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一期一会

原作: ポケットモンスター 作者: mqw
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カイランとメルト

「ねえメルト」

 僕の呼びかけに、先行して歩くコータスのメルトが、首だけこちらに向ける。
 その拍子に、甲羅の隙間から白い煙が少し漏れる。

「僕はそろそろキンセツに戻ろうと思う」

 額の汗を首にかけたタオルで拭う。
 炎の抜け道は、活火山であるえんとつ山の影響で、常に焼けるように暑い。
 コータスなどのほのおタイプのポケモンにとっては過ごしやすい環境なのだろうが、僕のような山男でもない普通のシティーボーイには、黙って立っているだけでも辛い。
 地面から間隔をあけて噴き出す泡は、一瞬にして蒸気へと変わり、温度を上げる一助となる。
 またたくさん住むほのおポケモンたちも、自らの熱で炎の抜け道をより熱くしているのだから、天然の要塞とも言える。

 できればこんなところに来たくはないのだが、来なくてはならない理由がある。
 それは、このメルトだ。

 今も、せっせと壁を掘り出しては、石炭を見つけ、甲羅の中へ放り込んでいる。
 メルトにとってはこれが食事であり、生命活動の一環なのだ。
 コータスは、甲羅の中で石炭を燃やすことによって、エネルギーを生み出している。
 それは、我々人間が食べ物を摂取しカロリーを得るように、石炭によって熱エネルギーを得ているのだ。
 ある程度は貯蓄できるようだが、生きていくためにはこの石炭の供給は不可欠だ。
 そして、石炭は一部の山な坑道にしかない。

 街でも、お金を払えば手に入るだろう。しかし、街で買えるのは所持しているだけで効果を発揮するような、質の高いものだけだ。コータスの餌用の石炭なんて、売ってない。そして、質の高いものを継続的に購入する資金もない。

 では、ここの石炭を持ち運んだらどうか。
 それもできない。
炎の抜け道の石炭は、常に半分燃えているようなものだ。
高温に熱され、赤く色づく石炭をバッグに入れたりなんてしたら、たちまち肩紐が燃え尽き、背中を大やけどする羽目になるだろう。

 よってメルトは、キンセツシティから少し離れたところにある、この炎の抜け道に住まざるを得ないのだ。
 甲羅の中にストックすることで、一時的に街へ一緒に行くことはできるが、長居したり、遠出したりはできない。

「なにか、石炭を保管できる方法があればいいんだけど」

 メルトを仲間にしたときから探し続けているが、そう簡単に見つかるものでもない。

「なあ、ここには仲間もいっぱいいるし、いっそ僕とは別れたほうが」

 しまった、と思った時にはもう遅い。
 ぶおーん、と汽笛のような音が響いて、視界が真っ黒になった。
 メルトの黒い霧だ。僕がこの話をすると、いつもこうする。

「ごめんごめん。一緒にコンテストに出るっていう約束だもんな」

 でも、僕は知っている。
 メルトがトレーナーに飼われていることで、他のコータスから疎まれていること。

 僕が来るとき、いつもメルトは一人だし、体には争ったような傷がいくつもついている。
 しかし、メルトは待ってくれているのだ。

 僕が石炭の問題を解決し、ともに旅をする日を。

「じゃあ、僕は行くから。またね」

 そう言い残して、僕はキンセツへ戻った。
 メルトを連れ出す方法を見つけるために。



「メルト! メルト!」

 炎の抜け道で、メルトの名前を大声で呼ぶ。

「ついに見つけたんだ! 石炭を生み出せるポケモンを!」

 僕の声に応じて、たくさんのコータスが顔を出す。
 しかし、見間違えるわけがない。
 僕のメルトは、いつもこちらを見向きもせず石炭を貪るあいつだ。

「やっと、一緒に旅をできるよ」

 そういって、僕はモンスターボールを投げた。

「タンドン、出てきて」

 それは、このホウエンにはいないポケモンだ。
 それどころか、カントーにもシンオウにもいない。遠い外国の地にしか生息しない。
 ホウエンで普通に暮らしていては、一生出会うことのないポケモンだった。

「アスナさんがくれたんだ」

 ほのおポケモンのエキスパートであるアスナさんは、常にほのおポケモンが活躍できる方法を研究している。その一環として外国から何体か取り寄せたポケモンの一体を僕に譲ってくれたのだ。

 アスナさんは前から僕の相談に乗ってくれていて、今回はわざわざキンセツまで来て、知らせてくれた。曰く、同じ悩みを持つ僕を放っておけないそうだ。
 アスナさんのコータスはいつもフエンタウンで同じように石炭を掘って暮らしていて、遠出する必要があるときだけ、備蓄していくのだそうだ。

「タンドン、石炭を出して」

 一見するとダンバルのようにも見えるこのポケモンは、しかし体が石炭に覆われている。
 そう、このポケモンは体が石炭でできたポケモンであり、自ら石炭を生み出せるポケモンなのだ。

 タンドンが体を何周か高速で回転させると、地面にぽろぽろと石炭が転がり落ちる。
 するとメルトは、普段は見せない俊敏さで、タンドンが生み出した石炭を口にくわえた。

「そうか、おいしいか!」

 メルトは深く頷く。
 タンドンとともに旅をするのに、師匠はなさそうだった。

「おっと君にもご褒美をあげないとな」

 何が好きかよくわからないから、辛めのポロックを数粒手のひらにのせ、食べさせる。

「そうだ。君にも何かニックネームをつけよう。そうだな」

 これから一緒に旅をするんだ。
 何かいい名前を上げたい。

「フコール、かな」
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