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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な商人たち①

 人には運がある人と無い人がいる。
 殊、主人公のザグルは運の無い方だろう。
 同じ星の元に運がある人も生まれたはずなのに……。
 世界に神様がいたのなら、きっとそれは超が付く程の気まぐれなのだろう。
 だけど、根強く生き抜く、それがザグルだった。
 自分が不幸だと感じたら、そこで終わりなのだから……。


 ザグルは只今、『ラッキ』砂漠にいた。
 砂漠はやはり広い物。歩きで渡ろうと思えば渡れたが、暑いし広いのではっきり言えば無謀だった。
 だけど、この主人公は……。
(な~んで、歩いているんだ……)
 大きな剣がこの時には恨めしく思った。
 他の荷物もそれなりに持っていたが、特に大剣だ。
 とても重い。
 とても歩きづらい。
 とても体力使う。
 この剣だけで三つも嫌な条件が重なっていた。
(んにゃろう。あのおっさん。オレを馬車からほおり落とす事ねーだろう)
 ザグルは道中お金があったので、砂漠を渡る為に馬車を使ったのだ。
 馬車と言っても馬とラクダを合体させ、ラクダの持久力と、馬の速さを掛け持った動物である。
 だけど、ザグルはその馬車に乗っていない。
 運転手であるおっさんとザグルが喧嘩したのだ。
 原因は剣の有無である。
 おっさんは剣を嫌っていたのだ。
『今時剣かよ。バカだな~』
 嘲笑していた。
『オレはバカじゃねぇ!』
『魔法無しで、なんとかなると思っているのか?』
『なんとかするんだよ!』
 等と他に乗り合わせていた人達を無視して、口論が続いた。
『剣は野蛮で無能な人間が使う』
 最後にはそんな言葉まで言った。
 ザグルは完全に頭にきた。
 最後は小石を数個投げた。
 それが全ての引き金となった。
『お前は、客じゃねー!』
 そう言い、ザグルを砂漠の真ん中に捨てたのだ。
(よりにもよって、太陽が真上に上がっている時に……)
 ザグルは歩いている。
 喉が渇いた。
 水を飲んだ。
 そして、また歩く。
 それの繰り返しだった。
 途中、遠くで馬車が走っているのが見え、ヒッチハイクをしようと剣を振ってアピールしたが、効果が全く現れる事はなく、素通りしていった。
 また、無駄に体力を使った……。
 そして、砂漠の出口が遠く、また歩く。
 水を飲む。
 その内に砂漠は尽きる事は無かったが、水には限度があった。
 底を尽きてしまった。
(ウソだろう……)
 水は汗として流れ、息が切れた。
 砂漠を歩く時、水はあったけど、食べ物はなかった。
 お腹も空いてきた。
 極度の疲労もあり、目眩がしてきた。
 そして……。
 バスッ。
 音と共に、足から倒れた。
 その場所の近くで、多くの馬車が砂埃と共に走ってきた。


 捨てる神があれば、拾う神もある。
 よく言ったものだ。
 ザグルは近くを通りがかった旅の商人の乗る馬車に拾われた。
 そして、急死に一生を得たのだ。
 ザグルの運は最悪に悪くは無かったのだ。
「助かりました」
「いいってことよ」
 体付きがとてもいい、四十代のおばちゃんが、ザグルに水と食べ物を渡していた。
 おばちゃんの名前はリコ。
 家族と数人の仲間で世界のあちこちを渡り、商売をしている。
「しかし、どうして、あんな所で?」
「聞いて下さいよ……」
 ザグルは砂漠での愚痴を言い始めた。
「それは災難だったねぇ」
 真剣に同意していた。
「でしょ?」
 馬が走っていたため揺れてはいたが、上手く水をがぶ飲みした。
 身体の中まで水は浸透して、一気に復活した。
「でも、剣を使うなんて確かに時代遅れよね~」
「あんたも否定しますか?」
「いや、あたしはしないよ。むしろ剣は好きだからね~。剣はマニアには高く売れるから」
「オレの剣は売りませんよ」
 剣を必死に守ろうとした。
 いくら邪魔物扱いしても、いくら名前の無い剣でも、ここは愛剣。みすみす渡したくはない。
「いや~。冗談だよ」
(めちゃ、冗談に聞こえなかったのですが……)
 目は割りと真剣だった。
「でも、好きなのは本当だよ。その大剣を見ていると昔を思い出すよ」
「昔?」
「いやね~。初恋の思い出だよ。そんなの恥ずかしくって話せないわよ」
 屈託なく笑った。
(いや、別に聞きたくはないんですがね)
 聞けば、話してくれそうだった。
「それよりも、リタ。いい加減挨拶したら?」
 リコの背中にくりくりとぱっちりとした、黒い目の女の子が隠れていた。
 そのリタと言う女の子、年齢は十歳くらいで、どうやら人見知りをする子のようだ。
 リコの子供である。
「オレはザグル。君は?」
 とりあえず、女の子に挨拶してみた。
 しかし、効果はなく、もっと後ろに隠れた。
(おいおい……)
 ザグルも手の施しようが無かった。
「全く、誰に似たのかね~。私は、人見知りなんかしなかったのに、いつもこうなんですよ。気にしてないかい?」
 リコは呆れていた。
「ええ」
「そうですか?」
「まあ」
「本当、ごめんなさいね」
「こちらこそ、ありがとうございます」
 礼儀はしっかりと、ザグルが心がけていることの一つで、ザグルは丁寧にお礼を言った。
「そうかい? それならいいんですけどね」
 リコはパンをもう一つ渡した。
「ありがとうございます」
 右手にパン、左手に水を持っている状態だった。
「所で、何処へ行こうとしているだい?」
「ああ、『キャロ』の山です」
「そうかい? だったら近くまで送るわよ。まあ、明日には着くかね~」
「本当ですか? なにからなにまでありがとうございます!」
「但し、こっちにもお願いがあるのだけど、道中、魔物に襲われないように守ってくれないかね」
「はい。お安い御用です」
 ザグルはパンをひとつ平らげた。
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