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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
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1話


1月某日。

歌舞伎町は例年を大きく上回るほどの大寒波が訪れていた。
出掛けるのも億劫で、出来るならば買い物など後回しにしたかったが家の冷蔵庫にはこの冬をしのげるだけの食糧などは残っておらずじゃんけんで負けてしまった銀時は泣く泣く冬の歌舞伎町をひとり寂しく歩いていた。

「雪降る前はあんなに食糧あったのによぉ、どこ行っちまったんだよ。家出か?家出ですかコノヤロー。いや、神楽がこっそり食ってたのか。アイツの今日のおやつ抜いてやろうかな」

この場に本人が居たのならきっと「おやつなんて貰ってないアル」なんて言われそうな独り言を喋りながら歩いていると近くから「おーいおーい」と誰かの呼ぶ声がした。

「あ?誰だよこんな寒い時に呼び止めやがるのはよォ。言っとくけど銀さんさっきの買い物で有り金はたいたからお金貸して―とか無理だかんね。他当たってくれる?」

振り向いた先にいるであろう「誰か」にそう答えながら後ろを向くと、そこには誰もおらず重みに耐えきれず落ちた雪が舞っただけだった。

「…あーハイハイ、後ろかと思ったけど横か。すまねぇなこの吹雪じゃどっから話しかけられてんだかわからなくて…」

右を向いても誰もいない。

「あーそういう感じ?あーね?あーね?分かってたって、左だろ?うんうん。分かってたんだけどね?一応確認で右を見ただけでさ。ほら学校で「右見てー左見てー」って教わったから、銀さん律儀に生きる男だから一応ね」

左を見てもいるのは酔っぱらって雪の上で倒れている男だけ。
しかし先程の声からしてあの男である可能性は極めて低いというかあり得ないだろう。
あの男がク●ちゃんあたりだったらワンチャンあるかもしれないが。よしそれに掛けよう、あのおじさんはきっと起き上がったらあの3人組のなんちゃらサーカス団のひとりだった奴みたいな高い声を出すんだ、うん。そんで声掛けたけど眠くて寝たんだ。そうだよな。
そんな幽霊なんてあるわけそんなぁ。

青ざめた顔を隠しきれずに「そ、そろそろ帰ろっかなァ~?家で子供たちがお腹を減らしてまってるかもしれねぇし?いやぁ忙しい」と早歩きで歩き出そうとした銀時だったが、上から伸びてきた腕がむんずっと彼の髪を掴んだことで動きが止まった。

「え?何か掴まれてね?銀さんのチャームポイントなんかに引っかかってね?いやいやいやでも誰もいなかったし、前後左右どこにもいなかったし、……いやいやいやァ!?」

もしかしたら上?とも思ったがそんな登るようなとこはここにはない。

「じゃあなんだ、今この髪を掴んでいるのはなんだ?ゆ…いやいやいやァ!?ゆゆゆ幽霊なんてそんなまさか、今は冬だぜ!?幽霊は冬だから幽霊の出る時期じゃねぇだろ、シフト入ってないだろうが。きっとそう冬場に幽霊のシフト入れたら厚生労●省に訴えられるよ絶対、ブラック企業にされるよォォォ!?だから銀さんを離してェェェ!!」

「さっきから騒がしい人ですね、幽霊ではないのでゆっくりと上を向いていただけませんかね」

「幽霊はみいいいんな自分は幽霊じゃねぇって言って誘うんだよォォ!そうやって生者を油断させてあの世に連れ去ろうとすんだよお前ら幽霊はァ!」

「どこの詐欺師ですかそれ。いい加減上を向いてください」

ゴキッ、と音が鳴るくらいに強引に頭を上に向かされた銀時の目に映ったのは神楽よりも随分と幼い身なりの少女。黒い髪はだらんと重力により下に垂れていて、髪と同じく黒い瞳はどこか自分と同じくらいに死んで見えた。

よくよく見ると少女の着物の一部が屋根の縁の部分に引っかかり宙ぶらりん状態である少女を目に止めた銀時は先程までの怖がりはどこへやら。少女の瞳をじっと見ながらいつもの死んだ瞳で彼女をじろじろ見つめてから呆れた顔で呟いた。

「新手のスリ?」



「助かりました、誰もあの道は通らなくて話し掛けると走って行ってしまったので自分はあのまま生涯を終えるのかと絶望に打ちひしがれていました」

「誰もあんなとこに生きた人間がぶら下がってるとは思わねぇからな。感謝しろよ、あと銀さんにいきなりかかと落とし食らわせたことも謝罪してもらおうか」

無事屋根から降りた少女は、体操選手ばりの綺麗なバランスで地面に着地したのだが彼女の怒りのかかと落としを頭に受けた銀時が地面に伏せた。
地面から起き上がった銀時が雪の降り積もる中で話すのもなんだと言って、少女をファミレスまで連れてきたのはついさっき。

「寒い」と言いながらパフェを頼む銀時に少女は覇気のない瞳のままメニューを見つめてホットドリンクを1つだけ注文した。

「いきなり胸に手を当てられたので怒りでつい。おかげでかかと落としの反動であなた目掛けて落ちて頭突きも出来たのでまぁ、結果オーライです」

「どこが結果オーライ?自分のストレスを発散できてオーライ?どこも丸く収まってないからね。どっちかというと被害者が増えた上に銀さんのたんこぶが3段重ねになっただけだから。というかお宅頭突きして無傷って本当に女子?」

「おっとこんなところに大きな蚊が」

「ぶへらァッ!何すんだテメェ!?」

「あなたの顔の大きな蚊が止まっていたので、危なかったですね。死ぬところでしたよ」

「お前に殺されるって意味でか?そりゃ危ないところだったわ。今川の向こうで知らないおばあさんが手振ってたからね。一歩寸前だったから。銀さんが丈夫でよかったね」

「女性の胸に手を当ててあれで済んだのですから感謝した方がいいくらいですよ」

「なに?お宅胸触られたら命奪うの?死神なの?卍解とかしちゃうのかな」

「等価交換はこの世界での鉄則です」

「お前は間違いなくこの世界の住人だな」

「何の話です?」


つづく


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