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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
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じゅうにこめ


※時間軸事件が終息してから少し後

静かな廊下を歩いていき、賑やかな中庭から随分離れた一室の前にたどり着いたSは目の前にある扉をノックして部屋主の了承を得てから入室した。

部屋の中は10年ぶりとは思えないくらい、久しぶりであることを忘れてしまう程何も変わらないあの頃のまま。

それは部屋の主であるロジャーがこの部屋の前の主であるワイミーのいた痕跡を崩さないためにしているのか、はたまた他に理由があるのかは彼自身しか分かりえないことだが、私にはそれが好感的に見えたのはやはり私の中でワイミーの存在がそれ程大きいものだからだろうか。

ロジャーは窓から子供たちがいる広場を眺めていた瞳をこちらに向けるとやがて椅子をこちらに向けた。

「お久しぶりですね、ロジャー。お元気でしたか?」

ひたひた、と歩きながらそう言った私にロジャーは座っていた椅子から立ち上がった。
その顔は少しだけ疲れを見せているが、それを見せぬように気丈にふるまう姿は何とも彼らしく、彼自身私が此処に来たあの頃から寸分も変わっていないらしい。

「久しぶりだね、S。急に呼び出してすまなかった。」

「いえ。それで、私に会わせたい子供とは」

「ああ、今案内する」

相変わらずの無愛想ながら、昔よりも他者との接し方に慣れたらしいロジャーは少しだけ曖昧に微笑むと自身の笑みがぎこちなく感じたのかすぐにひとつの咳払いと共に表情を戻してしまった。
私の横を通り過ぎ、扉を開けたロジャーに着いていくように部屋を後にするとロジャーはひとつのため息を落として事の発端を話す。

ワイミー伝いに、ロジャーから要請が来たのはワイミーズハウスに馴染めない少女のことだった。

最初は、大の子供嫌いのロジャーが押し付けてきたのかと顔を顰めたが、どうやらその子供はワイミーも気に掛けている子らしく、私がその子供と関りを持つことはワイミーの願いでもあると付け足されたことに渋々と了承したが、私自身子供が苦手であることはあの頃から寸分も変わらない。

ニアたちと関わるうちに少しだけ克服できた気にもなったが、彼らは他の子供たちよりも大人びていて馴染めただけのようだった。

ロジャーの案内の元、廊下を歩いていると目の前の廊下をこちらに向かって歩いてくる少女がいた。年齢は6歳くらいだろうか、まだこのワイミーズハウスに来てから日も浅いことから周りを見回しながら歩いている。

足取りと彼女の表情から見るに道に迷ったか誰かを探しているかだが、この廊下はロジャーのいる部屋にしか繋がっていないため子供嫌いなロジャーのもとへ向かっている可能性は極めて低い。

子供は廊下にある窓や自身がきた道をしきりに見渡した後、真っすぐにこちらを見ると、隣にいるロジャーのほうを見て一瞬顔を強張らせてから引き返そうとした。

ロジャーのほうを見るどどうやら彼女がそうらしい。

小走りにここから立ち去ろうとする彼女に、ロジャーに後は任せるように言い、少し早歩きで近づくとちらりとこちらを見た、いや正確にはロジャーが自分を追ってこないか見た少女の瞳が驚いた顔でこちらを見た。

「え、えす?…」

「私のことをご存じで?」

「あ、うん、…はい。ここの子達はみんなあなたの話をするの。特に女の子はあなたに憧れてるって言う。あなたがそのSなの?」

「…えぇ、そう伝え聞いているのならそうなのでしょう。少しお話しませんか?」

耳の横の髪をくるりと指に巻き付け、こてりと首をかしげると、未だに視界の奥でこちらの様子を伺っているロジャーと私を交互に見ていた少女が小さく頷くと、2人で彼女の自室へと向かった。


* * *


「へぇ、ここは今君の部屋なのですね。私が卒業する前はこの部屋でした」

「私は最近ここに来たので…少し前まで両隣がニアとメロだったんです」

それにぱちぱちと瞬きをしてから、息を吐いたSは「ああ、あの子達ですか」と納得したように頷く。

2人でベッドの横の床に座り、少し沈黙が続くとやがてSは少しだけ視線を俯けた。ロジャーに最近の私の態度を聞いて怒りに来たのだろうか。

ロジャーとSの関係性は、Sが卒業した随分後に入った私には到底知りようにないけれど、廊下で会った時に一緒にいたということは無関係ではないのだろう。

「ここは君にはあまり馴染みませんか?」

やはりと思った。

やっぱり私がここに馴染めないことで。

そう思うと途端にみんなの憧れているSに対する好奇心や尊敬の念がだんだんと萎んできて、出てくるのはここにいるみんなと違って何の才能もない、何の取柄もない自分への劣等感。

そんな私よりも優秀なみんなが尊敬し、敬愛するSはきっと雲の上の更に上の存在なのだろう。

ロジャーは私が自分を避けているのが分かっていて、Sを呼んだのだろうか。私のために呼んだなんてことはないだろうから、もしかしたら何かのついでに寄らせたのかもしれない。

「もしや、私が説教をしに来たとでも思いましたか?」

想いにふけり、うつむいたままの私の頭上から落ちてきた言葉に私は目を見開いた。まったくもってその通りだったから。

私が黙ったまま頷くと、Sはそれをじっと見つめてから口を開いた。



つづく

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