さんじゅうよんこめ
S「そう言えばもうすぐLの誕生日ですね」
珍しくLと月君が出掛けていた日、そう何気なくつぶやくと、周りも「そう言えば」とカレンダーのほうへ視線を移した。特に公開されている情報の少ないLが、唯一私たちに教えた誕生日。それが嘘か本当のものなのかは定かではないが、ワタリさんはその日に毎年お祝いしていたと話していたから嘘にせよ、その日で問題ないはずだ。
しかし、彼の誕生日は私たち以外は知らない情報だ。
それはLが誕生日を教えてくれた日に他に口外しないようにと釘を刺されたから確かだ。
ということはLはワタリ以外に誕生日を祝ってもらっていないということである。
ハウスに居た時は、この時期はさっぱりと顔を見せることもなくなり部屋に閉じこもっているのか講義でも顔を見ることはない為どうしていたかすら知らない。キラ事件として共に捜査していた時にもそんな素振りも見せていなかったから気付けなかった。
メロ「つまりなんだ、Lって誕生日祝われたことないのか?」
ニア「まぁ、そうなりますね。そもそも祝われたいと思うタイプでもなさそうです」
マット「誕生日祝われて嫌がる人間っているの?」
S「まぁ…特に記念日を重要視していない人なんかは嫌がるのではないでしょうか」
ニア「Lは喜ぶタイプですかね」
ニアの一言に全員沈黙し、喜んでいるLを想像してみるがどうにも別人になってしまうというかLが喜ぶ姿は目に浮かばない。よくても無表情のまま「ケーキですか、ありがとうございます」と言って何でもないいつものケーキ同様に食べてさっさと自分のテリトリーに戻ってしまうだろう。
メロ「そもそも気にも留めてなさそうだしな。やめとくか?」
S「それもそれで、何だか寂しいような気もしますね。知っていながら無視するというのもなんだか心苦しいです」
マット「じゃああれは?ケーキだけ用意してさ、あとはほら」
ニア「知らんぷりですか。それならやらない方が良い気もしますが」
パーティーを開いてもLはたいしてリアクションしないだろうし、かと言って開かずにいると何だか罪悪感がわきそうだ。ジェバンニの時はあんなに盛大にお祝いしたから余計に。お互いいい案が出ず、出れば「それは」と否定しあう中少しだけ重い空気が流れたが、そんな中でSが「ここはいっそ」とつぶやいた。
マット「いっそ?」
S「これ以上にないくらいに盛大にしてやるのはどうでしょう」
メロ「極端だな。盛大にって言ったって別の場所じゃできないからここでだろ?そうしたら結局、Lは1日のほとんどここで過ごしてるんだから「何してるんだ?」ってバレるんじゃないか?」
S「まあ、そうですね。仕事は前日までに押し込んでもらうようにワタリさんに頼みます、あとはあっちのモニタールームをパーティー会場として飾りつけましょう。バレたらのためにハロウィンも混ぜておきます。1人がLの気を引いて、後の残りの人達で飾り付けとケーキの用意とプレゼントの配置をしましょう。」
マット「まあ、最近仕事漬けだったし俺は良いと思うよ。Lの気を引くのは交代制ならまあ」
ニア「そうですね、せっかくだし盛大にするのもいいかもしれません。買い出しなどは」
メロ「俺とマットでいいだろ。アリーさんとニアは普段出かけないから、急にそんな出掛け始めると怪しく思われると思うし、個人のプレゼントだけバラバラに買いに行こうぜ」
マット「メロちゃんやっる~、男前すぎて惚れそう~…ってごめんって!?何も無言で殴ることなんて…」
S「では月君には後で連絡を入れるとして、その作戦で行きましょう」
そうして決まった誕生日会だが、実際準備を始めてみると予想外にLからの探りの目にさらされメロ、ニア、マットは早々に退散してきてしまい、月とSの2人で回すことになっていた。今は月が何か資料をLに見せながら話し込んでいる。時折Lを私たちのいる方とは真逆のほうを向かせると、ちらりとこちらを見て「任せてくれ」と言わんばかりの笑顔に頼もしく思った。
パーティーの準備は着々と進んでいる中、モニター室で一本の電話が鳴った。
びくっと肩を震わせた準備組に、月とLのほうにも着信音が聞こえたのか会話が途切れた。
その場にいた全員が固まり息をすることも忘れたかのように沈黙が支配していた。
その携帯が準備組の誰かのものだったらいいのだが、鳴っているのはワタリがLの仕事用にと用意した名義のものだった。いっそ携帯を切ってしまえとメロが鳴り響いている携帯に手を伸ばした時、「あ、おいL!」と月の慌てる声に、メロがLがこの部屋にたどり着く前に渡してしまえと、携帯を片手に扉の前まで早足で移動すると、メロが部屋を出る前にガチャンと開いた扉はこちら側に押されてくる。それに部屋に漂っていた緊迫感は最高潮に達し、それを肌に感じたメロは何を思ったのか携帯を扉の向こうに向けて全力投球。真っすぐと飛んで行ったそれは見事に顔面キャッチされ、そして部屋にはLが倒れる音が響いた。
万が一Lが部屋に入ってきたらハロウィンのふりをしようと用意していたジャックオランタンが、ニアの手から滑り落ちてむなしい音を立てて床に転がり落ちた。
ニア「メロ…」
メロ「分かってる!焦ったんだ…!」
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。