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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
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剣の少年と愉快な山の住人たち(後編)③

 三十分後……。
 ご飯は食べ終え弁当箱は片づけ終わっていた。
「それにしても大きな剣ですよね」
 食べ終わっても霧が晴れることは無かったので、そのままテントの中にいる状態だった。
 ライトはザグルには理解できない『なんだか、難しい本』を読んでいたし、ザグルは剣の手入れをしている。
 そんな中、ライトがいきなり話したのだ。
「ああ、これ? デカイだけで、なんの名前も無い剣だけど」
「切れ味はどうですか?」
 いつの間にか本を閉じ、剣を見ているのだ。
「最近、切ってないからなぁ」
 と、言うより、切る現場に出くわしていないだけであるが……。
 傭兵業もルミアの一件が久しぶりの仕事だったのだ。
 最も、傭兵らしいことは、なにひとつやっていなかったが……。
 しかし、生活に困ってもアルバイトをすることはなかった。
 理由は、傭兵としてのプライドをいつも持っていたからだ。
 だが、そんな苦しい生活もいつまで出来るか……。
 世の中、お金が全てと言うのも、大人になりつつあるザグルの心変わりだった。
「僕に見せてくれます?」
「構わないけど」
 剣を簡単にライトに渡した。
「へー、いい剣じゃないですか?」
 ライトも軽々と持ち、商人の家系としての目利きが発揮していた。
 荷物を持っている時もそうだったが、ライトは意外と力持ちだ。
「師匠の剣に比べりゃ、まだまだだけど、それなりに使い勝手はいいからな」
「師匠の剣ってあの伝説の?」
「ああ、『ドラゴン・オブ・ソウル』。オレもいつかは、ああいった剣に出くわしたいもんだな」
 ドラゴンの紋章が描かれている大剣で、一説にはドラゴンの魂が封印されている剣だ。
 今でもその剣はハンクが持っているが、使うことは滅多になかった。
 使わなくても強いのだ。
「僕も見たことありますけど、すごい剣ですよね。値段が付けられないくらい」
「それは商人としての見解か?」
「そうですけど?」
「他は?」
「切れ味抜群とかですかね?」
「そういう物じゃなく、戦う道具として聞いているの? なにかないのか?」
「そうですけど、必要ですか?」
「あるだろうが、なんか、すごいオーラを感じるとか、強そうとか使ってみたいとか、なんつうかこう、そう、弟子としての見解をだな」
「だって、僕、商人のスキルがある料理人志望ですもん。そんな見解する方が無理ですよ」
 『確かに』と、ザグルは言葉を詰まらせた。
 ザグルも料理についてなにか聞かれたら、専門じゃないし『美味しい』くらいしか言えないだろう。
 野菜の名前もろくに分からないし……。
 ロベリーのお陰でヤバイキノコなら肌感覚で分かるようになったが、そんな特技は特技として不要だ。
 ザグルの食レポは絶望的に出来ないだろう。
 ライトの剣の意見も専門外だと気がついた。
(にしても、揚げ足取るの上手くねーか?)
 なんか少しムカついていた。
「それにしてもザグルさんって、揚げ足取られやすいですね」
「うっさい、余計なお世話だ」
 今、思ったことを言われたので、余計ムカついた。
 そして、剣を取り上げ、手入れを続けた。

 霧が薄くなったのは、更に、三十分もあとである。
「視界も良くなったし、そろそろ、行くぞ」
 ザグルは簡易テントを片付け、大剣を持ちすぐに出発しようとした。
「えーっ、帰るわけじゃないのですか?」
「当たり前だ。なにしに来たかわかんないじゃんか?」
「そうですけど……」
「破門は嫌だろう」
「嫌です」
「だったら、つべこべ言わない。置いていくぞ」
 ザグルは歩き始めた。
「うぁぁぁん。待って下さい」
 ライトも泣きながら、大きな荷物を持って着いて行った。
 だけど、ザグルの足がすぐに止まった。
「どうしたのですか?」
「なにか、いる」
 前方から物音が聞こえたのだ。
「えっ?」
 ライトも耳をすまして聞いてみた。
 確かになにかが聞こえた。
 草の上を歩く音がする。
「こ、これって……?」
「魔物かもな」
「ひっ、怖いよぉ」
 またも、ザグルにくっついた。
「ああん、離れろ。魔物だったとして戦えないだろうが」
(にしても、最近、このシチュエーション多くないか?)
 最近では、クランに散々くっ付かれたのを思い出したのだ。
 戦闘力に大きな差はあるが、離れるのが大変なのは共通していた。
「だったら、逃げましょうよ」
「逃げようとしても、あんたがオレにくっ付いていたら逃げられないだろうが」
 ライトの思考回路は恐怖で完全にショートしていて、そんなことも考えられないでいた。
 それ程怖かったし、実は、こんな状況になるのは初めてだったのだ。
(やっと分かった。師匠が『迷宮』の心臓部に連れて行こうとしなかった理由)
 師匠もこの状況になるのが、面倒だったようだ。
 面倒ごとを弟子に丸ごと押し付けていたのだ。
(師匠め)
 ザグルは涙目になっていた。
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