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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な魔物たち②

 晴れた空。
 白い雲。
 花と草と木で囲まれた緑。
 草木の真ん中に道が塗装された道が続いていた。
「全く! 体格と魔法違うのかよ! あーあ、せっかくの髪が台無しじゃないか」
 街を出て、その塗装された道を歩いていた。
 炎に燃える前からボサボサだった髪を弄(いじ)っていた。
「普通、あの体格だったら、殴るか、蹴るか、振り回すか、するだろう。あと、ビンタとか?」
 リークではそんな常識通用しないし、その考えこそ非常識だった。
 魔法が簡単に使えるのに、わざわざ、相手のもとへ向かい、捕まえるのも手間だし、身体を武器として使った暴力は、自分の身体を痛める事だってある。
 そんな手間を省くためにも魔法は起用された。
「全く、無駄が多い奴だ」
 ぶつぶつ、文句を言っていると、ザグルの左右斜め前方の木から笑い声が多数聞こえた。
 笑い声とは分かったのだけど、統一性が全く無く、不協和音にしか聞こえなかった。
「なんだ、この無駄な笑いは……?」
「無駄って言うな! もっと、他にあるだろう」
 笑い声はピタッと止まり、ザグルから見て右斜め前から声がした。
「ない」
 簡潔に返した。
 そして、話しかけてきた物体へと向いていた。
 物体は木の陰に姿を隠している。
 ……みたいだけど、実際、あまり太くない木で、体のほとんどの部位がはみ出ていた。
 しかも太陽はその木を照らしている為、見えている部位もはっきりどこだか分かった。
 姿は明らかに人ではなく、茶色い体毛が全身を覆っている。
 『魔物の門(デビルズ・ゲート)』から出てきた魔物である。
 名前はゴブリン。
 大陸のどこにでもいる下級種族だ。
 姿は小柄で醜く頭も悪く、決して強くは無かった。
 複数やっていけば厄介だが、単数であれば魔法を覚えたての子供でも倒せた(小学生でも分かる魔物図鑑より)。
「あるだろう! 『誰だ!』とか?」
 右に二匹、左に二匹いて、その中で向かって左側にいるゴブリンが話している。
 どうやらリーダー格のようだ。
「えっ! そういうのが望みだったの?」
 わざとボケてみる。
「当たり前だろう! 姿隠しているんだから!」
「姿ね~」
 どうしたものかと考えた。
(それにしても、喋るゴブリンか……)
 人の言葉を話す魔物は沢山いたが、ゴブリンが話すのは非常に珍しくサーカスやマニアや金持ちに売ればいい値段がつくだろう。
 だけど、世間から恐れられている魔物だ。
 いつ襲うか分からないし、根本的に頭が悪いし……。
 そもそも、ザグルは傭兵志望であって、冒険者志望で無かったから、捕獲して売るのも不自然だった。
 冒険者は魔物退治から古代遺跡を荒らしたり、珍しい魔物を捕獲したりとなんでもやる職業だ。
 ジフートでは、これと重要人物の警備専門の騎士と、魔物退治が専門の傭兵があった。
 ザグルは単純に、そして手っ取り早く強くなりたかった。
 だから、魔物を倒して経験を稼ぎ、レベルを上げる事の出来る傭兵を選んだのだ。
「参ったな」
 ザグルがあれこれ考えていると……。
「話を聞いているのか?」
 ゴブリンの言葉を無視して、ここはやはりと、ザグルは心を決め、背中に背負い鞘に収めている剣を抜いた。
「おい!」
 今度は叫んだ。
「なんの話しだ?」
「聞いていなかったのか?」
「聞いていなかった」
 人間と魔物は、はなっから敵同士、聞く気なんか無かった。
「聞けよ!」
 ゴブリンの方が突っ込みを入れる。
「いいじゃん。必要ないだろ?」
「我らがまだ登場してないだろう!」
 リーダーゴブリンの気性がどんどん激しくなった。
「しなくていいよ」
 対してザグルは逆に冷静になってきた。
「何故だ?」
「なんか、大変そうだから」
 つまり面倒なのだ。
 ザグルは恐らくだけど、ゴブリンなので雑魚だと思っている相手のために手間を掛けたくなかった。
「だいたい、今から倒すところだし、倒した魔物の名前なんか、しかも名も無きゴブリンの名前なんか、いちいち覚えていられるか、自慢にもならん」
 ゴブリン達に剣を向けた。
 大きいだけの名も無き剣。
 ザグル自身も今は名も無き傭兵だった。
 いつかは名剣を手に入れ、歴史の教科書に載るほどの有名人になろうと考えている。
 その為には、今、目の前にいるゴブリンが明日への糧となった。
「名前、覚えてくれないのか?」
 そんなザグルは野望を胸に秘めていた時、ゴブリンの能天気な声が聞こえた。
「そんな事をする理由はない」
 無愛想に返し、今にでも剣で切りかかろうとした時……。
「わぁぁぁん。横暴だぁぁぁ!」
「じぃぃぃん。人で無しぃぃぃ!」
「びぇぇぇん。なんでぇぇぇ!」
「うぉぉぉん。死んじまよぉぉぉ!」
 大声を上げて泣き始めた。
 それも四匹まとめてである。
 笑い声と同様不協和音が響き渡る。
「へっ?」
 これにはザグルも困った。
 まさか、ここで泣くとは思わなかったのだ。
 これではいつまで経っても切る事は出来なかった。
 魔物でも無防備で泣いていたら切ることが出来なかった。
 それはザグルのポリシーでもあった。
(つーか、そこまで泣くか。しかも、さりげなく酷い事言っているし)
「分かった。名乗っていいから」
 だけど、いつまで経っても話しが進まないので、黙っているのはポリシーに反していた。
「えっ! 本当か?」
 四匹は同時にピタッと泣き止んだ。
 泣き真似だったのだ。
 それを見て罠だと気付き、自身のお人好しを呪ったが、遅かった。
「本当だから、さっさとやってくれ」
 嫌な予感はしたが、今更、駄目だと言えず、ゆっくりと首を縦に振った。
 そして、仕方なく、剣の刃を地面に向け、地面に刺した。
 いつでも攻撃できるよう、心がけていた。
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