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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
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30話 「お正月企画ver.2019」


12月29日。

大晦日の2日前、この間までクリスマス一色だった江戸の町はすっかりお正月に向けた準備に追われていた。
街中を彩っていたイルミネーションは消えて、代わりに鏡餅や正月飾り、飾り熊手などが売りに出されている大通りは今でも人でごった返している。クリスマスもそれなりに賑わいを見せていたが、やはり日本人というべきか正月の方がより一層賑わって見える。

かくいう自分も今年は早めに店仕舞いをして店内や家の中の大掃除に追われていた。

毎日掃除をしていても思わぬところからホコリが出てきて、箒でそれらを掃き出すと次から次へと目について今日はおせち料理を作るにまでは手が回らないようだ。どうせなら徹底的にやろうと家具を動かして掃除し始めたのが仇だったのか、けれど新年から気持ちよく過ごすためには今動かしておくべきだろうとせっせと動いた。


思ったよりも物が少ないせいか早く済んだ大掃除。
年始に御餅と一緒に食べようと思っていた小豆を炊いていたのを思い出してお汁粉にして食べることにする。
今年は年明けに少し実家の方にも顔を出そうかと思っていた時だった。
こつん、こつんと台所のほうの窓が誰かに叩かれるような音がして「はて」と首をかしげる。
知り合いならば裏の玄関が開いているのを知っているし、今は誰もがお正月の準備に向けて忙しない時だというのに。そう思いながら台所の窓をカラカラ、と音を立てて開けるとそこには誰もいなかった。

気のせいかな?と思いつつ窓の下の方をきょろきょろと見ると台所の窓の下の方に置かれた木の箱の上に小さな箱が鎮座しているのが見える。木の箱は自分が置いたものだからそれが今誰かの手で置かれたことはわかる。けれどそんな約束なんてあるはずもないし、そもそも知り合いであるならば玄関のほうから渡してくれるはずである。

何だか気味が悪くなり、開けるべきか開けないべきかと窓越しに箱を見つめながら思案していると裏の玄関の方から元気よく入ってくる女性の声が2つ聞こえ、後で考えようと玄関へと小走りに向かった。

「遊びにきたアル!」

「こんにちは、神楽ちゃん。まだ少し埃っぽいかもしれませんがどうぞ」

訪ねてきたのは神楽ちゃんとお妙さんだった。
2人共クリスマスには残念ながらお会いすることが出来なかった為、遅めのクリスマスパーティーをしようと訪ねてきてくれたらしい。せっかくだからとお汁粉を出すことにして、台所に入ると後ろから続いてやって来たお妙さんが開けっぱなしだった窓に不思議そうな顔をした。

「ああ、先程どなたかが窓を叩かれて、下を見たら箱が置いてあったんです」

「あら…何だか不気味ね」

「ですよね。窓を開けた時には誰もいなかったので、何が入っているのかも分からず仕舞いで」

私が先程していたように窓の下を覗き込んだお妙さんは頬に手を当てて「困ったわねぇ」と呟いた。

「そうだ、こういう時こそ男性陣に開けてもらったらどうかしら?」

「いえ、もし変なもので何かあったら大変ですし後で自分で開けようと」

「あらダメよ。女の子の何かあったらそれこそ大変だわ。銀さんあたり呼んでみましょうよ、どうせ今頃こたつの中で寝転がっているだけでしょうし、お汁粉をぶら下げればすぐに来るわよ」

「いやでも」

「サラ子ちゃんはお汁粉お願いね。ちょっと新ちゃんに連絡して連れてくるように言うわ」

こちらの言う事は耳に届いていないのだか、お妙さんは神楽ちゃんにも「ちょっと出て来るわね」と言って電話機のある廊下の方へと行ってしまう。大ごとにはしたくなかったのだけれど、困ったなと窓の外を見ながらやはりちょっぴり怖くて躊躇してしまう。




「お汁粉が飲めるって聞いたから来たんだけど銀さん」

「そうね。でも働かざるもの食うべからずって言うでしょう?あの箱開けてくれたらお汁粉はもちろん特別にケーキも食べさせてあげるからさっさと開けろや」

「お姉さん、それを世間じゃ脅しって言うんだよ」

胸倉を掴み上げ睨みをきかせるところだけを見れば、カツアゲにしか見えない。
しかしそれをしているのがお妙さんということもあり絵面がすごいことになっている。

「いいからさっさと開けるヨロシ。早くサラ子お手製のおしるこ飲みたいアル」

「じゃあお前が開けろや。さっさと」

「私乙女だから怖いヨ!なんでそんなひどいこと言うの銀ちゃん!」

「あぶね!乙女は殴り掛かったりしないからね!?」

胸倉を掴み上げられながら寸でのところで神楽ちゃんの拳を避けるという運動神経の良さを見せつけている万事屋さん。何だか申し訳ない気持ちになるけれど、お妙さんと神楽ちゃんに何を言っても「いいのそのくらいしか能がないんだから」なんて笑顔で突き返されてしまう。

「箱は後でどうにかしますし、お汁粉とお2人が買ってきてくれたケーキみんなで食べましょう。」

「ほらサラ子もああ言ってる。」

「うふふ、やーね。銀さん。あなたを呼んだのはクリスマスパーティーにあなたを招待する為じゃないのよ?ただちょっと箱を開けてちょうだいなって言っているだけじゃない。それくらいも出来ないのかしら?」

「それくらいってお前ねぇ。そんな怪しさ満点の箱を自分で開けたくねぇから俺を呼んだんじゃ…」

「あ?」

「開けさせていただきます。」

この短期間でお2人の力関係は熟知した。
台所の勝手場のほうから外に出て「わーい嬉しいなぁクリスマスプレゼントだ」なんて棒読みで言いながら腰を下ろした万事屋さんは「開けるぞ?」と私たちのほうを順番に見て頷いた。

つづく
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