができそうだ。

奇妙なのは中央の列に万力のような装置がしつらえられた台があった。
全体的に古びているものの、物を固定する部分は塗装が削れてピカピカで普段からよく使われていることがうかがわれた。
「お客さんかい」
装置を眺めているゴルゴにしわがれた声がかかった。普段の癖で反射的に素早い動きでゴルゴは応対する。

射撃場の端っこにも別のドアがあるようで外から主人が返ってきたようだった。
片隅の暗闇から現れた姿にゴルゴは冷静だが警戒に満ちた視線を向けた。
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