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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
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29話 「クリスマス企画 ver.2019」



もっちゃもっちゃ、と音を立て、まるでブラックホールのように山積みになっていた料理を胃袋に収納していく様はやはり何度見たところで慣れることはない。

あの後不本意ながら食事を共にしていた桂は、パトロール中だった真選組に鉢合わせた食事中だった皿を片手にエリザベスを連れてファミレスを出ていった。店員さんは食器の持ち逃げをした桂を追いかけていったが、さすが「逃げの桂」と言われるだけのことはあり、あっという間に見えなくなったと肩を落として呟いているのを聞いて何故だか申し訳ない気持ちになる。

1人と1匹が消えただけだというのに随分静かになった店内で、やっと自身も静かに食事が取れると息を抜いたとき、目の前に最早見慣れた男が座った。厄日だろうか。

「やっぱり地球産のごはんは美味しいネ」

リスのように頬にご飯をためながら、次から次へと皿を空にしていく彼は幸せそうだが、客足が少なくなりゆったりとした空気が流れていた店内はしきりに料理を運んでくる店員で騒がしくなっている。料理を運ぶのが間に合わずに慌てている店員さんに心の中で労わりの声をかける。それから謝罪の言葉も少し。

「なぜ私はあなたと食事をすることになっているのでしょう」

「阿伏兎がはぐれちゃってサ。お腹空いたしその辺探そうかなぁって思ったらお姉さん見つけて、気付いたらお店に入って注文してたんだよネ。ひとり飯とか寂しいしお姉さんも嬉しいでショ」

「はあ…」

嬉しいというよりは、目の前でこの量を食べられていると先程までしっかりとあった食欲が減退していく。
半分以上残ったそれをさてどうしようかとぼんやりしていると「それいらないの?」と言った目の前の青年の腕が返答を待たずにその皿をさらっていった。

もう食べる気はなくなっていたし、無駄になるなら食べてもらった方がいいかと思いつつ、窓の外を見るとクリスマスに賑わう街中で多分目の前の青年を探しているであろう男が走り回っているのが見える。幸せに満ちた顔が歩くその場所ではかなり浮いたその存在に通行人は彼を避けてはヒソヒソと何かを呟き、足早に去っていく。窓から店内を探しながらこちらに向かっている男の目と、カチリと視線が合ったのはその直後だった。



「いやァ、すまねぇな嬢ちゃん。迷惑掛けたか?」

神威の頼んだ料理で埋まったテーブルを脱出し、隣のテーブルに彼を探しに来た阿伏兎と共に腰掛けると、未だに料理を運ぶので忙しい店員さんに「ドリンクバー1つ」を追加するのも申し訳なく感じたのか、それとも飲む元気すらないくらいに疲れ果てているのか、阿伏兎は神威の方を見てげんなりした表情をしながらこちらに謝罪した。

「いえ、こちらは特に。大変ですね」

「まあな…地球に野暮用があって来たんだけど、着いた途端どっかに消えやがって。あのすっとこどっこいが。長旅で疲れ切ってる部下に探させる訳にはいかねぇし、俺が出てきたって訳だ」

「なるほど。何というか、お疲れ様です」

「ありがとうな嬢ちゃん」

やっと向こうのテーブルに運ばれてくる料理が落ち着き、店内が静かになり始めた時、店員を呼びドリンクバーを頼んだところを見るとやはり気を使って頼まなかったのがわかる。見た目に反してかなり周りにも気を配る人らしいことは何度か会ううちに認識してはいたけれど。

テーブルに運ばれていた山積みの料理を食べ終えたのか、阿伏兎の座っている椅子の隣にやってきた神威に阿伏兎はお小言をもらしていたが、素知らぬ顔で流されているのを見て、今度胃腸に効く漢方薬でも渡そうかと思案する。

何だかんだ仲がいいらしい神威と阿伏兎は、メニューを見ながらどれが美味しい、あれは美味しかったなんて話しながらいて、その微笑ましい光景に2人が宇宙海賊なんてことを忘れそうになるけれど、本来自分は2人とは別の世界に生きている人間で、高杉経由がなければ一生関わることなどなかったことを再認識した。

そして、きっとこれ以上近しい関係を築くことはないだろうこともひそかに察した。

「今日は一段と賑わっているみてぇだが、今日は何かあるのかねぇ。子供連れの親子がでけぇ箱持ちながら歩いているのを見かけたが」

「お姉さんの服装もいつもの着物とは全然違うしネ」

「今日はクリスマスなので。」

ファミレスに入る前はまだ大通りはそれなりに人はいたけれど、今は人がまばらになっていた。
クリスマスと言えどこの寒さでは早めに家に帰ったのだろう。

「あーそういや、地球ではそんなイベントごとがあるんだっけなァ。それで嬢ちゃんもそんな恰好なわけか」

「へぇーそのクリスマスって何するイベントなのカナ」

「発祥は宗教上の大切な日、ということですが、ここでは主に1年いい子にしていた子供にサンタさんがプレゼントを配りにくる…というのが主流でしょうか。」

「プレゼントかぁ、いいネ。俺も1年いい子にしてたしきっとサンタってやつが着てプレゼントを置いて行くネ」

「……プレゼントを貰えるのはあれ、子供だけなので。ハイ」

神威が「いい子にしていた」という言葉を聞いて、無意識に阿伏兎を見ると向こうは未だかつて見たことがないくらいの顔であんぐりと口を開けていた。「お前が言う?」そう聞こえてきそうな表情に、きっとこの後苦労するだろう彼を労わり、「子供限定」と付け足すと、あからさまがっかりした顔をした神威に少しだけ安堵した。

(店内で別れた2人に自分もプレゼント配りに戻ろうと会計に立つと先程のお客様から、と言われ阿伏兎の男らしさに感動するのはその何分か後)


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