ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

イナズマイレブンX -Another episode-

原作: その他 (原作:イナズマイレブン) 作者: ゆりっぺ
目次

炸裂、イナズマ落とし

青い炎に被さった劫火のシュートは、岩壁の右上隅を捉え、1秒の猶予もなく打ち砕いた。またしても、壁山の敗北。しかも今度は搦め手でなく、真っ向勝負での完敗。
愕然とする壁山の左側頭部を掠め、壁の延長線上にあるゴールに向かって、ボールが飛ぶ。ボールを包む炎に焼かれ、壁山のアフロ頭がチリチリと焦げた。

「うおおおおっ!」

円堂が必死に左手を伸ばす。スピード・威力・貫通力。全てが高められた一撃だ、魔神を発現させる時間も、拳に氣を纏う暇もなかった。
それでも黄金の氣を指先に集め、シュートを遮るように突き出した。さしずめ、『ゴッドフィンガー』といったところか。
目金が命名することすらなかった地味な小技は、『爆熱スクリュー』を止めることは出来なかったが、軌道を僅かに変えた。
ガアアアンッ!!と激しい音が木霊する。クロスバーを揺さぶらせ、力を失ったボールが空を彷徨う。
思い切りバーにぶつかった反動で、ゴール前に跳ね返ったボール。セカンドボールを拾われるのを警戒し、三兄弟には厳しいマークがつく。
態勢を崩して転がる円堂だが、仲間達の徹底した守備に安堵の笑みを浮かべる。壁山も茫然と突っ立っている訳では無い。巨体を活かして、誰より早くボールに飛びつき、クリアする。
素早く気持ちを切り替えて、ヘディングしようとしたその時だった。

「クリアはさせないっ!」

豪炎寺も壁山に負けじと飛び上がる。先に飛び上がったのは壁山で、身長が高いのも壁山。
当然、豪炎寺に競り合いを制する力はない。全くの無駄な抵抗。
だが咄嗟に、豪炎寺は壁山の腹を踏み台にした。そしてそれを足場にして、更に飛ぶ。体の上に乗られた重みで、壁山の体が下がる。ボールとの距離が広がる。
逆に豪炎寺は、2段ジャンプすることが出来た。体格差と、時間差。圧倒的不利な条件下で、セカンドボールを拾ったのは豪炎寺の方だった。
彼の瞳は、真っ直ぐ雷門ゴールに向けられている。そしてそこから一切目を離さず、雷を纏った伝説のオーバーヘッドキックが放たれた。

「円堂、先制点は貰ったぞ!『真…イナズマ落とし』ッッッ!!!」

炎ではなく青いイナズマを纏い、右足を振り被る。
そして振り足を戻す反動で、今度は左足を繰り出し、ボールに向かって叩き付ける。
お手本のようなオーバーヘッドだ。ピッチに転がった円堂には、当然防ぐ術はない。
天才ストライカーが放った綺麗なシュートが、バチバチと火花を散らしながらサイドネットに突き刺さった…!!
初代雷門イレブンが生み出した伝説の必殺技が、2代目雷門イレブンを追い詰める。その皮肉に観客の誰もが言葉を失い、続いて均衡を破った天才に賞賛と歓喜の声を上げた。

「き…決まってしまったあああ!!先制したのは木戸川清修・豪炎寺 修也!敵味方の垣根を越えた異色の必殺シュートが、膠着する試合展開に風穴を開けたァ!!」

思わぬ形で雷門の伝説のシュートを目の当たりにした角馬が、興奮と悔しさの入り混じった声で状況を伝える。
フットボールフロンティア野生中戦、自身が初めて『イナズマ落とし』を目にした時の感動と、眼前で起こった悲劇。
本来なら雷門に肩入れしたいところではあるが、豪炎寺のスーパープレーに酔わずにはいられない。彼の口調からは、そんなもどかしさが感じられた。

…だが、審判が吹いた笛は、ゴールを認める物ではなかった。

「おや、どうやら先程のプレーは、ゴールの判定ではないようですね…。」

先程とは一転し、様子を窺うような声色で、フィールドの様子に目を凝らす。
ピッチ上では審判が豪炎寺に近づき、胸ポケットから取り出したカードを高々と掲げたところだった。

「ノーゴール!ノーゴールです!!先程豪炎寺が魅せたスーパーシュートは、無効の判定!そして豪炎寺にはイエローカードが出ました!!」

状況が判明するや否や、大声で要点を強調する。全く中学生ながら、何処まで実況慣れした男なのだろう。
豪炎寺 修也が天才ストライカーならば、角馬 圭太は天才実況といったところか。フットボールフロンティア全国大会をはじめ、高校サッカーやプロの試合でも実況を務める父・王将のDNAは、確かに息子に受け継がれている。
そしてその実況の才能は、圭太の弟・歩も開花させるのだが、それは10年後のお話。

「エキサイトし過ぎたな。わざとではないだろうが、立派な危険行為だ。気を付けなさい。」
「…申し訳ありません。」

必殺技の一環として仲間を踏み台にするのは、味方同士で示し合わせたプレーに当たるので問題ない。だが、競り合いの中で咄嗟に相手選手を踏みつける行為が、非紳士的だと判断されたのだ。
厳しく咎める主審に、深々と頭を下げる。
主審が去った後、豪炎寺は着地に失敗して尻餅を付いている壁山に右手を差し出した。

「すまなかったな、壁山。怪我はないか?」
「は、はい。大丈夫ッス…」

差し出された右手を掴み、壁山が体を起こす。彼の重みによろけるが、何とか豪炎寺は彼の体を引っ張りあげた。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。