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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な冒険者たち(前編)①

 リークという大陸がある。
 魔物が暴れ混沌と言う言葉が似合う大陸……。
 人々は虐げられても生き続けた。
 それが、人間の本能だから……。


 主人公ザグルは今、商人の国『ジャガ』にいた。
 この国は大陸で一番賑わっている。
 それは、大陸の中心に位置していたのもあるが、気候が一年を通して過ごしやすい陽気でもあったからだ。
 日中は色々な国から商人が集まって商売をしていた。
 その為、沢山の人が買い物に足を運んでいた。
 夜は夜で闇の商人が店を出し始めるが、旅人や商売人の疲れをとる設備、娯楽が充実していた。
 治安は裏の世界へ行かなければ悪くは無いが、それでも騎士団と自警団の努力の賜物だった。
 ザグルは人ごみを好まないが、知人に会う為にいた。


 知人はイスに座りながら、お腹の底から笑っていた。
「はっはっはっは……。ウケる。ウケるよ」
 ザグルより五歳は年上の青年だった。
 見るからに軟派な顔と、水色の長髪が目立った。
 袖の長いシャツにズボンとラフな格好。
 ザグルは装飾品を好まないが、彼は好きなようで、銀細工の装飾品をあちこちに着けてとてもお洒落だった。
 お洒落が功を奏するのか、女性には結構モテるらしい(完全にザグルの個人的認識より)。
 しかし、彼女はいなかった。
 作らないのか単純に興味が無いのか……。それとも性格に難があって女が近付かないのか……。
 そんな彼の名前はルミア。
 一応本名ではない。
 職業が盗賊な為、ニックネームを使っていたのだ。
 ザグルは本名を知っていたが『ルミア』にしろと、命令されたので、仕方なく呼んでいた。
 ルミアは盗賊の他にも冒険者をやっていて、ジフートでは冒険者となにかの兼業は珍しくなかった。
「笑いすぎだ」
 国の真ん中にある『ライチのランチ』と言うファンタジー世界ではどこにでもありそうな、普通の食堂で二人は食事をしている。
 この店はライチという、人のいいおばちゃんが料理長をする店で、どの料理もおいしいと定評で、お昼時は沢山の人が食べに来る。
 ザグルはふて腐れながらトマトとひき肉のスパゲティを食べていた。
「だってよ。そんなゴブリン見たことないぜ……。一度遭ってみたいな、捕って売るのもいいな」
 職業柄お金に対する執着心と、好奇心は強かった。
 これでも小さいながらも、盗賊の頭もやっている。
 若い割に実力はなかなかあるのだ。
「オレはもう、遭いたくない」
 ザグルは不機嫌な顔をして、この間遭遇した四匹の迷惑ゴブリンについて話していた。
 愚痴のつもりで話したら、意外とウケてしまった。
 考えてみたら、性格を理解しているのだから、こうなる事は予想していたが、突発的に言ってしまったのが間違いだった。
「そんなことを言うなよ」
「だいたい、なに用でオレをこんな所に呼んだんだ?」
 会うだけならこんな人の多い所を選ばない。
 ルミアもザグルの性格を知っていた。
 それを前提としてザグルは聞いているのだ。
「そう、そーだった。なあ、頼み事を……」
「嫌だ」
 言い終わる前に言った。
「古典的なギャグを使うな! つーか、メシを驕ってやってんだ。聞くくらいしろよ!」
 魔法が使えないだけで、なかなか仕事に就けない。
 当たり前のようにお金に困っているのだ。
 だから、こういうお零れは大いにありがたかった。
「分かった。聞いてやる」
 一応と言う感じで聞くことにし、お皿にのっている最後のソーセージを口に入れ、モゴモゴしていた。
 やはり、恩を仇で返すわけにもいかない。
 ザグルにだって、それ位の礼儀はわきまえている。
 ただ、厚く返すか薄く返すかはあったが……。
 ルミアには浅く返す事が多かった。
 ろくな事無い確率の方が高いからだ。
「相変わらず生意気だな。まあ、頼みつーのは他でもない。なあ、一緒に冒険をしようぜ?」
「やっぱりそれか、断る!」
 言いたい事が目に見えていたのだ。
「なんで?」
「やらないって、前から言っているだろう! なんで懲りずに頼む!」
 会う度に言われて続けていた。
「何度も言うようだけど、これでも心配しているんだ。俺はあんたの……。その~むのぉ……。あっ、痛っ!」
 ザグルは足元に転がっていた小石を投げ、ルミアの頭にぶつけた。
「小石をぶつけることはないだろう!」
 ザグルとは正反対の整った髪をいじりながら、頭をさすった。
「だったら、人を無能って言うな! ってか、誘うな!」
 興奮して、木で出来た少し年期のいったテーブルを両方の拳で殴った。
 皿は一瞬空に浮き音を立てて落ちた。
「言っただろう。心配だって、同じ門下の兄弟子としてな……」
「んな時だけ、兄貴面するな! 師匠の所からふらっといなくなって!」
 ザグルが傭兵を志願する前に剣の修練を高名な師匠に教えて貰っていた。
 門下として入った時にすでにいたのがルミアである。
 その師匠は剣術の他にも魔法を教えていて、ルミアは魔法を主に教えて貰っていた。
 将来は魔法使いとして有望視されていたが、何処をどう間違えたのか盗賊をやっている。
 所在が掴めたのは、途中で方向を転換し破門になりはしたが、気が向いたら師匠のもとに遊びに行っていたためだ。
 変人ではあったが、師匠が気難しい人で無かったから出来た事である。
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