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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
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35話


「親父ィィ!聞いてくれ!」

「たまげたな銀さん。その酔っぱらったら大きな声出る癖どうにかならねぇのかい?」

おでん屋と書かれた屋台で、熱燗片手に飲んだくれている男がいた。
彼の相棒でもある洞爺湖と刻まれた木刀も、今は酔っ払いになっている主人を支える杖代わりでしかなく、そんな男の前でおでんを仕込んでいる屋台の主人は「もうその辺にしといたら?」と呆れた視線を向けた。

「大きい声なんざ出しちゃいねぇよ」

「オイオイ、とうとう頭まで回らなくなったか?そりゃ元々か」

この酔っ払いの男は一応客ではあるが、至るところで「ツケ」を滞納している男は例外なくここでもツケをため込んでいた為今更客扱いされることもなく、その事実に万事屋で彼の帰りを待っていたであろう2人の子供たちからは「ため込むのは貯金だけにしろ」と散々怒られたばかりではあるが、今日ばかりは飲まずにはいられなかった。

屋台の暖簾が開き、新しい客が入って来ると屋台の主人は男をそっちのけで、そちらの接客をし、お酒のおかわりを頼めば「水でも飲んでいな」と言われる始末。だが水を出された本人は既に水かお酒かの判断まで鈍っているらしい、水を勢いよく飲み干すと「おかわり」とコップを机に叩きつけた。

「親父ィィィ!おかわりィィィ!」

「うるせぇな!聞こえてるわ!」

ドン、と置かれた水に男はため息を吐きながらそれをまた一気飲みしつつ、今しがた入ってきた客の方を見てから嫌そうに顔をゆがめた。

「なーにしてんだよ、沖田君よ」

「あれ、どっかのジジイが飲んだくれてると思ったら旦那だ。どうしたんですかィ?競馬で負けてやけ酒ですかィ?いやぁダメな大人を極めてやすねィ」

少し離れた場所に座り、メニュー表を眺めているのは沖田だった。
今彼の怒りの火種でもあるあの男が来るよりはマシだが、出来れば一人で飲みたかった男、坂田銀時からしたら厄介な相手が着てしまったといったところ。

絶対に面白がる、100%からかうネタにする。

「君は弱り切った大人の傷口をえぐって何が楽しいの?」

「傷心中でしたかィ、そりゃ失礼しやした。静かに飲んでるんでどーぞそのまま傷心しててくだせェ」

「君にはこう、労わるってことを知らないね」

「おっちゃん、たまごと、はんぺん、それと大根」

傷を労わるどころか総無視を決め込んでいる沖田はメニューを見ながら注文だけを続けていく。
屋台の主人も傷心中の彼よりもしっかりと払ってくれる客の方を優先してしまっている為、先程注がれたばかりの水を飲み干しながら隣の彼が注文を終えるのをただ黙って待っていた。

「以上で頼みまさァ」

「オイオイ、ここの奴は熱々だぞー。お子ちゃまにはちょっと早いんじゃねぇの。大人しく最初は昆布でも食ってろよ」

「俺ァどこぞの酢昆布娘じゃないんでねィ、そんなもんは食いやせん。旦那と違って貧乏人でもないんで」

「はい、お待ち」と出されたお皿には注文した熱々のおでんが載せられ、それを一口に切りながら隣の客を煽ることも忘れない沖田に、銀時は口元を引く付かせた。

「お前ふざけんなよ、おでんの昆布が好きな奴全員敵に回したかんな今。あと同時に俺も敵に回したかんな?怒ったかんな?許さないかんな?謝っても遅いかんな?」

「橋〇環奈?」

「どっかで聞いたことあるようなネタだなそれ」

「で、何でそうも落ち込んでるんでさァ。あんまり絡まれても迷惑なんで聞いてやりやすよ」

大の大人が、まだ成人すらしていない子供に「仕方ないな」なんて視線を受けて、普段であればきっと強がって「何でもない」と言うだろうに、昼間の「やれやれ」と相手をしてくれなかった2人を思い出したことと、酔っぱらって理性が働かなくなっているのも相まって、気付いたら紡いだ口が緩んでいた。




「聞きやした?万事屋の旦那、お宅らに嫉妬してたって」

「嫉妬、ですか?」

翌日ニヤニヤした沖田が店にやって来たと思えば、話した内容は昨日銀時から聞いた内容そのままだった。

「ようはあれでさァ、子供が母親に構ってもらえていないのに次男が母親とお出掛けしちゃって寂しいみたいな長男の切ない幼心でさァ」

「私はいつから万事屋さんの母親になったんですか」

「まあそういう事でィ。次来たら「銀時君寂しかったでちゅね」とかって存分に甘やかしてやりなせェ」

「年上の男性に、そんなことをするとか、どんな拷問なんですかそれ」

銀時本人がこの場に居合わせたら間違いなく発狂していただろう、内緒にしてくれといった彼の本音をすべて暴露した沖田は何がしたかったのかそのまま店を出て行ってしまった。残された彼女はそんな彼の後ろ姿を見送ると、続いて計ったように入ってきた銀時に少し言いよどみながら「万事屋さん」と声を掛けた。

「年上の男性に母親だと思われた経験がなく、何と言ったらいいのかわかりませんが、その。私ではなくお登勢さんのほうが適任だと思いますよ。ハイ。」

「え?何の話?」

「私にそのようなことを求められても、手に余ると言いますか…とにかくすみません!できません!」

土間を上がり中に入って行ってしまった彼女にポカーンとしていた銀時は、すっかり忘れていた昨日の夜のことを少しずつ思い出していき、帰り際に「じゃ、そういうことで。伝えておきやすね」と女性が見れば悲鳴を上げる程爽やかフェイスで去って行った知り合いの栗色ボーイを思い出して悲鳴を上げた。


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