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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
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33話 「お正月企画ver.2019」



沖田さんは饅頭を口に運びながら、ちらりと視界に入った土方さんの足元にある風呂敷を手に取り「これが例のアレですかィ」と何の躊躇もなく風呂敷を開けて、中の箱をひっくり返してみたり、振ってみたりとしていると、土方さんの腕が伸びてそれを沖田さんの手から取り返した。

「危険物だったらどうするつもりィィィ!?」

「ならとっくに爆発してやすよ。真選組副長と一番隊隊長が居る時点で相手にとってこれほどの一網打尽に出来る好機はねぇや」

冷静に返答しながら、土方さんの手から箱を取り上げた沖田さんに土方さんはこちらをちらりと見て「大丈夫だからな」と力強く言った。きっと私が沖田さんの話を聞いて恐怖したと思ったのだろう、だから安心させるような言葉を掛けてくれた。



「今日はそろそろ行かなきゃならねぇが、何かまた変わったことがあったら遠慮なく連絡しろよ。俺が手を離せなくても誰かしらに来させる」

「ありがとうございます」

玄関の前まで見送りに来ると、沖田さんは早々に行ってしまって、土方さんにもう一度念を押すように注意するようにと言われた。帰り際後ろ髪を引かれるようにちらちらと振り向いてこちらを心配してくれた土方さんに手を振ると、やがて見えなくなった後ろ姿に、そのまま玄関へと入り鍵を閉めた。

居間に入り、テーブルを見ると、沖田さんが持っていたお饅頭の箱がそのまま置かれていて、先程沖田さんが1つ食べていた残りがそのまま置いてあった。忘れていったのかなと携帯を取り出すと、ちょうど沖田さんから連絡が着ていて忘れ物に気付いたのかなとメールを開けると文面は「餞別」それだけ書かれていた。

素っ気なさすぎるそのメールから見るに、お饅頭はもらっていいものらしい。

何だか沖田さんから物を貰うなんて不思議な感じだなァと思いつつありがたく、3時の茶請けにしようとお茶を淹れてきて「プレーン」と書かれたものを1つ口に運んだ私はあまりの辛さに淹れたてのお茶ではなく、台所に駆け込んで水道水をコップ一杯飲みほした。

よくよく見るとこれは山田さんのおばあさんが営んでいるお店のお饅頭のようだった。
あそこは激辛好きが通う穴場スポットで、置いてあるものは何から何まで激辛商品であることを知っていたのによく店名を確認しなかったのが仇に出た。

温かいのみものはヒリヒリする舌を悪化させる気がして、冷たい飲み物を入れて早くこの辛味から逃れられるようにとちびちび飲み込んでいると、再びトントンと台所の方の窓が叩かれ、飲み物を持っていた手が硬直した。台所の方に目を向けると、そこには人影が立っていて、いつもは窓を開ける前に消えてしまうのに今日は私が台所にいないのが分かっているのか再びトントンとノックされる。

ゆっくりと立ち上がり、窓の方へ向かおうとした時に、脳裏で土方さんの警告が響いた。

『次にノックされても出るんじゃねぇぞ』

そう言った時の土方さんの瞳は真剣で、私は足を止めると、携帯を取り出して土方さんにメールを打つことにした。

震える手で押すものだからいつもの倍は時間がかかり、もどかしさと苛立ちに更に携帯を押すスピードが遅くなる。どうしようと思いつつ携帯を持ち換えようとした時、慌てたせいで携帯を取り落とし、床に音を立てて転がった時まるでこの世の終わりのように世界が止まって感じた。

ああ、どうしよう。これでいるのがバレた。
玄関から逃げようにも、手練れの人間だとしたらあっという間に追いつかれてしまう。
恐怖に後退ると後ろにテーブルがあるのを忘れてバランスを崩して尻もちをついてしまった。
小さな悲鳴を上げて打った腰を擦りながら、起き上がろうと手をつくと、勝手口のノブががチャンと降りて、心臓がバクンと跳ね上がる。玄関のほうに気を取られていて、肝心な場所の鍵をし忘れていた。

慌てて立ち上がり二階に逃げようかとしたけれど、転んだ拍子に足を軽く捻ったらしく躓いて転んでしまった。
じんじんと今更になって痛む足を手で押さえ、立ち上がろうとした私に、空しく開く扉の音が聞こえて、下駄の音が聞こえてくると、紫色の着物が覗いて、唖然と顔を見上げると知った顔が見えて体から力が抜けた。



「おてんばはいいが、ケガには気をつけろと言ったはずだが」

包帯を私の足首に巻きながら、「今日は安静にしておけよ」と言ったのは高杉さんだった。
何の縁か、たまたま薬師屋に用があったらしい彼と知り合いになった時は知らなかったがこの人も攘夷志士だった。あながち土方さんの予想は外れてはおらず、もし高杉さんじゃなかったとしたら今頃私は死んでいただろう。

「部下に届けさせた箱をおめぇさんが受け取らねぇと聞いて直接渡しに来たら、化け物見たような目を向けられたとあっちゃぁいくら俺でもなァ」

「すみません、最近怖いことが続いていたものですから…ってあの箱高杉さんが置かせたんですか?」

「箱の中に手紙が入っていただろうが」

「いえ、そもそも箱が開かなくて中身までなんて…」

そう言った私に高杉さんは呆れた視線を向けながら、同じ箱を懐から取り出し、今まで上に持ち上げるように開けようとしていた蓋を横にスライドさせた。それを見て目をぱちぱちとさせた私に高杉さんは、私の手を取り箱を手渡すと、包帯を巻き終えた足に靴下まで履かせてくれた。

「クリスマスの礼だ。」

「え?あの時は私もマフラーを頂きましたよ?」

「ありゃ真冬に配達しているサンタをねぎらったもんだ。」

怖い印象の多い高杉さんだけれど、こういうところはすごく律儀な人だと思う。
渡された箱の中を見た私は、なんだか高杉さんらしいなと思いつつ、嬉しくてたまらなかった。

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