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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

疾風の魔法剣士①

 それは、ザグルが生まれる二十年も前の話……。
 ザグルの師匠に当たる少年が、若かった頃の伝説になる前のお話。
 少年もまた、世界を回っていた。
 自分の夢の為に……。

 当時の世界は、まだ、剣と魔法の両立が出来ていた。
 魔法と剣はそれぞれが、それぞれの役目を持っていた。
 しかし、混沌としているのは同じだった。
 なぜなら、『魔物の門(デビルズ・ゲート)』がすでに存在していて、魔物が出入りしていたからだ。
 そこは今も昔も変わらない。
 混沌としている所も……。


 リーク大陸のフクジ砂漠。
 その砂漠は大陸一の広さを誇る。
 しかし、当時も人々の多くが利用する砂漠だった。
 金髪の青い瞳の少年がいる。
 そう、砂漠の真ん中に。
 少年は何か乗り物に乗っている訳でも、馬に乗っている訳でも無い。
 太陽が真上に上がっている所を歩いていた。
 見るからに無謀と呼ぶに相応しい少年である。
 少年は中肉中背で、身長も程よくあった。
 顔はよくも悪くなければ悪くも無い。
 見た目はただの少年だ。
 しかし、少年の背中には大きな剣をぶら下げている。
 これで、砂漠を渡るのだから、やはり無謀だった。
 だが、少年には馬車に乗るお金を持ち合わせていなかったのだ。
 少年はお腹が空き、喉も渇いていた。
 そして、水を飲もうした。
 丸くて大きい水筒を取り出し、口を開け逆さまにした。
 ……何も出なかった。
 水の一滴も何もかも……。
 少年は目の前が暗くなった。
 そして……。
 バタン
 大きい音を立てて……。
 ……倒れた。


 少年が次に目を覚ましたのは、美味しそうな匂いがした時だった。
 起き上がり、キョロキョロと周りを見た。
 そこは家よりもテントに近かった。
 布で出来ていたのだ。
 はっきり言って知らない場所だ。
 しかし、拘束と言う形を取っていなかった。
 布団で寝ていたし、あの大きな剣も近くにあったし、檻にも入っていなかった。
 きっと、いい人に拾われたと、楽天的な事を考えている。
 そのうち少年のお腹の虫が大きく鳴った。
 笑ってしまう程大きな音だった。
 少年は匂いに釣られて、麻布で出来ている、その部屋にある唯一の出入り口から出た。

 そこでは無数のテントが作られ、キャンプを行っていた。
 肉を焼き、野菜を焼き、食事の仕度をしている。
 日が真上だった時に倒れたが、起きた時にはすでに、日は西に傾き、満天の星が輝く夜となっていた。
 焼いている匂いで少年は目が覚めた。
「あっ、お兄ちゃん。目が覚めたの?」
 少年よりも十歳は幼いであろう女の子が話しかけてきた。
「あっ、うん。ここは?」
 視線を合わせて聞いた。
「ここは各地を旅している商人達の集まり」
 黒い瞳が大きくぱっちりとして、とても素直で愛らしい女の子だった。
「へー」
 アルは周りを見回した。
 確かに沢山の人と沢山のテントと、沢山の馬車があった。
 みんな楽しく食事の準備をしていた。
「うん。私、リコ。お兄さんは?」
「オレはハンクだ」
「ハンク? ねえ、ハンクお兄ちゃんはどうして、あんな所で倒れていたの?」
 話す事の好きな、好奇心の塊のような子だった。
 それがまた可愛かった。
 そして、この子がハンクを見つけた張本人である。
「ああ、腹が減っていたし、喉が渇いていたからな」
「でも、馬車に乗ればいいのに……」
 砂漠を渡る為の乗り合い馬車もちゃんとあった。
「いや~。無一文で旅しているから~」
「ふうん。事情はよく分からないけど、困っているみたいだね。じゃあ、食べて行ってよ」
「本当? うれしいな」
 目を輝かせていた。
「うん。みんないい人達だから、きっと大丈夫だと思うよ」
「やったぜ」
 ハンクはリコ以上に幼く、はしゃいでいた。
 リコはそれが楽しいのか無邪気に笑っていた。

 ハンクは出された料理を片っ端から食べていた。
 野菜料理に、麺料理、肉料理と、バランスよく食べていた。
 だが、その量はすでに二人前を超して、三人分にまで手を出しかけている。
「うん、美味しい。お代わり」
 ハンクはお茶碗をリコの母親に渡した。
「はいよ」
 気前よく受け取った。
「でもよかったよね。魔物に食べられる前で」
 近くにはリコもいて、一緒に食事をしていた。
 だが、食べ終わり途中からは楽しそうに見ていた。
 どうやら、ハンクの事を気に入っている様子。
「魔物?」
「うん、近頃出るみたいなの、すっごく、大きくって強くって、もうなん人もの仲間が襲われて、傭兵を雇ってもダメだったみたいで」
「へー」
 食べ物に興味が行っていて、気乗りしない返事をしていた。
 でも、リコは話しをしているだけで、楽しいのか機嫌を悪くする事は無かった。
「お代わりどうぞ」
「ありがとう。おばさん」
 とてもふくよかな人で、ハンクがお代わりしても顔色をひとつ変えなかった。
「ところで、どうしてハンクお兄ちゃんは砂漠を渡ろうとしていたの?」
「それはだな、強くなる為だ。まあ、今は修行の旅しているんだけどな」
「へ~、頑張っているんだね」
「いつまで、そこでタダ飯を食べるつもりだ。坊主」
 リコと母親はよかったが、父親はハンクの存在を許していなかった。
 ハンクよりも体つきがよく、見た目は強そうだった。
 不精髭があるのが何よりも特徴であった。
「えっ、いやー、どーも」
「うちだって、そんな余裕ないんだ。それじゃなくとも化け物騒ぎで……」
 ハンクは愛想笑いを浮かべ、じっと我慢をした。
 リコに聞いたが、父親はこのキャラバンのリーダーだ。
 いつもはいい人だけど、魔物騒ぎでそうとう苛立っているのだ。
 しばらく説教が続き、食事にも手をつけられない位に色々な事を言われた。
「全く近頃の若造は」
 同じ用語が何度も出る。
 この用語はすでに三度も聞いた。
「勇敢と無謀は違うのだぞ」
 これは五度目だ。
 ハンクは大きく欠伸をした。
「緊張感が足りない!」
 やっぱり怒られた。
 リコはその間、母親の手伝いをしていた。
 もうしばらく続くかと思ったが、キャラバン仲間の男が現れ、それは終わった。
「たっ、大変だ。ま、魔物が、砂の中から……」
「またか、全員。今すぐオアシスへ逃げるんだ!」
 父親が指示すると、男はすぐに行動へ移した。
 リコと母親にも緊張が襲う。
 ハンクは立ち上がり大きな剣を持ち、背中にかけた。
「どこに行くの?」
「なーに、飯のお礼だ。恩を仇で返すような人間じゃない。その魔物をやっつけてやる」
 一際、目を輝かせていた。
 この状況を楽しんでいるのだ。
 食べていた時とは違い、とても興味があるのだ。
 『目の前の事を一生懸命にやる』それが、ハンクの信条としている事だった。
「えっ!」
 家族は全員驚いた。
「なに、バカな事を言っている。お前みたいな若造が、早く逃げる準備をしたらどうだ!」
「そうもいかない。せっかくの獲物だ。それに運がいいんだぜ。その辺のへなちょこ傭兵を雇うより、ずっと優秀な人材にめぐり合えて、さて、行くか」
 ハンクは姿を消し、魔物のいるところへと向かった。
 走る速さがあまりに速かったのだ。
 まるで風に乗るかのように……。
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