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そとづら

ジャンル: その他 作者: 久宮
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第8話

佐々木はシャワーを浴び、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
(ったく、今日はソファで寝るかな)
そう思いながら、ソファに腰かけビールを開ける。特に見たい番組があるわけではないが、テレビをつける。時間的に、どこの番組もスポーツニュースばかりをやっている。
(…林さんって酒弱いのかな)
缶ビールを飲みながら、隣の部屋で寝息を立てている林の方を見る。
(結婚してないとか。ちょっとびっくりしたよなぁ)
そんな事を一人思う。仕事もできるし、人当りもいい。実際のところは分からないが、よく笑うし、温厚な性格だととも思う。一見モテそうなのに、この男が一人な理由が、佐々木には分からない。
(人に言えない様な性癖もち…とかだったら、ちょっとうけるな)
心の中で失礼な事を考えてしまい、一人で少し面白くなった。

「…ん」
佐々木は、ソファに座ってテレビをつけたまま眠ってしまっていた。ふと目を覚ました時、近くに人がいるのを感じた。
「え…と」
目線をそちらに向ける。
「起きたんですね」
佐々木の隣に腰を掛けていた林に声をかける。
「お前も起きたな」
林も声をかける。
「ってか、ここお前んちだよな。悪かったな」
林が続けて話しかける。
「覚えてるんですか?」
「いや…茂森さんと別れたくらいまでは覚えてんだがな」
タクシーに乗り、寝てしまったところからは覚えていないというのだ。
「俺は別々のタクシーで帰ろうとしていたんですけど、一緒のに乗ってきてよかったですよ」
佐々木はため息をわざとつきながら話す。
「ほんとだな。一緒に帰ってくれてなかったら、家までたどり着いてないよな」
佐々木とは逆に、林は大きく笑いながら言う。その様子を見て、佐々木はさらにため息を追加する。
その時、佐々木の目に時計が目に入った。時間は午前3時を回ったところだ。この時間では、まだ電車が動いていることもなく、大通りに出てもタクシーはつかまらないだろう。
「今からですけど、とりあえず着替えますか?」
佐々木は林に話しかえる。
「ん?」
「いや、まだ寝れる時間ですし、サイズは小さいと思いますが、その恰好よりは楽でしょ」
林は佐々木にベッドに抛られたままで、ジャケットこそは脱いでいるが、スーツ姿だ。
「…ああ。そうだな、貸してもらえるか」
その答えを聞いて、チェストの中からスエットのセットとタオルを取る。
「じゃ、これ。あと、もしシャワー浴びるなら、これ使って下さい」
佐々木は、きちんとたたまれているスエットなどを手渡す。
「ありがとう。じゃ、遠慮なくシャワー借りるわ」
受取りながら、林はそういうと、佐々木に場所を聞きシャワーに向かった。

「…き、ささき、…ささ…」
肩を揺すられて目を開けると、ソファの隣に林が腰かけていた。
(ん…さっきのは夢か?)
数分前のやりとりと同じことが起きている事を、佐々木はボーっとした頭で考えていた。
「シャワー、ありがとな」
(あぁ、さっきのも夢じゃないのか)
「さっきまで占領してた俺が言うのも変だが、ちゃんとベッドで寝た方がいいんじゃないか」
(ほんとそれ。アンタがいるせいで、俺がベッドに行けないんだっつーの)
声には出さなかったが、林が言っている事を口悪く肯定する。
「…いや、林さんがいるのに、自分だけ布団には入れないですよ」
まだ眠く、舌が回りづらいまま答える。
「んー、とはいっても、シャワー浴びたから、俺は目が少し冷めたんだ。だから、気にしなくて平気だぞ」
林は、佐々木の頭をポンポンと叩きながら話す。
「上司が起きてるんだから、俺も起きてますよ」
それでも、ベッドには行こうとしない答えをする。
「いや、今は世話になってるのは俺のほうだぞ」
林は笑いながら言う。その顔を、じっと佐々木は見ている。
(やっぱ、かわいいんだよな…この顔)
「よし。じゃ、俺も横になるから、お前も一緒に寝るか」
さらに、笑顔のまま林は言う。
「じゃ、そうします…」
そう言いながら、佐々木はソファから立ち上がる。
「は?…冗談のつもりだったんだが…」
立ち上がる佐々木を見ながら、林が言う。
(そんなの分かってるよ。でも、林さん正直タイプだし、一緒に寝るくらいのご褒美があってもいいよな)
佐々木は、林の言葉が冗談なのを分かっていたが、「一緒に寝る」というワードをひっこめられないうちに、寝室に向かい歩きはじめる。
「係長、ほら横になるんでしょ」
わざと寝ぼけたような声で話しかける。林から小さなめ息のような音が聞こえたが、佐々木は気にしない様にしながら、ベッドに上がる。佐々木から少し遅れて、林もベッドまで来る。
「ほら、もう少し詰めろ」
そう言いながら、林もベッドに上がる。
佐々木のベッドはセミダブルなのだが、さすがに男二人がのると、窮屈に思える。
「…男二人でベッドとか、苦しくないのか」
林が話しかける。
「別に…。学生の時とか飲み会の後とかって、友達のうちに泊まったりしませんでしたか」
「あったな。まぁ、そんな感覚なのか…」
佐々木と林は背中を向かけたまま、会話をする。
(やっぱり眠くないのか…)
佐々木は、後ろからまだ寝息らしい音が聞こえないことで、そう思っていた。実際、林は目が本当に冴えてきたようだった。また、逆に佐々木も、思い切った事をしたせいで、眠気が飛んでいた。
別に男と寝るのが久々なわけでもない。今までも、一緒に寝てきた男はいたし、それこそバーで知り合って、そのままという関係だけの男もいた。もちろん、身体の関係のない、普通の友人と一緒に飲んで、そのまま寝てしまうことだってある。
なのに、なぜがこの日は、いくら経っても眠気が来ない。布団に入り、30分以上たったであろう。その時、
「佐々木、起きてるんだろ」
と、林から声がかかった。一瞬、返事をするか悩んだ。だが、
「起きてます」
と答えた。すると、ベッドが揺れ、林が佐々木の方を向いたのが分かった。
「あのさ、気になってる事があってさー」
林が話が話す。
「ちょっと聞いてもいいか?」
その言葉に
「はい」とだけ返す。
「間違ってたらごめんな」
先に謝りの言葉を入れてから、林は続けた。
「お前って、男が好きなんじゃないの?」
その言葉に、佐々木は一瞬に林の方を振り返りそうになった。
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