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夢を持つ方法

ジャンル: その他 作者: saki
目次

夢を持つ方法

たろう君のくちぐせは「あれ、なぁに?」

お母さんに手をひかれ、お外をお散歩していると、いろんなものが気になります。

ぴょんぴょん。 「あれ、なぁに?」

「あれはカエルだよ」

そよそよ。 「あれ、なぁに?」

「あれは木だよ。」

パタパタパタ。木から何かが飛んでいきます。 「あれ、なぁに?」

「あれは鳥だよ。」

たろう君は学校にいくようになり、気になるものが増えました。

ぽーん、ぽーん。「アレは何をしているの?」

「あそこでサッカーをしているんだよ」

友達がボールを持って、一緒にやろうとさそってくれます。

かりかり。 「これは何をしているの?」

「算数の勉強をしているんだよ。」

先生がりんごの絵をたくさんならべて、説明をしてくれます。

たろう君はもう少し大きくなって、もっと色んなものが気になります。

どきどき。 「これはいったい何だろう?」

「それはね、恋をしているんだよ」

隣の席の女の子が笑いかけるたびに、たろう君はそわそわしてしまいます。

わくわく。 「父さん、これは何?」

「コレはコンピューターだよ。とても賢いんだ。」

大きな箱は、一瞬で何桁も何桁も数字を計算していきます。

たろう君はとても感動しました。

自分が今、衝撃を受けるという感情を抱いている事を、たろう君は後になって知ります。


たろう君はコンピューターの事がとても気になります。

毎日毎日、お家に帰ってきてはコンピューターを眺めました。

「コンピューターの中は、いったいどうなっているのかな?」

「コンピューターはどのようにして動いているのかな?」

「この便利なものを、誰がどのようにして作ったのかな?」

たろう君は気になります。

たろう君は、もっともっとコンピューターの事が知りたくなりました。

それからもう少し時間が経って、たろう君は言いました。

「父さん、コンピューターの事を勉強する為に、外国の学校に行きたいんだ」

この時、たろう君はとてもドキドキしていました。

隣の席の女の子に恋をしていた時とは違うドキドキでした。

お父さんもお母さんも、とても心配をしました。

けれど、二人はたろう君のこのドキドキの意味を知っていました。

たろう君は1人で海外に旅立ちました。

たろう君はたくさん勉強をしました。

コンピューターの事をたくさん学びました。

コンピューターがこうしてくれたら嬉しい事を、たくさん探しました。

たろう君は自分で、周りの人の生活が良くなるものを、コンピューターで作ってみました。

たろう君の外国での生活は、あっという間に過ぎていきました。

たろう君は自分の生まれ育った町へ戻り、コンピューターの会社をつくりました。

たろう君の周りの人は心配しました。

「起業なんかして、失敗したらどうするんだい?」

たろう君は、自分がとてもワクワクしている事を感じていました。

それは、初めてお父さんにコンピューターを見せてもらった時の感情に似ていました。

「世の中に自分の名が知れ渡るくらいの、大きな会社にしてみせるよ」

たろう君の会社は、とても小さな会社でした。

従業員の数も、たった3人しかいませんでした。

コンピューターは人々の生活や仕事を便利にしました。

たろう君の会社はどんどん大きくなり、働く人の人数も増えていきました。

けれど数年後、たろう君が住む町に、大きな地震が起こりました。

とても大きな津波が町を飲み込みました。

たくさんの人が亡くなり、たろう君の会社も無くなってしまいました。

たろう君は、もう一度会社を作りました。

「全て無くなってしまった。だから、もう一度つくり直しましょう。」

たろう君の心はめらめらと燃えていました。

全てを失った町を心配する声が、世界中から届きました。

会った事のない人々が、たくさんの励ましをくれました。

たろう君は、それにとても感激しました。

世界中の人々をコンピューターで繋ごう。

遠く離れていても、今、そこで起きている事を世界中の人に届ける事ができ、

お金や生活に必要なものを、すぐに届けられるように、コンピューターを活用しよう。

ぱちん、ぱちん。コンピューターによって、人と人が繋がりました。

みんなの生活が、目に見えて変化していきました。

コンピューターを使う人が増えるにつれ、

たろう君のもとへも、たくさんのお金が入ってきました。

たろう君はそのお金を使って、さらに会社を大きくしていきました。

たろう君に成功の秘訣を教わりたいと、何人もの若者がたろう君を訪ねました。

たろう君はとても満足していました。

自分が今、幸せなんだと、心から感じていました。

それからしばらく経ち、たろう君の心臓がきりきりしました。

少し違和感はありましたが、たろう君はそのまま仕事をしていました。

「お父さん、顔色が悪いよ?」

こどもが、心配そうにたろう君を見ています。

たろう君は上手に息をすることも喋る事も出来なくなり、ばたんと倒れてしまいました。

病院で目覚めたたろう君は、

お医者さんから、もう治すことのできない病気である事を告げられました。

たろう君は、自分の人生は何だったのかを考えました。

たろう君は自分の両親や、妻や、子供たちの事

自分の会社で働いている従業員の事を想いました。

「私は誰かの為になる事をしてきただろうか。

いや、まだ全然足りていない。

自分のこの命、自分の家族、社員、この世界中の人の為にささげよう。」

歩けなくなったたろう君は、従業員を呼んで、これかの会社について説明を始めました。

コンピューターを使う人がより豊かになるように。

自分を支えてくれている人がより幸せになるように。

新たなコンピューターのネットワークが構築され、世界中を結びました。

医者のいなかった地域に医療が、教育のままならない地域に先生が。

多くの人を豊かにする手段を届けることができるようになりました。

「お父さん、体調はどうですか?」

子供が春の陽だまりが差し込む穏やかな病室の中で、たろう君に静かに語りかけます。

たろう君は、日に日に力が入らなくなっていく頭を少し動かし、口を開きました。

「父さんは幸せです。それは、知らないものを知ろうとする心があった事です。

いいですか。興味が無いといって、物事を知らない事はもったいない事です。

知りなさい。そこからあなたの世界は広がります。

そこからあなたの夢は生まれます。生涯ささげる事の出来る夢を持って生きなさい。」

最近、たろう君が繰返し話す事です。


それからいくつかの春が過ぎた頃、たろう君は家族に見守られながら

静かに天へと旅立っていきました。

葬儀には、まだ小さなたろう君の孫も参列していました。

もくもくと天へとのぼっていく白い煙をじっと見つめ、孫は母親の服を引っ張りました。

少し垂れた彼の目は、たろう君にそっくりです。

「ねぇ、まま。あれ、なぁに?」
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