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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
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28話 「クリスマス企画 ver.2019」





「こんな雪の中をなんて恰好で走ってるんでィ」

キイ、と音を立てて横に止められたパトカーの窓から見えた見知った顔に立ち止まると、窓が少しだけ開けられ、呆れた視線をもらう。今日は忙しいだろうから後回しになっていた真選組の面々に丁度良かったと袋を地面に降ろすと彼の乗っている助手席の後ろの窓が開いてこれまた知った顔が覗いた。

「サンタのコスチュームなんて着て何してんだ?」

「あれ、土方さんさっきまで寒いから窓開けるなって言ってたのにすんなり開けちゃって。もしかして可愛いサンタが見えてそのまま食っちまおうと…」

「バカヤロウ、ガキの前でそんな事言うんじゃねぇ!!」

顔を真っ赤にした土方さんは相変わらず子供だと思っているらしい。
沖田さんも参戦した揉みあいで車内は荒れている。それに運転席に乗っていた山崎さんが止めに入ろうとして右頬を沖田さんに、左頬を土方さんに殴られとばっちりと受けていた。

「コラコラ、トシ、総悟。クリスマスにはしゃぐのも分かるがそんな悪い子に過ごしているとサンタさんからプレゼントもらえないぞ!」

そんな車内に響いたのは、こちらから居るのがわからなかったが近藤さんだった。
失礼だと思いつつ車内を覗き込むと、目が合った近藤さんが親しみやすい笑顔でこちらに手を振った。

「仕事かい?こんな雪の日に大変だねぇ…風邪ひかないようにね。はいこれ俺からの差し入れ」

未だに睨み合いをしている土方さんと沖田さんの間を何でもないように通って私の下へやってきたのは「ホット」と書かれたミルクティーだった。多分車内で飲むように置いていたのだろうそれを返そうとすると断られたそれは行き場を失い、そのまま私の手の中におさまった。

「クリスマスに浮かれた野郎に絡まれねぇように精々気をつけろよ。お前みたいなチビはすぐに目つけられやすからねィ」

いつの間にケンカを終えたのか、こちらを見てにやりと笑った沖田さんに、土方さんが「早めに家に帰れよ」と言って、山崎さんに車を出すように言われた。今から見廻りだろうか、とぼんやりと車の後ろ姿を見送っていると、ハッとして足元にある袋を見てプレゼントを渡すのをすっかり忘れていたことに気が付いた。仕方ない、後で屯所のほうに行って隊士の人に渡してしまおうと、袋を肩にかついで再び走り出した。



マフラーで少し温かくなりはしたけれど、雪の降り続ける江戸は予想以上に冷え込んできている。
今日1日で配り切れるとは思っていないけれど、予想以上に残っている袋を見て、少しだけ休憩を取ろうとファミレスを目指した。店内は予想外に人はおらず、並ぶの覚悟で来たけれどすんなりと席にたどり着くことが出来た。

店員さんにドリンクバーと夕食も一緒に取ろうとハンバーグセットを頼むと、待っている間に窓の外を見ながら頭に乗ったままだったサンタの帽子を取って椅子に置いた。手元にあるホットミルクを口に運ぶと、冷え切っていた体が中から温かくなるのを感じてほっと息をついた。

もうこれから周るにしても、家族団欒を楽しんでいる人もいるだろうし明日にしたほうがいいだろう。
それに今はとにかく、お風呂にでも入って体を温めたかった。

料理が来るのを待っていると、前の席に誰かが座ったのが分かり、席を間違えたのだろうと気にも留めていなかった。けれどその人物はあろうことか、メニューを開いて注文を取り出し、「あれ?」と顔を上げると、いつぞやの黒髪さんが座っていた。確か、万事屋さんのお友達とかいう桂さん。

「奇遇だな。ひとり飯というのも侘しいものだろうから、仕方ない。付き合ってやろうと思ってな」

「いえお気遣いなく」

「なーに!俺との仲じゃないか!遠慮することはない」

「遠慮していません」

桂さんは初対面の時と変わらないマイペースさを見せ、店員さんを呼ぶと「1名様」で入ってきた私と同じテーブルに座っている桂さんと私を交互に見てから、私に「お連れ様ですか?」と耳打ちした。その間にも桂さんは自分勝手にも注文を続けている。店員さんが聞いていないにも関わらず「コーンスープとミネストローネスープが選べるのか。ふむ、クリスマスと言えばミネストローネだが、コーンスープも捨てがたい。どうする?エリザベス」と桂さんが着た時から気になっていた白い生き物に問い掛けていた。

プラカードで「コーンスープがいいです」と返答をしたエリザベスさんというらしい白い生き物に、桂さんは「では俺はミネストローネにしよう、半分こしようなエリザベス」と頷いた。

しかし、店員さんは当然注文を取りに来るより、知り合いなのかを確認を取っていた為注文が耳に入っている訳もなく、困ったように注文票をポケットから出すと申し訳なさそうに謝った。

「あの、すみません。もう一度お願いしてもいいでしょうか?」

「なに?お姉さんは一度注文をした客にもう一度同じことを言えと言うのですか。恥ずかしがり屋のシャイボーイであれば、注文ひとつ取るのにも命がけ。やっと心を奮い立たせ、頑張って注文したことをもう一度しろと?それは純粋な少年の心を傷つけるだけでしかない、そんな事が許される世の中になってしまってもいいのだろうか…」

何かを語りだした桂さんの横で、光の速さでプラカードに文字を書いていくエリザベスさんが先程の注文をあっさりと復唱し、店員さんは喋っている桂さんと関わりたくないのかそそくさと戻っていってしまった。「しかしだな」とまた話し始めた桂さんに手元にあったホットミルクを一口飲むと、じっと前から視線を感じて、顔を上げると、エリザベスさんとかちっと視線が合った。

サッと上がったプラカードを見上げると、書かれていた言葉に苦笑いがこぼれる。


『ご迷惑をお掛けします』
何だか、桂さんの保護者みたいだなぁ。


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