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進藤ヒカルが子役になったら〜ヒカル(偶に佐為)のシリアルな逆行記〜

原作: ヒカルの碁 作者: 御影 雫
目次

2話

それはよくあるゴシップ記事が発端となった。

「進藤ヒカル、美少女棋士とお泊まり!!?」

ヒカルが16歳になった頃、よくある品のないタイトルと共に、あかりの頭を撫でている写真と、あかりを家にあげようとしているヒカルの写真が掲載された。

何のことはない。いつもの幼なじみ師弟の日常風景を、三流記者がゴシップ記事に仕立て上げたのだ。

ヒカルの方は特に問題なかった。事務所に事情は聞かれたが、「デビュー前からの幼なじみで、写真に写っているのは親も住んでいる実家だから、やましい事は一切ない。というか人気落ちてギャラのいい仕事なくなるまでは、女の子と付き合う気はない。」の一言で終わった。

事務所としても、事実はどうあれヒカルが否定することが重要であり、ヒカルが否定した以上、人気が落ちる気配がなく、事務所への貢献度ナンバー1のヒカルを咎めることはなかった。

問題はあかりの方だ。小学6年生でプロになり、今やタイトル戦本戦に食い込む若手筆頭棋士となっているあかりだが、マイナーな囲碁界には、タイトル戦でもなければそこまで多くの記者は来ないので、生まれて初めて記者に取り囲まれ、つい余計なことまで話してしまった。「ヒカルは幼なじみで囲碁の師匠です。」と。

常識的に考えて、若手筆頭棋士の師匠が、同い年の俳優な訳がない。また囲碁の仕事を受けたくないヒカルは、仕事場には碁盤や囲碁雑誌等は絶対に持ち込まなかったため、囲碁を指せることすら知られてはいなかった。

結局、棋院側から「記事は事実であり、苦し紛れに言い訳をした。」と取られたあかりは、伝統文化である囲碁のイメージを低下させたとして、2ヶ月の対局出場禁止と減給処分になってしまったのだ。

実家暮らしで金銭的に全く困っておらず、「囲碁をやる一番の目的=強くなりヒカルと対等に打てるようになること」なあかりにとっては、そこまで大きな処分でもなかったため、波風を立てない為にも大人しく処分を受け入れた。

しかし棋士達のあかりに対する辛辣なコメントと、対局出場禁止処分のせいで対局不戦敗となり、来季タイトル戦は全て予選から、昇段規定も当分は満たせなくなってしまう事態にヒカルが切れた。

あかりとの対局に使うワールド囲碁ネットの管理人に相談し、対局のログを送ってもらい、メールの履歴やLINEでの検討チャット、2人の過去のスケジュールと共に弁護士に提出。あかりの両親を説得し、ゴシップ紙と棋院を訴えたのだ。

普段スクープとは一切無縁(囲碁以外興味がないので仕事後即帰宅)かつ穏健派(波風立てずに金稼ぎがモットー)な売れっ子ヒカルが、本気で怒りを示しているため芸能界は大騒ぎになった。

「惚れてるからでは?」と邪推する声もあったが、履歴を見てもやましい点は一切ない、幼なじみ師弟の2人の関係に、裁判所は藤崎親の勝訴を認め、あかりの処分から既に2ヶ月経ってしまっているため、ゴシップ紙と棋院に「慰謝料+棋戦ギャラ損失分合計2000万円の支払い及び、タイトル戦・段位条件での配慮」を命令。

またヒカルがインタビューに対し、「伝統文化を守る棋士たる人間とは思えない下品な発言をしている人が複数人いるが、俺とあかりは断じてそういう関係ではない。そもそも仮に関係があったと仮定した場合でも、二股をかけた訳でも不倫を行った訳でもないのに、何故処分になるのか?棋院や一部の棋士の対応は、彼女のこれまでの努力と女性としての尊厳を踏みにじる、最低の行為であると思っている。」と、正論でがっつり棋院や棋士を批判。

結果として棋院には山のような非難文や取材陣が押し寄せ、逆にスポンサーは逃げ出すという散々な結果になった。

信用度の高い証拠と判決が出てしまっている以上、世間での評価は「棋院=悪」となる。「やましい事はないです」以外反論せずに処分を受け入れたあかりに文句を言おうにも、ヒカルに愚痴が飛ぶとまたメディアを通じて大々的に批判されてしまう。かと言って、ブーメランでヒカルに口撃された棋士達(「緒方」「倉田」等大物含む)への配慮も無視するわけにはいかない。棋院には通夜のような雰囲気が立ち込めるのであった。


「ヒカル君って、囲碁強いの?」

空気が読めない若手お馬鹿タレントの発言に、生放送の現場に緊張が走る。10年間ギャラ1億越えのヒカルは、スポンサー受けも良く、芸能界の中でも影響力が強い。「こいつ嫌い」の一言で、若手タレントの仕事など日干しになるくらいには。

「それを此奴は何考えてんだ?ああいや・・・考える頭なかったね、アンタ。」という視線がお馬鹿タレントに降り注がれる。彼のマネージャーも射殺さんばかりの視線を向けていることだし、おそらく彼は今後、事務所が自主的に生放送出禁にするであろう。

「強いか弱いかで言ったら強いとは思うよ。」

ヒカルはニコニコ笑いながら返事をする。「いい大人が空気も読めないの?」とは思いつつも、元トップ棋士のヒカルには、感情を顔に一切出さないスキルがあるのだ。かつて桑原とかいう盤外戦術ジジイから、散々エグい嫌がらせをされてきたため、この程度のことで動揺することはない。

「プロ棋士の師匠なんでしょ?ヒカル君とプロ棋士との対戦とか番組でやったら盛り上がるだろうね〜。」

「お前のお陰で、現場の空気はどん底まで盛り下がってるけどな。」と、その場にいる全員の考えが一致した。当分の間、彼がテレビに映ることはないだろう。・・・下手をするとこのままクビで、一生無いかも知れない。

「条件次第では受けても良いけど、俺にもメリットが大きい条件じゃなきゃ受けないかなぁ。今でもスケジュールいっぱいいっぱいで、今月休みゼロだし。」

そう。未だに売れっ子継続中のヒカルの休みはほぼゼロ。義務教育中は「学校行かなくて済むなんて最高じゃん!」とか思っていたヒカルも、流石に「せめて月1は休み欲しいよなぁ。トッププロ棋士のときでさえ月5は休みあったぞ。ってか確保させてたぞ。」などと佐為に愚痴っている。

因みに一応中学までは卒業している。1回も授業に行かないまま、子役御用達の学校に名前だけ置いておき、教科書ひととおり読めば通るレベルの、テストのみで卒業させて貰った。まあズルイ気もするが、最低ラインの義務教育なんだから仕方ない。

「条件って?」

「絶対条件はギャラと時期かな。囲碁の対局って本気でやると1試合だけでもかなり体重落ちるし、ドラマの撮影中とかだと体型変わって支障が出る。翌日は仕事も緩めにしないと体力回復できないから、出演料高くなきゃやってられない。それから戦う相手かなぁ。囲碁はプロって一口に言っても実力に幅があるし、わざわざ喧嘩売られた相手に時間をとるなら、一流どころのプロを呼んでもらいたい。出来たら叩き潰しても大丈夫な人だと、尚よし!」

「叩き潰すって怖〜ww」

「俺からすると、あんたの1時間後の方が遥かに怖いけど。あんたの事務所のスタッフ増えてるし、お偉いさん怖い顔してるし・・・。」とは言えないヒカルは、ニコニコスマイルで流したのだった。

生放送終了後、お馬鹿タレントの事務所のお偉いさんが、唯一の長所である整っていた顔面をボコボコに腫れ上がらせたお馬鹿タレントを連れて、謝罪に来たのは言うまでもない。

実は少しキレていたヒカルだったが、絶望的な目をしたお馬鹿タレントと、銀座一流店の高級な差し入れを見て、「お互いそこの阿呆の事は忘れましょう。万一対局依頼が来たとしても私は問題ないですし、御社とは今後も今までと変わらず、仲良くやっていきたいです。」と笑顔で答えたのだった。

ヒカルと満面の笑み(一流のビジネススマイルとも言う)で握手をして帰って行ったお偉いさんだが、実は任侠な方々との繋がりが特に深い方なので、彼がどういう末路を辿ったかは言うまでもないだろう。
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