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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
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じゅうよんこめ


「ロジャーは非常に分かりにくいですが、あれでも子供たちにどう接したらいいか分からず模索中なのです。ですからどうか君が教えてあげてください、子供にはこう接するんだよ、と彼が君たちの手本になるように、君がロジャーのお手本になってあげるんです」

「私が、ロジャーに?」

「人はみな。誰かの生徒であり、誰かの先生であるのですから」

Sの言葉はすとんと私の中に入ってくる。
同じことをシッターやロジャーに言われてもきっと「私はみんなと違うの」なんて思って受け入れられなかったと思う。けれどSの言葉はすんなりと受け入れられた。それはきっと、Sも私と同じ状況下にいて今こうして活躍しているのを目にした存在だからなのだろうか。

私はいつの間にか出来ていた握りこぶしを解き、こくりと頷くとSはにこりと笑って同じように頷いた。
時間にすれば10分程度、でも私の人生においてこの時間は素敵な転機をもたらせた。


* * *

「ロジャー」

リリーの部屋を出て廊下を進むと、待ち構えたかのようにそこにいたロジャーに歩み寄った。

彼は冷たく見えても子供のことを何よりも心配している。子供が嫌いだと公言しているが、嫌いな人間がこうも子供のためにと動いたりするものだろうか。それも頑固者で時間にうるさい彼が、こうして同じ場所で待ち構えているなど。

とんだ天邪鬼を後継人にしたものだと、日本にいるワイミーに心の中で言った。

「リリーはもう大丈夫ですよ。不安定な年頃ですが、きっとこの先自分で色々と考えながら進んでいくでしょう」

「すまないな、S。君には仕事があるというのに」

「気にしないでください。子供の時に、あなたの手を煩わせたお詫びですよ」

そう言うとロジャーは少し驚いた顔をしてから苦笑いをこぼした。彼とて人間だ。苦手なことはあるし、研究者としてやってきたせいで人間付き合いが得意ではない。

それは私とLも相違ないのだ。

それでも、そんな子供相手が苦手であるはずのロジャーがこの施設の後継人を、ワイミーから依頼された彼は断ったっていいというのにそれを受け入れたところから見るに、少なからず彼にだってそれを克服する意思はある。

「相変わらず、子供は苦手ですか?」

「…どうにもこうにも、未だに子供への接し方は分からない。ワイミーのようにはいかないさ。彼は、どの子供たちからも慕われていたからね」

「そうでしたね。Lや私はきっと、ロジャー。あなたに近い立場にあるからこそ、その意見はよくわかりますよ」

「そうだった。君達も随分人嫌いだったな」

廊下を歩きながら彼と話すのを、昔の私が見たら「信じられない!」とでもいうのだろうか。ここに居た時の私は、リリーよりももっと捻くれていただろうから。

そんな仮説の話なんて大嫌いなはずなのに、今はどうなるのかが気になって仕方がなかった。

あんな捻くれ者だった私でも変わったんだ、きっとあの子なら素敵な大人になるだろう。
そう考えると、未来明るい彼女が急に輝いて見えた。

* * *

「S!」

あれから数年後。

日本捜査本部とこのワイミーズハウスの行き来を続けている私のもとへやって着たのは栗色の髪を結わえて、真っ白なレースのエプロンに身を包んだ一人の少女。

少女と形容するにはもうすっかりと大人になった彼女はあの頃の面影を残した顔で、嬉しそうにスカートをはためかせてこちらにやってくる。

私の下へやって着た彼女は少しだけ乱れた呼吸を整えると、私のほうを向いて嬉しそうに笑った。

「ハンナに、もうじきSが来るだろうからって言われて。よかった、間に合って」

「リリー、すっかりお姉さんになりましたね。洗濯物をひっくり返しやってきていた君とは比べ物にならない」

「もう!Sったら意地悪なんだから。あれはSがこうして来てくれるのが嬉しくって…洗濯物が勝手にカゴから飛び出したのよ」

「おや、それは粋のいい洗濯物ですね。」

隣に並んだリリーはすっかり大人になっていて、いつも不安げに下がっていた眉は今は自信に満ち溢れている。

「今回はどのくらいいれるの?みんなSが帰って来るの待ちわびているのよ、ハンナも張り切っているんだから」

「そうですね、2週間はいる予定ですよ。ハンナにはあまり張り切りすぎないように伝えてください、彼女は程々がいいらしい」

前回帰ってきたSを見つけたハンナは焼き立てのパイをいち早くSに届けようとキッチンから飛び出して、丁度同じ時刻に廊下を通りすがったロジャーの顔にパイをぶつけてしまった。

青ざめたハンナは慌てるあまり手に持っていた台拭きでロジャーの顔を拭い、その後はもう仕事どころではなくなっていた。

リリーはハンナの空回りする癖を知っているからこそ、彼女を庇う言葉が見つからずに苦笑いをこぼした。

「では、このまま部屋に行きます。ハンナに時間がある時に紅茶をお願いしておいてください」

「わかりました!」

荷物を抱え直し、S専用に用意された部屋に部屋に向かっていく後ろ姿を見ていたリリーはもう一度彼女の名前を呼ぶと振り向いた彼女に笑顔で言った。

「おかえりなさい、S!」

「…はい、ただいま、リリー」

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