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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
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7話


「サーラ―子!サーラ―子!」

あの日以来、なぜか私の家を訪ねてくるかたが増えました。
増えたと言っても今家の外で私の(勝手につけられた)名前を呼んでいるあの人だけなのですが、休みの日も構わずにああして外で叫ばれると他人のふりをしたくなるというか時々反抗的な行動を取ってしまいたくもなるのです。今日は久方振りに取れた休みなので特にそっとしておいてほしいのです。

「あれ?居ないのかな。サラ子―、居るのは分かってるアル。さっさと観念して出てくるヨロシ」

居ないと思いつつ居るのは分かっているって何でしょうか。観念って私はどこかの犯罪者ですか。
せっかくの午後のティータイムの時間を崩したくはありませんがこれ以上無視するとご近所迷惑になってしまいますね。それだけは回避しなければ。重い腰を上げつつ玄関の方へ行くと彼女の傘がクルクルと回るのが見えてそちらに歩み寄った。

「こんにちは神楽さん、出来ればお店のほうが閉まっている時は玄関に来て下さるとうれしいです」

「サラ子、今起きたアルか?だらしないアル。私が遊びに来てやったんだからもてなせヨ」

「私の話は受け入れてもらえたのでしょうか。そして何故ふんぞり返るのですか。取り合えず上がってください、お茶くらいは出しますよ」

毎度ながらこれだけの視線を集めながら平然と大声を出せるのは彼女くらいなのではないかと感じてしまいます。目が合ったお向かいの和菓子屋さんに会釈すると、最近毎日と言っていいほど恒例になってきたせいで温かい目をもらってしまった。

やはり神楽さんには後程きちんとお伝えしなければなりませんね。
一度野草を取りに森へ入った日も来られて名前を呼んできたと和菓子屋の旦那さんに聞いたので、そろそろ苦情が入るのではないかと不安で夜も眠れません。

おかげで私の名前を「サラ子」だと認識されご近所の奥様方にそう呼ばれているようですし。

「しょうがないアルな、じゃあケーキだけでもごちそうになっていくアル」

「そんな洒落たものありませんから出せませんよ。お煎餅くらいならありますが」

「チャラついたお煎餅には興味ないアル。醤油味のしょっぱいお煎餅と渋いお茶がいいネ」

「お茶とお煎餅食べたら帰ってくださいね、今日はゆっくりしたい気分なので」

「わかったヨ、門限の18時までには帰るネ」

「その門限までは居座る気なんですね」

何がこう彼女の心を掴んだのか、我が家のようにくつろいでいる神楽さんは私が仕事で店番に出ている時でも時折いらしてはこうして寝そべっている。何の変哲もないただの日本家屋だというのに、彼女は居間に敷かれた畳が随分と珍しく感じるらしい。

万事屋さんには畳はないのだろうか。居間しか見たことがないがフローリングの上に布団を敷いて眠るのは少し痛そうだ。

「サラ子、渡る世間はババアばかり好きアルか!?」

居間のほうに居たはずの神楽さんが台所の方に飛び込んでくるなり私の顔面に押し付けた多分DVDケースであろうものを右手で退けるとキラキラした目でDVDを見つめていた。

「ええ、まぁ好きな方かと。神楽さんも好きなんですね」

「ウン!最終回終わっちゃってピ●子ロスヨ…見ていいアルか!?」

「ええ、構いませんよ。テレビ台の下にDVDプレイヤーがあるので…って聞いちゃいない」

話の途中で走り出した神楽さんは余程渡る世間はババアばかりが好きらしい。
お店に来るお客さんにあまりに「あれ見た?あのえ●りが」なんて話を振られることが多くて買ってしまったのだが、最終回が終わった今でも熱烈なファンは多いらしい。

煎餅とお茶をお盆に乗せて居間に入ると、テレビに釘付けの神楽さんの手元にお盆を置くと一瞥もしないまま器用にお煎餅とお茶を手に取りテレビを見つめている。今日は静かにテレビを見ているらしい。それならと私もお茶を飲みながらのんびりすることにした。

たまにはこんな休日もいいかもしれない。たまにはだが。



「で、なぜあなたまで」

「いいじゃねぇか、1人も2人も変わらねぇだろ。俺あの最終回見逃してんだわ」

次の日、お店の品出しをしている最中に入ってきたのは、万事屋さん。
どうやら昨日宣言通り17時55分まで粘って門限ギリギリに駆け出していった彼女は扉を蹴破りながら帰宅したらしいというのを後日談で聞いた。その時は確かうちで遊んでいたとしか聞いていなかったらしく「神楽の野郎、門限過ぎたら明日おやつ抜きって言ったから玄関吹き飛ばして帰ってきやがって」とここで愚痴をこぼして終わったはずだったが。その吹き飛んだ玄関が新八君にクリーンヒットして彼が病院送りになった話は、彼が無事であったという報告だけでここでは割愛しようと思う。

「お貸ししますのでお帰り下さい」

「冷た!極寒かよ、銀さんはそんな冷徹な目より笑顔が素敵なサラ子のほうがいいと思うぞ」

「あなたにそんな笑顔見せたことありませんよ」

「今のは「や、やだ銀さんったら!むねきゅん!」ってなるところでしょーが!」

「お帰り下さい」

帰れと言うのにすっかり上がる気なのかブーツを脱ぎ始めた万事屋さん。
こうなったら意地でもDVDを見るまで帰らないだろう、仕方ないと居間に通すとDVDをセットした。

「終わったら止めて帰ってくださいね」

「おー」

これは確か拡大版、2時間半で終わる回だった。
となると閉店の頃には帰ってくれるだろう。
そう思って仕事に戻った私は、お店を閉めて戻った居間で1話から見直している万事屋さんの後頭部目掛けて思わず飛び蹴りをかました。

(お前あれか!?口より手が出るタイプゥ?!)
(すみません間違えました)
(間違えたって顔じゃないよね、もう一発かましてやろうかって目だよね)


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