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彼が恋する理由

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 中野安樹
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【番外編】星屑のデザート2

あの思いつきから、黙々と準備をしている自分が今は無性に面白い。結局、思いつきから始まったサプライズの準備は、1日がかりとなった。普段ならめんどくさいことは一切しない主義だ。でも、あいつの慌てる顔見たさに、思いっきり凝ったことしてやるのも悪くない。気持ちを伝えるプレッシャーも解消できて一石二鳥だ。思いつきということもあって時間がない。1番のメインを慌てて在庫を問い合わせ、夜の間にネット注文をクリアする。最速で昼頃に到着するなんてなんて便利な世の中になったんだろう。今度は、目的のものを手にいれるために午前中のうちに文房具店をまわり、喫茶店に一日限りの天涯をはりめぐらせておく。店の惨状をみた配達員が一瞬唖然として見えたのは、気のせいではないはずだ。なんだかんだと、バタバタ準備をしていたらちょうど、イイ感じに日も暮れてきた。この間、ようやく聞けた波多野のアドレスをみやる。素直に今度は、躊躇することなく携帯をならせるようになった。自分からのコールに緊張する間もなく、コール2回鳴らしたかいないかわからない早さで、繋がった。

「圭さん?」

どうしたんです?不思議そうな言葉は形になっていなかったが、急な電話に驚いているようだった。もしかしたら、俺の方から電話をかけてくるなんてことはないと、思っていたのかもしれない。小さく、えっと声が聞こえたかとおもったらガチャガチャとものを落としたような雑音が入る。遠くの方で少し声が慌てていたような気がしたが、心配しすぎだろうか?

「店、来いよ……」

絞り出した一言をキチンと言い終わる前に、ガチャンと音がする。合間に弾んだ声で待っててと聞こえた気がした。そんなに家から、店までが遠くないとはいっても、30分くらいはかかる距離に住んでいる。ダッシュしたとしても、まぁ20分ってところか?少しゆったりくつろぐ時間ができたと思った矢先、ガチャンと自転車のブレーキの音がする。いつもよりずいぶんと早い到着に驚いたもののどうやら、急いでかけだして来たようだ。息を切らしてゼイゼイいっている。入り口の呼び鈴がなったと同時に明かりを消し、ほんのりとしたランプに光をともす。サプライズ、うまくいくだろうか?ワクワクする気持ちをグッと抑えて、次の準備にとりかかる。音をたてないようにひっそりと。

「えっ?圭さん?」

急に暗くなったことに驚いた様子の波多野が、天を仰ぐ。不安まじりの声を発したかと思ったらすぐ、声をつまらしたようにほころんだ。なんて、乙女思考なんだと笑ったりしない。いつだって、素直にまっすぐな思いをぶつけてくれる。少し照れ屋な部分が邪魔をするのか、言葉や態度は極端少ないけれど。そんな、圭の気持ちを自分だけが知っていればいいと考えていた。本人も知らない、気持ちを大切に大切に温めていられたらそれだけでいいと……。

「満天の星……」

波多野がすべての言葉を言い終わる前に、大事に包みこむように抱き締められた。すごい、すごい、キレイ。首筋に顔をうめながらそう、呟いた。

「波多野、ほら」

グラスを差し出す。中はフローズンマンゴーとシャンパンのシャーベット。

「これ……」

グラスは、天井の星を救いとった下のように星の光が輝いていている。グラスに反射してシャーベットまで、キラキラ輝いているみたいに見えるのが、不思議だ。

「波多野……」

俺、そう言葉にする前に唇をふさがれてしまった。息が止まるかと思うくらい、深く深く絡み合った。ほどけるころには、シャーベットは溶けてなくなっていて、液体をまた、口移しで飲まされることになった。

「すっごく、キレイです」

耳元でそう、囁いて記憶がなくなってしまうほどの嵐が、再び舞い降りてしまう。クラクラするほどよい酩酊感が体をふんわりつつみ上げているような感覚を作り出す。まるで、満点の星空に抱かれているような、不思議な感覚だった。あぁ、なんか、忘れてる気がするけどまぁいいか。そんな風に思えてしまうくらいだ。ゆらゆら揺れる思考にきっと、重要なことを思い出すちからなんて、ない。早々に手放した思考に、悪態つきながらもそう、言い訳をした。


目が覚めたあと、正直ショックを隠しきれなかった。あんなに努力したのが、水の泡になったからだ。何より、結局自分の気持ちを伝えていないことに、すぐ気がついた。せっかく用意周到に準備して望んだのに言わせてもらえなかった悔しさはきえない。言わなくても伝わるなんて、そんな都合のイイ話は昨今聞かないはずだ。幸せそうに寝ている波多野の頭を衝動的にしばきたおし、昨日の後片付けをさせることに決定した。そうと決まったら、こうしちゃいられない。せっかく用意したグラスを念入りに磨いてもらおうじゃないか。ついでに、大掃除でもやらせるか?

午前4時、きっと波多野は、今日の授業ずっと欠伸ばかりして、生徒にからかわれるに違いないハズだ。ざまあみろ。



【番外編】星屑のデザート2 完
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