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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な山の住人たち(後編)⑧

 しばらくすると、ハンクは立ち止まった。
 続けて二人も止まる。
 前を見るとそこには、白く光る球体があった。
 しかし、どこか弱々しかった。
「ここが、コアだ」
「で、どうやって、直すんだ?」
「知らん」
「えっ?」
「だって、オレはコアの幻影であって、本物のオレ自身の幻影ではないから、直し方まで、記憶されてないもん」
「じゃあ、どうやって直すのさ!」
「さぁ? とりあえず、コアに触れてみたら?」
「そんな、危ないこと出来るか!」
「じゃないと、先に進まないだろうが」
「……分かったよ」
 ザグルがコアの前に立った。
 そして、手を触れてみた。
「……」
 ちょっと待った。
「……」
 しばらく待った。
「……」
 頑張って待った。
 何も起こらなかった。
「どうなっているんだよ」
 コアを殴った。
「あれ? 可笑しいな。ここまで、弱くなっているのかなぁ~。つーか、殴るなよ!」
 いつもだったら、なにかが起こると言いたそうだった。
「なんで、そんなことも分からないんだよ!」
「じゃあ、今度は僕が触れてみます」
 ライトが少し手を震わせながら、触れてみた。
「……」
 数秒待った。
「……あっ」
 三人が声を上げた。
 コアの光りが強くなったのだ。
「なんでだ?」
「そうか? ザグルには魔力が無いから……」
 ハンクの言葉にザグルは小石を投げたが、幻影である為、小石は幻影を通り抜け虚しく、床に落ちた。
「失礼だな!」
「失礼なのはどっちだよ。全く」
「痛くないんだからいいだろう?」
「まあ、実体がないからね」
 ハンクが軽く笑った。
 コアの光りが、再び弱くなっていった。
「このままじゃ、いつまで経っても直らないぜ」
「そうだな。ライトの魔力じゃ、直らないことは分かったし」
「ごめんなさい」
「無駄に謝るな」
 ザグルは舌打ちをしていた。
「だって……」
「ああ、もう!」
「仕方無いな」
 二人の掛け合いの間にハンクは次の手を考えていたのだ。
「ザグル剣を出せ?」
「はい?」
「不本意だけど、その剣に術を掛ける」
「なんで、不本意なんだよ!」
 嫌そうにザグルの剣を指した。
「だって、助けること自体がタメにならないからな~」
「いや、この場合タメになるとかならないとかの問題じゃねーだろう」
「うるさいなまあ、嫌がっても先進まないし? その剣に魔力があれば、ザグルも出来るだろう?」
「でも、魔力はコアから出ているだろう? 意味ないんじゃねーの」
「この森の力を少し借りればいいだろう?」
「そんなこと出来るの?」
「楽勝」
「だったら、その力をコアにつぎ込めよ」
「言っただろ魔力はあっても、実体がないから触れることが出来ないって、こいつは直接触れないと直らないから、いつもは自動でやっているけどね。それこそ、森の力を借りて、半永久的ね。でも、たまにはメンテも必要だろう。あいつ、しないからなぁ~」
「あいつって、自分のことだろう?」
「そうでした」
 ハンクは舌を軽く出す。
「ってか、面倒だし、ご都合主義だし」
「いいから始めるぞ。つぎ込んだら、その剣をコアに触れさせるんだ。分かったか?」
「分かりました」
 もう、やる気が全くない。
 最初からないのに、もう上がることが無いくらいやる気が出なかった。
「ライトも、同時に触れてくれ」
「はい」
 ライトはやる気あるようだ。
「んじゃ、始めるか」
 二人は背中に背負っていた剣を抜いた。
 ハンクの剣にはドラゴンの紋章があった。
 ハンクとザグルの剣がクロスする形を取った。
 大きな光りが現れ、ハンクの剣が手から消えてなくなった。
 しばらくすると、ザグルの剣がハンクと同じ形に変化した。
「これって?」
 ザグルは驚いて、思わず声が震えた。
 力が漲る感覚があった。
 それも感じたことのない感覚だ。
「さあ、やれ。とっととやれ」
 いつまでもこの剣の形でいるのが嫌なのだ。
 自分の相棒が人に使われているという、感覚に陥るからだ。
「分かったよ」
 ザグルの剣と、ライトが同時にコアに触れた。
「……あっ!」
 光りは大きくなり、一瞬目が眩むほどだった。
 しかし、すぐに、その光りも収まった。
 その瞬間にコアは規則正しく光り始めた。
 そして、ザグルの剣は元の名も無き剣に戻っていた。
「どうやら、成功したようだな」
 三人は安心していた。
「これで、用のない人が迷い込むことはないんだな」
「まあね」
 ハンクの姿が少しずつ薄くなっていった。
 使命を終えると、すぐにでも消えてしまうプログラムのようだ。
 いつの間にか、剣が元の位置に戻っている。
「もう、時間みたいだな。サンキューな」
「まあな」
「ライト、夢が叶うといいな」
「はい!」
 ライトは魔力を使い、疲れ切って座り込んでいた。
「ザグルもな」
「ああ」
「ところで考えてみたんだけど、なんで、僕たちの名前をし知っているのですか?」
 ライトがハンクに聞く。 
「それは、あいつの意思も少しは繋がっているからね」
「……実は、師匠の意思で直すこと出来るんじゃないの?」
「さあね♪」
 ハンクはその言葉を最後に、光りの結晶となり、すうっと、跡形も無く消えてしまった。
「……ありゃ出来たな」
 ザグルは小石を蹴っ飛ばし、コアに当たった。
 石は跳ね返り、小さくなり虚しい音と共に落ち、コアは何事もないように光りを点していた。
 残った二人は、しばらく無言だった。
「疲れた~」
 始めに話したのは、ライトで座り込んだ。
「そうだな」
 ザグルは大剣を片付ける。
「さて、帰るか」
 手を貸してあげ、ライトを起き上がらせた。
「ありがとうございます」
 ライトは人知れず、コアに別れを告げザグルは無視をした。
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