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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
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24話



深夜の歌舞伎町。

街が寝静まった深夜3時。人っ子一人いない道に、一人の青年が歩いていた。青年は人目を気にすることなく大通りを闊歩していくと、慣れたように路地裏から路地裏に、入り組んだ道を歩いていった。そしてやがて見えてきた人影の背後に立ち止まると俯けていた顔を上げて無表情だった顔をにたりとまるで悪人のように歪めて見せた。

「家族揃ってストーカーはイケナイと思うッスよー?」

暗がりにいた人影はその一言に肩を揺らす。
そしてしゃがみ込んでいた体勢から立ち上がり、ゆっくりと後ろを向くと、どこか「若」と似ている男が藤吾を見てから浅くため息を吐いた。

「なーにしてるんスか。お嬢も若ももうお休みになられてるッス」

「歌舞伎町と言えば荒れくれ者しかいないと聞いた。変なものに手を出す前に他に引っ越させろといっただろう。一族の人間が悪事に手を染めたなど」

「あーもう素直じゃなッスねぇ。本当に心配なのは「別」にあるくせに。その年でツンデレッとか誰得なんスか~?それより大旦那が不審者でしょっぴかれるッスよー」

とても20歳過ぎの子供が2人いるとは思えない男性は腕を組み威厳さを醸し出そうとするが、チラリチラリと「薬師屋」と書かれた看板の方を見ているせいかその姿に威厳さを感じることは出来ない。

「私が危惧しているのは、「お家」の存続だけだ。私の代で終わらせるわけにはいかない」

「とか言いながら懐にある「幼い頃の若とお嬢の写真」を見ながらにやけるの止めてくれないッスかねぇ。顔の周りに花や蝶飛ばしていいのは20代までッス」

「年齢で人を差別するべきではない。50代のおじさんが花や蝶を飛ばしたっていいじゃないか」

「にやけているのは否定しないんスねー」

やってることも若と同類ッス、と電柱にしがみついている現当主を冷めた目で見つめる藤吾はもうここ数年で目の前の男に向けた尊敬の念はなくなっていた。

「このころは可愛かった。何に対しても素直で、家に帰るのが楽しみだったのはあの2人が居たからにすぎない。」

「大旦那…」

「どうして、こうなってしまったのだろうな。あの頃はまだ、「家族」であれたのに」

くしゃりと写真を持つ手に力がこもる。
男の目には薄っすらと涙が見え、その背中からは後悔の念があふれ出す。
藤吾はそんな男の背中を見つめ、困ったように天を仰ぎ、人差し指で頬をかいた。

「それはッスねぇ…」

言いよどむように顔を歪ませ、天を見ていた視線を男に落とすと、見ている者を安心させるような優しい笑顔を向けた。



「どう考えてもアンタのせいッスね!」

「そこは「大旦那のせいじゃない」というところじゃないのか?」

「いえ、アンタのせいッス!」

輝かしいほどの笑顔で言われた男は、引きつった顔を藤吾に向けながらも、がっくりと俯いてため息を吐いた。確かにそうだ、自分のせいだ。あの頃の自分はどうかしていたのかもしれない。前当主、つまり自分の父親から、「息子を一人前に育て上げろ」と言われた時、自分が子供だった時にされて苦痛に感じた事をぶつけるように息子に同じことをした。今ではわかる、あれが過ちだったことを。息子が後継ぎになることに不安を感じた訳ではない、むしろ期待しすぎた結果だった。

「私の息子と娘は、優秀な薬師屋になれる。それは私の贔屓目を覗いてしても、そうだと言い切れる。私は先代から受け継いだものをただ提供し続けてきただけであって、あの2人のように利用者ひとりひとりに合わせたものを作ろうとはしてこなかった。」

だからこそ、今持っているすべてを受け継ぎたいと思った。その気持ちをほんの少しでも伝えきれていれば、娘は出ていかずに、息子は心を閉ざさずに妹と仲良く過ごせていたかもしれないのに。

「私があの2人の仲を引き裂いた」

あの日、廊下を歩いている時に、少し先の廊下に居た息子が何かを見つめているのに気が付いた。
視線の先を追ってみれば庭先にいた娘が同じように息子を見つめて眉を下げているのが見えた。あの時は特に気にせずにその場を去ったが、あの時の息子の表情は確かに「異様」だった。

「まあ、若とお嬢なら大丈夫ッスよ。ちゃんと和解もして一緒にいれなかった時間を埋めるように話し込んでたッスから。反動でシスコンに拍車がかかったッスけど。兄というよりストーカーッスねぇ、電柱にへばりついて妹のこと見てたッス」

「はは、シスコンか。そうかそうか。昔から妹に優しい子だと思ってはいたが、シスコンか」

「急に闇落ちすんのやめてほしいッス。」

「今ものすごーく、アイツを当主に据えていいものかと不安になった」

「あははは、面白いこと言うッスねェ大旦那も。今のアンタも十分不審者ッス。この家族は何スか?悪魔に全員ツンデレストーカーになるように呪いでも掛けられてるんスかねぇ。」

「はは、父子揃ってか。随分嫌な呪いを掛けられたものだ」

「父子だけじゃないみたいッスよー?」

藤吾がそう言って視線を大通りを挟んだ向こう側に移すと、反対側の路地裏に同じように電信柱の後ろに隠れながら何故か両手に木の枝を持ち、「木」のふりをしながら「薬師屋」を見つめている女の姿が見えた。

「たとえ始まりは「政略結婚」だったとしても、長年連れ添えば芽生える愛もあるんじゃないッスか?現にアンタら親子そっくりッス。…お嬢にはああいうことしないように教えないと」

「夜な夜な出掛けるもんだから、何をしているかと思えば」

「揃いも揃ってなーにしてるんスかね」

「本当にな」


(おーいそこの怪しい3人。どっからどう見ても不審者なんで署まで来てもらおうか)

(私は怪しい者ではない)

(どっからどう見ても怪しいッスよ俺ら。大奥様も何か言ってくださいッス)

(私は木よ)

(あはは、ダメだこりゃ)
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