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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
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20話



「………」

「………」

「あのさー、お宅らに何があったのかとかこの際聞かねぇけど。無言でいるのやめてくんないかね。お見合い会場じゃねぇんだよ。シャイか?おーい聞いてる?もしもーし。それよりあれだ、頭いてぇから二日酔い止めくんね?」

「万事屋さん。少し黙っていてもらえますか」

「俺が黙ってたら日が暮れるまで続くだろうがこの沈黙ぅぅぅぅ!?頭いた!とりあえず二日酔い止めくれやぁぁ!」

頭痛いのであれば安静にしてればいいのでは?なんてツッコミを入れる余裕もなく。
ただただもう関わらないだろうと思っていた兄が目の前にいることが、不思議でならない。
なぜ今更私の目の前に来ようとも思ったのか、なぜ今更。
一度も絡むことのない兄との視線が、もどかしくて、そのもどかしさがイラつきに変わっていき、私は着物の裾を握りしめた。



事の発端は、今朝玄関前に立っていた万事屋さんからだった。

「さえ子ちゅあああん!」

「は?殴っていいですか?」

「いや、うん、聞く前に殴ってるよね!?」

早朝、今日は山に薬草でも取りに行こうと準備していれば開けた玄関から飛び込んできたのは万事屋さん。
さえ子って誰ださえ子って。彼女か?彼女なのか?女性関係なんて興味ないから早く帰れ。私には朝の平穏を守ることのほうが大事だ。酔っ払いにそんなこと言ったところで更に絡まれるのは目に見えている、こちらに入ってこようとした万事屋さんを挟む勢いで玄関を閉めると案の定こちらに足のつま先だけ入っていた万事屋さんが足の親指を挟んでシャウトした。

朝から機嫌が良かったというのに今はもう急降下、それもこれも万事屋さんのせい。
足元でゴロゴロとのたうち回り恨み言を言ってくる万事屋さんを呆れた目で見つめていると、やがて疲れたのかそのまま眠ってしまった万事屋さんを外で寝られても迷惑なので、足を持ち上げて玄関の中まで引きずってから玄関の鍵を閉める。引きずった時に段差でゴンゴンとぶつけていたが大丈夫だと思う。唸っていたけど、多分。唸るくらい元気なら大丈夫。本当は帰ってもらいたいが、どうせ起こしても帰らないだろうから、留守番でもしてもらおう。
そう思い玄関の土間に転がっている万事屋さんを確認して玄関を閉めようとした時だった。

「お前うちの妹とどういう関係だコラァァァ!?」

ずっと電柱の影からこちらを見ていただけの兄がそう言いながら私に飛び蹴りをくらわせたのは。
もちろん、体術なんてものを会得していない私はそのままの勢いでゴミ箱にシュートした。
向こう方で藤吾さんの悲鳴が響いた。



「すいません、お嬢。その、若もお嬢を心配してきただけで来ただけなんです。決してそのお嬢に飛び蹴りを食らわせにきたとかじゃないんで、睨まないでいただけると…」

「睨んでいません。通常装備です」

藤吾さんはそれに「あはは相変わらずで」と苦笑いを浮かべるとチラリと隣にいる兄を見た。
藤吾さんはきっと、幼い頃から私と兄の間にある決して相容れない空気を知っているから、いつだってその空気を少しでも和ませようとおちゃらけていた。けれど、きっともうそんなんじゃ私たちの仲は良くならないことも知っている。
兄の方を見ると先程のことで気まずさを感じているのか、目が合うと逸らされ、視線を感じて見るとまた逸らされを繰り返している。

「あーっと…そろそろお暇しましょうか、若。お嬢もお出掛けされるところでしょうし」

再び気を使い声を上げた藤吾さんに「すみません、お見送りを」と言うと笑顔でやんわりと断られてしまった。
兄はそんな藤吾さんに何か耳打ちされると、何かを言い返そうとした口を、開いたり閉じたりを繰り返したのちに、ゆっくりと閉ざして結局何も言わずに立ち上がった。

「それじゃ、お嬢。また」

「はい。お気をつけて、藤吾さん…兄上も」

チラリと振り向いた兄は、また私と目線が合うと逸らしてしまう。
それに胸の奥が鈍く痛んだ気がした。

「なんだ、もう帰るの。それにしてもなにお前「お嬢」なの?見た目は普通、中身はお嬢?そんな感じ?ギャップ狙った感じ?真実はひとつですかコノヤロー」

二日酔い止めを飲み干しながら台所から戻ってきた万事屋さんはいつものように軽い口調に戻っていた。
あれは少しずつ飲むものであってあんな銭湯で牛乳を飲むように腰に手を当ててラッパ飲みするものじゃないのだけれど。案の定苦みの強い薬に「うげぇ」と顔をしかめながら「これイチゴ牛乳味にならないの?」と文句まで付けてきた。

「良薬は口に苦しですよ。薬は必要な時にだけ飲むものです、美味しくないくらいがいいんです」

「そうは言っても銀さん苦いの苦手だしさ。わかってよサラ子ちゃん」

今から山に登ったところで大した収穫は得られないだろう。
そう思って立ち上がった時だった。

「さっきから聞いてりゃ、うちの妹に変なあだ名つけて馴れ馴れしくしてんじゃねぇぞテンパァ!?」

「え、なに盗み聞き?」

ドドドドと走る音が聞こえ、玄関に行ったはずの兄が戻って来るなり、私に飛び蹴りを食らわせた。(2度目)


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